承太郎に助けられる


◇3部本編後。花京院は出てきませんが生存院。


「みょうじさん!」

「はい?」

とある土曜の放課後。
お昼何食べようかなぁなんて考えながら靴を履きかえていると、不意に声をかけられた。

声のした方を見やれば、そこには同じクラスの香山くん。
別によく話をするわけでもなければ、委員会が同じというわけでもない。
というか、一応わたしもあの旅のおかげで留年しているから、同じクラスや委員会でも、親しい人は割りと限られている。

「香山くん、なにか用事?」

「えっと、悪いんだけど、少し手伝ってもらいたいことがあって…」

お手伝い、ね。
なるほど、香山くんってやんちゃ系じゃないし、先生とかに何か頼まれたのかな?

わたしは納得して、クラスメイトだし助け合っていきましょう精神で快諾した。


…のだが。


「どうしてこうなった」

ぼやかずにはいられない。

だってそうでしょう?
いったい何処のどういう“お手伝い”で、一介の女子生徒であるわたしが後ろ手に縛られなきゃならないっていうのさ!

腕痛いし、座らされている床は冷たいし、なによりお腹空いたよ!

「どうして?そりゃぁお前が空条 承太郎とつるんでるからだわ」

うお、返事返ってきた!ていうか、聞かれてたのか、うひぃ。

返事なんて一切期待してなかったぼやきに、思いがけない返事が返ってきた。

少し埃っぽくて薄暗い倉庫?の中に、返事をしてくれた人も含め、うちの制服ではない学生服の男子が…ざっと見10人くらい。

ちなみに香山くんはこの人たちとわたしを鉢合わせたと同時に謝りながらエスケープ。
ちくしょう、わたしの助け合っていきましょう精神が、まさかこんな形で助けることになるとは。

ていうか、学生服着てるけど、これマジで高校生?
おっさんじゃん。おっさんにしか見えないじゃん。
もしかして留年生?だったらちょっと親近感。

「つまり、わたしを餌に承太郎を呼び出してみんなで袋叩きにしちゃう作戦ってことっスか」

「察しが良くて助かるぜ」

察しがいいって、そりゃあまぁ。
こんな展開、漫画とかで100回は見たことあるベッタベタなシチュエーションですからね。

…でも、来るかな、承太郎…。

自分でなんとかするだろう、とか思って来なかったりして。

一応わたしも幽波紋使いなわけだけれど、わたしの幽波紋は少し変わっていて、幽波紋同士の戦闘の時しかその力は発揮されない。
つまり、対生物に対しては、幽波紋での攻撃ができないのだ。

さて、承太郎はその事を知っていたっけな…。

少し考えてみるけれど、ダメだ。
お腹が空いてそれどころじゃあない。

「なぁ、あんた、みょうじサンっつったか?」

「え?え、ああ…そう、ですけど」

「あんたさ、JOJOと…なんつったっけな、なよっちい男と、二か月近く失踪してたってマジかよ」

なよっちい男…花京院くんのこと、かな。
むっ、花京院くんは確かに物腰柔らかくて足とか腰とか細いけど、案外喧嘩だって強いんだぞ!

「あー、世間的にはそうなってますね」

頭の中で抗議しながら、変ないちゃもんをつけられない程度に返答してあげる。
まあ本当に世間的に見れば失踪だしね。

「じゃああの噂ってマジなのかよ」

「へえ、可愛い顔して」

「可愛い顔だからじゃねぇの?」

うわお、なんか可愛いって言われた!照れるね!
…て、いや、なんか違う。これは、なんか違う。

数人のおっさ…じゃなかった、不良さんたちがわたしの近くに寄ってきて、なんだか下品な笑いを浮かべている。
噂ってなんだろうか。

首を傾げていると、不良その1がわたしの目の前に屈む。

「なあ、JOJOが来るまで暇だしよ、俺らの相手してくれよ」

「…相手?」

にやにやとしたその表情を見るに、どうやらトランプとか将棋とかの相手ではないようだ。

なんだかよく分からないが、多分ロクなことではないだろう。

「かまととぶってんじゃねぇよ。いつもJOJOとヤってんだろ?」

「…ひっ!」

不良その1が、制服の上からわたしの胸を鷲掴む。

瞬間、わたしは理解した。
この下卑た笑いの意味と、“相手”が示す行為。
そして、詳細は分からないけれど、彼らの言う噂の内容。

「っふ、ざっけんな!!」

「痛ってぇ!」

わたしは、足が縛られていないことをいいことに、不良その1の弁慶の泣き所…つまり脛を、思いっきり蹴り飛ばす。

「このアマ!」

すぐ傍にいた不良その2が殴りかかって来たけれど、あの旅で戦って来た敵と違い、回避するのにさして苦労することはない。

手が縛られているから少しふらついたけれど、なんとか立ち上がる。

「承太郎や花京院くんのこと、知りもしないで変なこと言うな!このド三流!」

「ド三流だぁ…?!」

「当たり前じゃない!タイマンで勝負できないくせに、人質使って優位に立とうなんて、ド三流でも高評化なくらいだと思うけど?!」

「調子こいてんじゃねぇぞコラァ!」

一人、二人、三人。
次々と殴りかかってくる不良たちを避ける。
もう、頑張ればこのまま逃げ出せたりできるかもしれない。

そう思った瞬間、

「う、わ…っ!」

ずるっ

何かを踏んでしまった。
同時に、わたしはバランスを崩し、後ろ側へと倒れこむ。
倒れた先には、運良くなにか柔らかいものが入った袋が山積みされていたため、頭を打つことはなかったけれど。

「ヤバ…っ」

そう、ヤバい。両腕が縛られている今、座った状態ならいざしらず、この体勢から起き上がるのは少し時間がかかる。

だが、今はそれを待ってくれる状態では…ない。

前門の下卑た不良、後門の袋。
逃げる術がない。

なぶられるにしろ、犯されるにしろ、酷い目にあうことには違いない。

流石に恐怖が込み上げてきて、じわりと涙が浮かぶ。
滲んでいく視界の中で、不良の手が伸びてくるのが見え、わたしはぎゅっと目を閉じた。

「おい、なまえ」

身体が浮いている感覚と、耳元で承太郎の声が…声が?
え?身体浮いて…え?

色々と急にやって来たことがありすぎて、わたしは思わず目を開けた。
すると、すぐ目の前によく見知った、承太郎の綺麗な顔があった。

「…え?あれ?」

そして、やはりわたしは浮いていた。
正確にいえば、抱きかかえられていた。
俗にいう、お姫様抱っこというやつ。

わたしがぱちくりしている間に、少し離れたところでさっきの不良たちが驚愕の声を上げているのが聞こえてきた。

「じょうたろ、もしかして…使った?」

「先にお前を助けといた方がいいかと思ったからな」

「…あ、ありがとう」

こそっとこのマジックの種を聞きながら降ろしてもらう。
縛られている手も自由になっていた。

「さて、テメェら…お仕置きタイムといくか」

そこからは、「お見事」という感じで。
承太郎は幽波紋も使わず、その場にいた約10人くらいの不良たちを、あっという間に片づけた。
流石というか、なんというか。
絶対敵にはしたくないなって改めて思った。

「すまねぇな、巻き込んじまってよ」

「ううん、大丈夫。助けに来てくれてありがとね」

つい、と帽子の鍔を下げる承太郎に、やっぱり気にするよなぁとか、何処か他人事みたいに思う。

倉庫のような薄暗い場所を出ると、太陽が明るくて少し目がちかちかした。

「うわぁ…」

空を見上げた視界の端に、黒い何かが映った。
それは、山積みにされた…人。

「…他にもいたんだね。あの人たちだけかと思ってたよ」

「ああ。先にこいつらの相手をしていたんでな。遅くなった」

「ははは…」

幽波紋使いたちと比べたら、不良とはいえ一般人相手じゃあ何人いようが承太郎には大して変わらないんだろうか。
少しだけ隣にいる承太郎が遠く感じて、乾いた笑いしか出てこない。

「なまえ、お前がおれや花京院のことで怒るのは悪かねえが、無茶はするなよ」

「…あー、聞こえてたんだ」

「まあな」

すぐ外でこの人たちと喧嘩してたなら、そりゃあわたしが叫んだ言葉も聞こえてるか。
少し気恥ずかしい。

でも、承太郎がちょっとだけ笑っているのが帽子の下から見えて、わたしも素直に頷く。

「うん、気を付ける」

わたしの頭をぽん、と撫でてくれる手は、ついさっきまで人を殴り飛ばしていたそれとはまるで違う手のように優しくて、これを知っているのがわたしだけならいいな、なんて思った。



「でも、あの時何も言い返してなかったら、わたし犯されてたよ」

「…(ぶち殺す)」

「…承太郎、ストップストップ。何故戻ろうとしてるの。ていうかスタープラチナ出てるから!」



end




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