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「わぁあ…、すごい…」
高級ホテルというだけあって、エントランスもとても綺麗で手の込んだ内装が施されている。
感嘆の声を漏らしきょろきょろと辺りを見渡すなまえはまるで子供のようで、僕の緊張を少し和らげてくれた。
デートの最後、誕生日のプレゼントと称して訪れたこのホテルの最上階にあるレストランは、プロポーズの成功率が高い人気のスポットらしい。
こういう場所は、以前ジョースターさんに連れられて承太郎たちと来たことがあるので、少し敷居が高いけれどそこに対する緊張はない。
「予約していた花京院です」
「はい、お待ちしておりました。ご案内致します」
予約していたテーブルに案内され、席に着く。
なまえは此処の雰囲気に緊張しているのか、少し表情が硬い。
「なまえ、そんなに緊張しなくても大丈夫だよ」
「緊張するよ…!こんなちゃんとしたところ、初めてだもん」
「別のところの方が良かったかい?」
「ううん、典明くんと一緒なら何処だって嬉しいよ。ありがとう」
…まったく、どうしてなまえはこういう嬉しいことをさらっと言ってくれるんだろう。
僕がなまえを喜ばせてあげたいのに、いつだってなまえは僕の前を行く。
僕はなまえに喜ばせてもらってばかりだ。
「お礼を言うのは僕の方だ。生まれてきてくれてありがとう。そして、キミの特別な日を祝わせてくれてありがとう」
素直な気持ちを伝えると、なまえは頬を赤らめて嬉しそうに、恥ずかしそうにはにかんだ。
彼女のそんな表情が僕は大好きで、こちらまで幸せな気持ちになる。
本当に、僕にとって幸せというのはなまえなくしては成り立たないものだと思える。
「お待たせ致しました。オードヴルでございます」
運ばれる料理はどれも美しく、なまえが「食べるのがもったいない」と言う気持ちも分かるようなものばかりだった。
スープ、ポワソン、ソルベ、ヴィヤンドゥ、フロマージュ、デセール…。
コースも最終となり、カフェとプティフールがテーブルへと運ばれた。
僕は怪我の関係上お酒は飲めないし、なまえも強い方ではないから、あらかじめコーヒーを選んでおいた。
なまえは出される料理全てに感嘆の声をあげていたから、どうやらこの店のチョイスは間違ってはいなかったようだ。
此処を喜んでもらえたのなら、一つ目の目的であるなまえの誕生日のお祝いはクリアということになる。
さて、本番はこれから。
コーヒーに息を吹きかけ、少しずつ冷ましながら口をつける猫舌ななまえをちらりと見ながら、僕も熱いコーヒーを一口飲み、気持ちを落ち着ける。
「なまえ、知っているかい?」
「なぁに?」
「此処、プロポーズの成功率が高いって評判の店らしいんだ」
「へぇ!お店も料理も素敵だもんね。女の子なら憧れちゃうよ」
「なまえもそう思う?」
「うん、もちろん!」
「よかった」
「典明くん?」
一度目を閉じ、息を吸って、吐く。
目を開いて、不思議そうな表情を浮かべているなまえを真っ直ぐに見つめる。
一日中緊張しっぱなしだったというのに、何故か今は、すごく落ち着いているのが不思議だ。
「なまえ、僕はキミを幸せにできるか分からない。けれど、キミを愛してるって気持ちは一生変わらないと誓える」
「え…」
「花京院 なまえになってくれませんか?」
僕を見つめ返していた目が、大きく見開かれていく。
何かを言いかけたのか、小さく口が開くけれど、言葉は紡がれないままなまえは手で口元を覆った。
顔を逸らすように俯いてしまった彼女に一瞬全身が冷たくなったけれど、髪の間から覗く耳が真っ赤になっているのが見え、少し安心する。
残念ながら、僕の腕ではテーブルを挟んだ先のなまえにはちょっとだけ届かない。
だから僕はズルをして、するりと帯状のハイエロファントを伸ばす。
そっとなまえの頬を撫でてこちらを向いてくれるよう促せば、なまえは耳と同じように真っ赤な顔を上げてくれた。
「…ずるい」
「ごめん。でも、僕も結構必死なんだ」
顔を上げてくれたなまえは、うっすらと目尻に涙が溜まっていて、言葉とは裏腹に何処か泣き笑いのような表情。
「返事はすぐじゃなくてもいいんだ。なまえだって悩むだろうし、」
「…ううん、悩むことなんてないよ。わたしを…典明くんと同じ苗字に、してください…っ!」
顔を湯気が出るんじゃあないかってくらい赤く染めて、精一杯応えてくれたなまえ。
目はぎゅっと閉じられてしまっているけれど、彼女の幽波紋が僕のハイエロファントを包み込むように…まるで抱きしめるように重なった。
なんだかなまえの涙が
伝染ってしまったようで、僕の視界もぼんやりと滲む。
「ありがとう、本当に…キミに出会えて良かった…」
僕は今、どんな
表情をしているんだろう。
多分、なまえと同じ。
これからは、キミと共に歳を重ねていこう。
end
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