シーザーとの関係が変わっていく
◇平和な高校生ライフ。
十年ちょっともの間幼馴染として接してきたシーザーとお付き合いすることになった。
…することになった、だなんて言い方はまるで成り行きでそうなってしまった、みたいに聞こえるかもしれないけど、決してそういうわけじゃあない。
そういうわけじゃあなんだけれども…なんというか、未だに実感がわかない。
頭がほわほわして、朝起きてからも、あれ?夢じゃないよね?と何度も頬をつねった。
「…なまえ、今日何度目だ、その顔」
「え」
差し伸べられた手から視線を上げると、ちょっとむすっとしたシーザーの顔。
表ではあまり見られない顔だけど、わたしにとってはそこまで貴重でもない。
だいぶ日が延びたおかげで、学校から帰ろうとしている今この時間も、まだ空は青い。
青い空に、夏服に替わった白いワイシャツ。金糸の髪と、シーザーの白い肌。
とても絵になるはずなのに、その表情だけが芳しくない。
なんと残念なことか。
「なまえがそういう顔をしている時は…困惑してるって時だ。今日だけで俺はその顔を5回も見てるぜ」
「ええ、シーザーそんなこと数えてるの…」
「俺の行動に対していちいちその顔をされたら、嫌でも気になるだろ!スカタン!」
「いてっ」
差し伸べられていた手が素早く動き、わたしのおでこに容赦なくデコピンが食らわせられる。
まぁ、デコピンという時点でそもそも容赦してくれてるんだよなぁ。
「うー…、その顔その顔って言うけど、わたし別に意図して顔芸してるわけじゃないんですケド…」
「そんなことは分かってる。…分かっているから余計に…」
シーザーが言葉の途中で口籠もるのは珍しい。これは、わたしとしても珍しい。
余計に…『気になる』?『腹が立つ』?
…ああ、違う。この顔は…。
「ごめん」
「…何がだ」
「…わたしが、傷つけちゃったんだね」
「…、」
肯定の言葉も否定の言葉もない。これはつまり肯定だ。
シーザーは、隠し事はしても嘘は吐かない。
「でもほんと、暫くは勘弁して!だって、まだ頭が追いついてないっていうか、な、慣れないんだもん…手、繋ぐとか、そういうの…」
小さい頃は手を繋いで遊んだり、なんならお風呂だって一緒に入ったこともある。
でもそれは小さい頃で、友達で、幼馴染としてだった。
周りの人がほっとかないくらいに顔がいいのは認めるけど、小さい頃からずっと見てた顔だ。見慣れてる。
優しいのも知ってるし、実は結構短気なのも知ってる。
でも、恋人としてのシーザーは、知らない。
未知の領域。
緊張するんだよ。しょうがないじゃん。
恥ずかしいんだよ。今までのお互いを知ってるからこそ。
…今更、どういう風にしたらちゃんと女の子できるのかって、考えちゃったりするんだよ。
「その顔は初めてだ」
「え」
「かわいいやつだな、本当に」
人が恥ずかしくて叫んで走り出したい気持ちを必死に抑えているというのに、なんということだ。
段々下がっていた視線をもう一度上げて見れば、シーザーはなんともいえないふにゃっとした笑顔を浮かべていた。
きゅうっと胸が締め付けられる感覚。
シーザーって、こんなにかっこよかったっけ?
こんなにやわっこいような笑顔見たことあったっけ?
知らない。
こんなシーザー、知らない。見たことない。
わたしは今、きっとシーザーのいうところの本日6回目の顔をしているだろう。
そしてまた、家に帰ってから頬をつねることになるんだ。
end
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