メローネより前の人生


◇メローネがギャングになる前の人生の話。の、捏造。
 分類としては悲恋かと思われますので、苦手な方はご注意ください。
 (線引き苦手ですみません…)


自分がギャングになるだなんて、考えたこともなかった。
確かにオレはヤバい薬やなんかをそれと知りつつ運んでいたし、カネを受け取っていた。

それでもそんなものはただの下請け。組織の一員になったつもりはなかった。

だけどそれはこっちの言い分。
あっちやそっちの関係者はそう見ちゃくれなかった。

気づいた時にはもうまともな道なんか残っちゃいなかった。

そんな状況になっても、オレにとってはどっか他人事みたいで、「あーあ」くらいしか言葉が出てこなかった。

自分の居場所のために、ギャングになろうと思った。

だからいざパッショーネの幹部と話をした時も、一風変わったバイトの面接みたいな気分だった。

本当、会社と同じさ。
…どんなチームがあるか。どこのチームに振り分けられるか。
入ってみなきゃ分からない。

『キミには暗殺が向いている』

幹部のおっさんと話してたはずが、どういうわけかいつの間に意識が飛んでたらしい。
前後の記憶が曖昧だが、なんだか凄く痛かったような気がする。
…まるで、腹を貫かれたみてぇに。

実際そんな傷は1ミリもなかったから、きっと夢…だったんだろう。

それこそ何か薬でも盛られたのか。
オレが目を覚ました…あるいは正気になって早々、そう告げられた。

『おいおい、流石に殺人なんか経験ないぜ?』

オレは確かそんなことを言ったが、それは既に決定だったらしい。

なんてこった。自分の身を守るためのはずが、逆にもっと危険にさらす羽目になっちまうなんて。

明日からオレは、名前も住所も生年月日も変わる。

もともといた“オレ”はどうなるんだ。そう聞いたら、こちらで処理しておく。だってさ。
死んだことにされるのか、失踪とか逮捕されたとかそういうことにされるのか。
ともかく世間的にはオレの人生が終わりを迎えるらしいってことは理解できた。

『明日になる頃迎えを出す。準備しておくように』

数時間後の約束。荷造りの時間すらありゃしない。

だからオレはひとつだけ。
たったひとつだけ、行動することにした。



「どうしたの、突然」

所謂、幼馴染。
ガキの頃から家に居場所なんかなかったオレにとっちゃ、むしろ近所だったこのなまえってやつの家の方が余程多くの時間を過ごしていたんじゃないだろうか。

なまえの家に電話をかけて、家にいることを確認してすぐにここへ来た。
なまえは目をぱちくりさせて玄関に立つオレを見上げた。

いつもと様子の違うオレに、どうしたの、ともう一度問いかける。

あの幹部のおっさんと別れてここに来るまで、妙に余所事みたいにぼーっとしてたのに、なまえを目の前にした途端…一気に現実に戻って来た感じがする。

すぐに言葉が出てこなくて、それでもなまえはじっとオレの言葉を待ってくれてた。
…オレがやってきたシゴトのことを、直接なまえに話したことはない。
それでも多分、彼女はなんとなく察していたはずだ。

あいつはヤバいとか、あるだろ。そういう風の噂ってやつ。

だから、いつもの軽口も言わないオレを、こんなにも心配そうな表情をして見てるんだろう。
まぁ、その心配ってのが、彼女自身に向けられたものか、オレに向けてくれているのかは、分からねぇけど。

…もし、オレに向けてくれてたんなら、本当…ちょっとは救われた気になれるかも。
なんて、一応は自分でここまで生きてきたんだ。救われるもクソもあるか。

救われるんじゃねぇだろ。
護るんだろ。
そのために来たんだろ。

引き結んだ唇の内側で、奥歯が軋むほど強く食いしばる。
そしてようやく絞り出した、たった一言。

「引っ越すことにしたんだ」

「…え」

思わず漏れたようななまえの声が。見開かれた目が。
オレに真っ直ぐ突き刺さる。

そりゃあそうだ。
これだけ勿体ぶってなんだそりゃ、って、そうなるわな。

「なまえには…あと、おじさんとおばさんにも世話になったからな。ここくらいは挨拶しとかねぇと、と思ったんだ」

「えっと…引っ越しっていつなの?手伝うこととかあれば行くよ」

「明日なんだ。手伝いは必要ない」

「明日!?」

「はは、急だろ?オレも急に決まったことだから、住所も覚えてないくらいだ」

「なにそれ…仕事の関係なの?それにしたって急すぎるでしょう」

「…そうだな。でも、仕事だから仕方ないんだ」

ああ、そんなあからさまに疑いの眼差しを向けないでくれよ。

一応、嘘は言ってないんだぜ。
仕事だってことも。急きょ引っ越すことになったのも。引っ越し先の住所については、正しくは知らない、だけどな。

「…ねぇ、引っ越しても、たまにはこっちに顔見せに来てよ」

「…」

「もちろん、仕事が落ち着いてからでいいからさ。…待ってるから」

「…ありがとう、なまえ」

ごめんな。
それだけは嘘でも言えないんだ。

言ってしまったら、マジにまたここへ戻ってきちまいそうだから。

きっと、最初で最後なんだ。
オレが誰かを護るのも、誰かを好きになるのも。

軽く抱きしめた細い身体は、まるでオレを引き留めるかのように、思ったよりもきつくオレを抱きしめ返してくるものだから。

思わず、オレの腕にも彼女と同じくらい力が入ってしまう。

なまえの唇が、もう明日からは使われないオレの名前を呼んでいる。
引き寄せすぎて、ほとんどくぐもって聞こえないが。



自分の家にあったパソコンのデータを消去して、水を張ったバスタブに沈める。
写真はなまえと撮ったものしかないから、まとめて切り刻んで火をつける。
とにかくなまえの名前や僅かな情報だけでも見落とさないよう、家の中をひっくり返す。

明日がきたらここがどうなるのか知らないが、自分以外の人間がそれを見ることは許さない。

なまえはオレとは関係ない。
ギャングなんかと、あいつは関係するわけがないんだ。



end




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