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◇3部といいつつ時間軸は4部。生存院。
忙しい日々が連なる毎日。
平穏とは言い難い時もあるけれど、それでも分かり合える仲間がいて、ずっと守りたいと思える大切な人もできた。
そんな、通常に近い日常が続いている。
けれど、今日はそんな何気なく過ぎていく日常とは違う。
少なくとも、僕にとっては。
「ごめんね、待たせちゃった?」
「いや、僕が少し早く来すぎてしまったんだ。気にしないで」
嘘を言った。
僕が待ったのは少しじゃあない。
実際、今は約束をした10分も前だから、なまえが遅れたということではない。
ただ、僕が1時間以上も早く来てしまっただけ。
「誕生日おめでとう、なまえ」
「ふふっ、ありがとう」
僕も彼女も同じSPW財団の目黒支部に勤める身だけれど、彼女の誕生日当日は彼女自身が出張になってしまい、直接会うことができなかった。
当日はメールと電話で祝福の言葉を伝え、なまえもそれが聞けただけで嬉しいと言ってくれたけれど、僕は彼女が生まれてくれた日をおざなりにしたくなくて、この休日に改めてお祝いをさせて欲しいと言ったのだ。
それは決して口実とか建前なんかではない本心なのだけれど、実はもう一つ大きな決意がある。
彼女への、プロポーズ。
少し前から準備していて、誕生日に合わせてと計画していた。
なまえが当日不在になってしまったことは予期せぬ事態だったけれど、むしろ休日の方が彼女と居られる時間も長くなるので問題はない。
思い起こせばなまえと出会ってからもう6年になる。
SPW財団の超常現象解明部門に就職し、彼女と出会った。
幽波紋使いは幽波紋使いに引かれ合う、なんてことを以前仗助くんが言っていたけれど、確かにそのとおりだと僕は思う。
僕と同じく生まれながらの幽波紋使いだという彼女とは、すぐに打ち解けることができた。
彼女はとても素直で優しく、職場の誰からも慕われる。
そんな彼女に悪い印象を持つわけもなく、何度か承太郎や仗助くんたちのサポートに同伴するうち、気づけば僕は彼女のことが好きになっていた。
恋愛経験がほとんどない僕は、彼女に告白するのにもかなり手間取ったっけ。
その辺はまぁ今もかなり手探りなところが多いのだけれど。
しかしながら、付き合って5年が経つ今、“結婚”というものを真剣に考え、それなりに悩んだ。
よく、恋愛と結婚は違うなんてことを聞くが、多分それはそのとおりなんだろうと思う。
結婚というのは、つまり互いの束縛だ。
そう考えると、果たして僕は彼女を束縛しても良いものなのかと考えてしまう。
誰だって悩むことなのだろうけれど、僕には引け目を感じる部分がある。
顔や身体に傷があり、後天性ではあるけれど怪我の影響で視力も少しばかり下がった。
今も連続して最前線で戦うことは難しいし、人工臓器だって完璧じゃあないかもしれない。
きっとなまえならもっとずっといい人と出逢えるだろう。
そう思っても、僕は自分がなまえ以外の誰かと結婚することなんて想像もできなかったし、なまえが他の誰かと結婚する姿なんて想像しただけで心臓が痛いほど苦しくなった。
やっぱり、僕はなまえでないとダメなんだと再認識した。
成功するかどうかなんてわからない。
自信があるわけでもないし、待ち合わせの1時間以上前に家を出てしまう程とんでもなく緊張している。
絶対幸せにする、なんてことは言えない。
それでも、一生愛する自信があるし、絶対に裏切るようなことはしないと誓える。
「えへへ、なんか、こうやってお休みにデートするの久し振りだから緊張しちゃう」
「そうだね、僕も緊張しているよ」
言葉どおり照れくさそうに微笑むなまえは、何度見ても可愛いと思う。
するりと繋がる手の温もりは心地よくて、小さくて細い手は守ってあげたいという気持ちになる。
この手をずっと握っていたい。
キミの隣を歩いていたい。
決意してから、そんな想いが溢れて止まらない。
一生に一度となるだろう一世一代のプロポーズ。
果たして、今日が特別な日になるのは、僕か。それとも僕たちか。
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