ディオと理性の塊な恋人
◇平和な社会人。前議まではしているので苦手な方はご注意ください。
某大手レンタルビデオ店にて。
「うーん、ディオってあんまりアクション映画って感じじゃあないんだよなぁ」
ディオとのおうちデート前日、せっかくだから映画でもと思い、仕事帰りにうきうきとレンタルDVDを選ぶ。
ディオは、体質上日中の外出が苦手だから、おうちデートかすぐに室内へ入れるような場所へ出かけることが多い。
頻繁にデートすることができなくて少し寂しいけれど、それでもよく電話をくれたり、メールもちゃんと返信してくれる。
だからあまり不満も不安もない。
「よし、これにしよう!」
一本のミステリー映画を手にとり、レジへ向かう。
ディオのおうちのテレビは結構大きいから、映画館とはいかなくても、なかなか迫力ありそうだな。
明日のことを思い、わたしは足取り軽く家路についた。
―…翌日。
「こんにちは、ディオ」
「ああ、まぁ入れ」
「うん。お邪魔します」
昼間から閉めきられたカーテンにも慣れ、わたしは勝手知ったるとばかりにリビングへ向かう。
「今日はですね〜…映画のDVDをレンタルして参りました!一緒に観よう?」
「映画か。いいだろう、少し待っていろ」
「はーい」
肩にかけていたカバンをソファの足元に置きながら、ディオがキッチンに向かう背中を見送る。
少しすると、コーヒーのいい香りが漂ってきた。
ディオが淹れてくれるコーヒーは凄く美味しくて、最初は「うわ、意外」って思ったっけ。
でも、あの容姿でコーヒーを淹れる姿って、贔屓目を差し引いても、かなり様になってると思う。
そんなことを考えているうちに、ディオが保温ポットとカップを持って帰ってきた。
わたしはディオからそれを受け取り、テーブルに置いた白いカップに淹れたてのコーヒーをゆっくりと注ぐ。
わたしのカップにお砂糖を一つ、ミルクを一つ。
ディオのカップにはミルクを一つだけ。
「ディオ、せっかくだから電気も消していい?」
「そのつもりだ」
ふん、と小さく笑って、ディオはぱちりと電気を消した。
準備万端オールグリーン!
DVDをディオに渡し、プレイヤーにセットされる様子を眺める。
ディオがリモコンをぽちっと操作すると、プレイヤーが小さな音を立てた。
映画だし、最初は宣伝が結構あるかな。
そう思っていたわたしの予想に反して、すぐに本編らしき映像が流れ始める。
「(ん?)」
数十秒後、わたしは疑問を抱いた。
今流れている映像の舞台が、学校なのだ。
おかしいな、確か海外の探偵が活躍するミステリー映画って書いてあったと思ったんだけれど。
ここから何かが始まるのかな?
事の発端、的な。
しかし、その予想も…数分後には大きく外れた展開となっていた。
何か、というか、“ナニ”が始まってしまった。
おかしい!これは絶対におかしい!
「ディ、ディオ…、」
画面を見ていられなくて、そしてディオに再生を停止してもらいたくて、隣に座るディオに視線を向ける。
「(ええええええ、ガン見…ッ!?)」
ディオは、片膝を立て、そこに肘をついた状態で頬杖なんかして、しっかり画面を見ていた。
慌てふためくわたしとは対照的に、ディオは驚くでもなく、ただ普通に映画を観るように、まっすぐ画面を眺めている。
バカな!
その光景に、更に慌てるわたしを余所に、DVDの内容はどんどん過激なことになっていく。
女の人がとんでもないことを言っている。
もう画面どころか音声も聞くに堪えない。
これは多分…ううん、絶対DVDの中身がパッケージと違うやつだ。
そしてこのDVDは、俗にいう…え、AVに違いない。
「ディオ、あの、停止して…くれませんか」
耐え切れずに言うと、ディオはあっさり停止ボタンを押してくれた。
「ご、ごめんね。なんか、入れ物と中身違ってるみたい…」
「だろうな」
まさか。まさか恋人とあんなDVDを見てしまうなんて…っ!
わたしはDVDの内容とか、この状況とかが気まずすぎて、何も言葉が出てこない。
「しかし、こういうものは初めて見たが…下らんな」
「う、うん…」
ふぅ、と息を吐き、だいぶ冷めたコーヒーを飲むディオ。
わたしもそれに続き、コーヒーを一口。
程よい甘さのおかげで、少し落ち着いた。
「…ああいうの、セリフとか…よく恥ずかしげもなく言えるなって思う…」
「まあ、お前は理性の塊のような女だからな」
「え、そう、なのかな…?」
「偶にはあの女のようにねだってみろ」
「や、やだよ!無理!…っていうか、ディオだってああいう…媚を売るみたいなの、嫌いでしょう?」
「ふん、分かっていないな。俺はなまえ、お前に売られる媚ならいくらでも買ってやる」
「…っ!」
にやり、なんて擬音が合いそうな悪い笑み。
綺麗な容姿のせいで、その笑みすら怪しい色気を感じさせる。
そして耳元で囁かれる声は低く、わたしの背筋をぞくぞくとした感覚が走り抜ける。
流れるようにソファに押し倒されてしまえば、これから起こるであろうことが頭を駆け巡り、それと同時にさっきの映像や声がフラッシュバックする。
「ちょ、ちょっとディオ!?もしかしてさっきの観て…、」
「それはお前じゃあないのか?」
「ひゃ…っ!?」
つい、と滑るように細長い指がスカートの中へ侵入し、下着越しにその部分をなぞっていく。
認めたくはないけれど、ほんの少しだけ湿り気を帯びているそこ。
あまりの恥ずかしさに涙が出てきた。
「あれ自体はどうでもいいが、あれを見て興奮しているお前を可愛がるのは悪くないな」
「そ、そういうわけじゃ…」
「そうか?」
また、あの“悪い笑み”を浮かべ、ディオはわたしに深く口づけた。
それと同時に、器用にわたしの身に着けている衣類を脱がせていく。
電気も消えて、DVDを停めてそのままにしていたテレビが節電モードに入り、ブラックアウトした室内は、遮光カーテンの上部から漏れ入る微かな陽の光だけという薄暗さ。
それでも、基本的に自分の生まれたままの姿を自分以外に見られているということや、今がまだ陽の高い時刻だという事実に、わたしは居た堪れなくなる。
「ディオ、まだ…昼間だし、やめよう?」
キスの合間、縋るように言う。
けれどどこ吹く風とばかりに、ディオは構わずキスを続けた。
腰から胸にするり、と滑る手の平。その感触と、彼の少し冷たい体温にぞわっとする。
そのまま胸を撫でるように揉まれ指先に先端が触れれば、息苦しさと快感で身体から力が抜けていく。
「んん…ふ…はぁっ」
長く深いキスが止む頃には、わたしの頭はうまく回らないようになっていた。
ディオは満足そうな笑顔を浮かべて、唇をひと舐めすると、胸を弄る片手はそのままに、もう片方の腕をわたしの秘部へ伸ばす。
先ほどは布越しだったそこに、直接彼の指が触れる。
「やぁ…っ」
つつ…ッ、と割れ目をなぞり、割って入るその細長い指。
くるくるとナカをかき混ぜるようなその動きは、若干の痛みと快感を与えてくる。
二本、三本…。徐々に増やされていく本数。
動くそれがわたしの敏感な部分を擦っていくけれど、それは一瞬のことで。
自分の身体ながら恥ずかしいけれど、早く強い快感が欲しくて、ひくひくと伸縮しているのが分かる。
ディオはわたしのナカを掻き回していた指を引き抜くと、太ももの付け根にキスを落とす。
触れるだけのそのキスを、太もも、お腹、胸…身体中のあちこちに落としていく。
いつもなら、そんな優しいキスは嬉しくて、とても幸せなのだけれど…今は、はやく強い刺激が欲しくて。
「でぃお…、」
「なんだ?」
「…っ」
普通に聞き返されてしまうと、なんて言えばいいのか分からない。
口ごもっている間も、キスや撫でる手は止まらない。
続けられる弱い快感は、わたしの頭を犯していく。
「なまえ、どうしてほしいんだ?」
「どうして…って…」
「お前が望むようにしてやる。だが、特にないなら俺の好きにさせてもらう」
言うと、ディオは今までの柔らかいキスから、痕がつくくらいの吸い付くキスをし始めた。
それはわたしの敏感な部分から、ほんの少しだけ離れたギリギリの場所ばかり。
ちくり、と小さな痛みさえも、今は快感に感じられる。
でも、やっぱり足りない。
『どうしてほしいか』。それを言えば、きっとこのむずむずした生殺しみたいな状態からは脱することができるだろう。
だけど、それをわたしの口で、言葉で、伝えなければならないなんて。
羞恥心と欲求がぶつかりあって、ボロボロと涙が流れ出した。
「うぅ〜…っ」
「お、おい、なまえ、」
「も、やだぁ…ぅっ、いじわる、しないで…ひっく…」
「分かった、俺が悪かった!泣くんじゃあない!」
ディオが慌てて宥めてくれるけれど、一度崩壊してしまった涙腺はすぐに閉じてはくれない。
結局、その後わたしはいつも以上に優しくされ、いつの間にか眠りに就いてしまった。
でもその時、いつもと違った今回の行為の所為で、理性が飛んでしまった瞬間。
「気持ちいい」って言った時、ディオが嬉しそうに笑っていたことは、はっきりと覚えている。
すごくすごく恥ずかしいけれど、でも、忘れたくない。
あのDVDみたいなことは言えないけれど、これからは、できるだけ自分の気持ちを伝えられるように頑張ろうって、そう思えた。
end
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