承太郎に慰められる


みょうじのヤツがむくれている。

むくれている、というのは些かガキ臭ぇ言い回しのような気もするが、おれの腕に慣れない手つきで包帯を巻いているみょうじの表情は、泣き出しそうな…しかし何処か怒っているような。そんな言い表すには難しい表情をしている。

「…キツくない?」

「ああ、問題ねぇ」

「ジョースターさんと合流したら、ちゃんと治してもらってね」

正直、ジジイに頼る程の怪我じゃねぇ。
こんなもんは放っておいても勝手に治って、傷痕すら残りゃしないような傷だ。

しかし敢えてそれを口にしないのは、みょうじが本気で言っているからだ。
上辺だけの心配ではなく、義務的な言葉でもない。
こいつの言葉に対する回答は肯定以外認めねぇという意思がおれに伝わってくる。

「承太郎、ちょっとだけいいかな」

「なんだ?」

「まず、さっきは…ありがとう」

「別に、おれは大したことは何もしてねぇ」

“さっき”というのは、まさにこの傷の原因である敵幽波紋との戦闘のことだ。
そしてみょうじがむくれている理由も、こいつが何を言いたいのかもだいたい分かる。

みょうじは、「自分を庇うな」と言いたいのだろう。

こいつは自分のことは棚に上げるくせに、周りが自分の所為で怪我をすることをひどく嫌う。

女だからと足手まといになりたくないのだと、以前そんなことを言っていた。

実際、おれたちは別段みょうじを特別扱いしているつもりはねぇ。

それはこいつを信頼しているからだ。
こいつになら背中を預けられると、そう思っているからだ。

「これは、わたしが負うべき傷だった。他のみんなだったら、そもそも怪我なんてしなかっただろうし、させなかったよ」

「そんなもん分かりゃしねぇだろ。お前だったからこの程度で済んだだけかもしれねーぜ」

「…優しいね、承太郎は」

困ったような笑顔を浮かべるみょうじ。
おれの意思はどうにも上手く伝わらず、もどかしさを覚える。

多分、こいつは自分が女であることを既に引け目として考えちまってるんだろう。

体力面やパワーの差、身体の作りからして違うそれらを、こいつはおれたちと比べちまっている。

「女扱いするなとか、そういうこと言える立場じゃないことは分かってる。でも、でもね。わたしだって覚悟はできてるの。どうなったっていいって、絶対後悔しないって」

言葉が口先だけのものでないことを伝えるように、真っ直ぐおれを見上げる瞳は一切の揺らぎがない。

みょうじは、いつだって真っ直ぐな女だ。

弱音も、泣き言も、甘えもみせない。
気高く、誇り高い。が、それ故に何処か危なっかしいとも思う。

おれたちはこの旅でみょうじに出会ったわけだが、日常のこいつは…この旅を始める前は、いったいどんな人間だったのか。
今は知る由もないが、きっと根本からして素直で真面目なヤツなんだろう。

「んな覚悟する必要はねぇ」

「…それは…やっぱり認めてはもらえないってこと、かな」

「違う。お前は無事に生き残る覚悟をしろっつってんだ。死ぬ覚悟なんぞ負けを前提としてるヤツのすることだぜ」

おれは自分の感情をあからさまに表へ出すということをあまりしない。
さして出す必要もないと思っているからだ。

だが、みょうじに意思を。おれの懐いていることを伝えるには、やはり言葉にしなければならないと実感した。

「無事に生き残る、覚悟…」

おれの言葉にみょうじは目を見開き、自分の中に落とし込むように小さく呟く。

「それに、おれはお前を女扱いしたことは一度もねぇ」

「でも、」

「おれがしてんのは『仲間扱い』だ。多分、他の奴らもな」

「…っ!」

目だけでなく口まで開けて驚くみょうじの髪をぐしゃぐしゃに掻き回す。
少し喋りすぎたような気もするが、いつも凛としているみょうじの泣き出しそうな…しかし赤く染まっていく頬と、口元が緩むのを必死に抑えている。そんな言い表すには難しい表情を見れたのだから、たまにはいいかと思わざるを得ない。


end




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