幼馴染の光と高校1年の夏休み


「わたしに関わらんといてくれ」

府内やけど別の学校に行きよった、所謂幼馴染のみょうじ なまえにダンボールカッターを向けられた。

「…なんやねんお前、会うて早々に腹立つ」

夏休みで寮から帰って来とるって話は聞いとった。せやから部活帰りにたまたま家ん前で鉢合わせたことについてはまあ、驚きも感動もあったもんやない。

とりあえず俺が驚いたとするんやったら、ダンボールカッターで何ができると思うて向けとるんかっちゅー、こいつの頭の構造についてくらいや。

「知っとるんやで。ひか…財前、テニス部入ったらしいやんか」

「…そら、中学からやっとるんやから当たり前やろ」

なんやこいつ。今名前言いかけたくせにわざわざ苗字で言い直してきよった。無性にムカつくわ。なんでかよお分からんけど。

「ウチの学校にまで噂んなっとんねん。四天高の財前くん。1年やのにレギュラーなっとるんやですごいわー。むっちゃかっこえーわー。って」

「果てしなくムカつくうえにキモい棒読みやめろや」

マジで鳥肌立ちそうや。

「もう懲り懲りやねん。中学ん時みたいなことは」

中学ん時…そう言われると眉間に皺を寄せるなまえに、ほんの少しだけ同情してやらんでもない。

別に妬みによるいびりとかイジメとか、そんなことがあったわけやない。
いや、実際妬みによるいざこざはあった。が、なまえは無駄にケンカが強い。うえに面倒見がいいせいか味方が多かった。
せやからそういったいざこざは最小で、且つこいつの障害になることはなかった。

なまえが言うのは…よくある話、「これ渡してくれ」パターン。

一応幼馴染という間柄にある俺となまえ。傍目には仲がいいように見えるんやろう。そしてなまえは女子には甘く、面倒見がいいという損な性格。
なまえ経由で毎日のように手紙やら菓子やらを渡されたもんや。

「それについては同情くらいしてやらんでもないわ」

「ははは、このやろう」

「せやけど、苗字でとか呼ぶなや」

「は?なんでやねん。つーか今そこなんか」

ダンボールカッターをくるくると弄びながら、首を傾げられる。

「(なんで…やろな)」

自分で言うておいて、明確な理由は自分でもよお分からん。

さっきから苗字で呼ばれることが無性にムカつく。…いや、ムカつく、のもあるが…しっくりこんというか。

「…光?」

戸惑いがち且つ訝しげに呼ばれた名前。

すとん、と心ん中に入って来る感覚。

「……紛らわしいやろ。苗字やと」

「はぁ?」

「お前んちと家族ぐるみなんやから、おかしいやろ。今更」

自分でも無理矢理すぎる、即興の理由付け。

本当はもっと別のなにか理由がある。

あるのはわかる。

せやけど、それはあまりにももやもやしとって、いまいちどういうもんなのかが分からん。

「変なやつやなぁ」

「ダンボールカッター持ち歩いとるやつに言われたないわ、アホ」

「ちがっ、これは夏休みの自由工作で!」

「おい、なまえ」

「なんや人の説明ぶったぎってムカつく」

「ラケット置いたらコンビニ行くから自転車漕げ」

「…さっきの話聞いてた?なんや光、わたしのことそんなに好きなんかええおい」

「好き?ハッ!」

んなわけないやろ。



end




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