カーズからすればそれは何の変哲もない人間だった
◇メリーバッドエンドななまえさん死ネタ注意。
僕は、男として育てられた。
資産家だった親は跡継ぎとして男児がほしかったらしいが、残念ながら生まれたのは女。
それでも第二子が生まれる保証がないために、物心つく前から僕を男として育てたのだという。
刷り込み教育とは恐ろしいもので、一般的な教育機関ではなく個別で教育を受けていた僕は、なんの疑いもなく男物の服に身を包み、身体を鍛え、心も鍛えた。
そしてある日、僕は突然男を『辞めていい』と言われた。
もうキミを縛るものはなにもないんだよ、と。
優しい声色で、僕の10年と数年を全て否定されたのだ。
両親が事故に巻き込まれて死に、しかしその後継たる僕はまだ若すぎた。
だから僕は父親の弟にあたる人の養子となった。
僕の新しい両親は優しい人だ。
多分、自分の欲のためにそのポジションをかって出たわけではないんだろうと思う。
「なまえちゃん、こういう服は嫌いかしら?」
新しい母さんは、そういって時折街で見かける女性のような衣服を買ってきてくれる。
僕は「ありがとうございます」と言って受け取るけれど、どうにも袖を通す気になれないのが本心だ。
かわいらしい、とは思う。しかし、それは端から見ている感想だ。
心に根を張った男としてのプライド、というやつなんだろうか。自分がそれを着るのにはかなりの抵抗がある。
…僕は、いったいなんなのだろう。
性別は間違いなく女であるのに、思考はいつも男としての振る舞いを選択する。
女性に惚れたことはないが、男性に対しては対抗心を抱いてしまう。
「くだらん」
「…え」
今、僕の前でそう吐き捨てた長髪の男性は、僕を誘拐した人物だ。
…いや、正確には“人”…ではないらしい。
僕と同じようにして攫われたらしい人を、どういう仕組みなのかまるで分からないが…吸収、したのだ。
呆然とその光景を眺めていた僕にもやがてその手が伸びてきて、声もあげられないまま、わけも分からないまま…死ぬんだと確信した。
しかし、胸倉を掴まれ引き寄せられたところで、彼は口を開いた。
「…貴様、女か」
薄暗い闇に目が慣れたおかげで、ぐっと近付いたその顔が整ったつくりであると判る。
どこからどう見ても筋骨隆々とした大男だというのに。そして、今まさに自分の命を喰らおうとしている相手だというのに。
率直に…綺麗な顔だ、と思っている自分がいた。
そんな中、なんとか彼の零した言葉に肯定の意を示し、そこからぽつりぽつりと問われるがまま身の上話をした。
その感想として放たれたのが、先の言葉というわけだ。
「お前の親も、そしてお前自身も。このカーズから見れば等しく無力な人間に変わりない。性別など、肉の質に差がある程度の瑣末なことよ」
「そう…ですか…」
彼の言葉に、ああ、やはり彼は人間ではないんだな。と思うと同時に、僕はとても…安心していた。
そうか…等しく人間、か…。
随分と規模の大きい一括りに、僕も漏れなく含まれている。
そう思うと、彼…カーズ、というのが名前だろうか。
カーズの言うとおり、僕の悩みなんか『瑣末なこと』だったと納得できた。
「ありがとう。僕はあなたと話せてよかった」
「これから喰われるというのに、妙なことを言う小娘だ」
「僕を殺すのがあなたでなかったなら、僕は最期までくだらないことで悩んでいたんだ。だから…」
今度は僕の方からカーズに手を伸ばす。
前の人は表面からだんだん引きずり込まれるようにカーズの中へ溶けていった。
きっと、触れ合った部分から吸収できるんだろう。
僕を雁字搦めにしていたものは、もうなにもない。
恐怖すら感じない。
でも、諦めとも少し違う気がする。
言うなれば…そう、神に身を捧げる気分だ。
end
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