高校生で板挟み
◇エジプトっていうか砂漠なう。旅の一コマ。
「へくしっ!」
日中の茹だるような暑さはどこへやら。
砂漠の夜は凍えるように冷える。
昼間にかいた汗を拭き取ったとはいえ、その温度差に体温調節が追い付くわけもなく。
身体が冷えやすい女性であるなまえが、ブランケットに包まりながらも思わずくしゃみをしてしまうのは仕方のないことだろう。
「なまえさん、大丈夫ですか?紅茶淹れたのでどうぞ」
「うぅ、ありがとう花京院くん。…うぁあ、あったかい〜…っ!」
小さく鼻を啜りながらカップを受け取り、それを両手で包んだり頬に当ててはへにゃりと笑うなまえの隣に腰かけ、花京院もまたつられるように微笑む。
其処へ、簡易テントでなまえと同じく汗を拭きとった承太郎が戻ってきた。
「…さみぃ」
「承太郎くん、学ラン下はタンクトップだもんねー。…えい、おすそ分けっ」
「っ、」
花京院と逆サイドへ腰かけた承太郎に、幾分か温まった両手を伸ばしてその両頬を包み込むなまえ。
じんわりと伝わる熱に、承太郎は目を細める。
「子供体温だな」
「違いますぅー!今あっためたんですぅー!」
承太郎の頬を軽く抓って抗議するも、張本人は小さく笑うばかり。
諦めたなまえは、一旦置いておいたカップを再び両手で持ち上げ、だいぶ温くなった紅茶をゆっくり体内へ流し込んだ。
「あ、これ…生姜?」
「ええ、生姜紅茶です。身体を温めるには最適だと思ったので」
「うん、なんだかすごくあったまる感じがする!」
「ふふっ、良かった」
「花京院くんは寒くない?」
「そうですね、さっきまで火を扱っていたのでそうでもなかったんですけど…だいぶ寒くなって来たかな」
「よし、では僭越ながら…、」
「?」
立ち上がったなまえを見上げて首を傾げる花京院を余所に、彼女は彼の後ろに回り込んで…その背中へと身体を寄せた。
「なまえさん…ッ?!」
「あったかいでしょ」
「あ…ったかい、です…」
自分の後ろから聞こえる無邪気な声に、花京院は思わず片手で顔を覆いながら必死に答える。
花京院の回答を聞き、満足そうに良かったと笑うなまえは、彼の心情も赤面も…もちろんまったく知らないまま。
「あの、なまえさん…ありがとうございます。もう大丈夫ですから…」
「え、まだ全然、」
「いえ、僕はまだ身体拭いてないので…」
「あ、そっか!承太郎の次だったね。ごめん、足止めしちゃった!」
そういう意味で言ったわけではないのだけれど。
訂正しようにも、背中から温もりが離れてしまった後ではそれも意味はない。
花京院は曖昧に笑い、話の流れどおり身体を拭くため、その場から離れた。
簡易テントへと入る直前、二人並ぶなまえと承太郎を振り返ったのは、妙に背中が寒いと感じたから。
「なんか、花京院くんから離れたらまた寒くなった気がする」
花京院の背中へと抱きついた時に乱れたブランケットを再度身体へ巻き直し、承太郎の隣で体育座りをするなまえ。
そんな彼女を横目で眺め、承太郎はふと思いついたように立ち上がり、羽織っていた学ランを脱ぎ始めた。
「承太郎くん?」
「なまえ、これ着てそのブランケット寄越しな」
「え?交換ってこと??」
「早くしろ、寒い」
「えぇー…」
唐突な指示に困惑しつつ、差し出される大きな学ランを受け取って袖を通す。
それを確認すると、承太郎はブランケットを広げ、自身と学ランを着たなまえをまとめて包み込んだ。
自然、承太郎がなまえを抱きしめるような体勢になる。
「こうすりゃあ二人同時に暖取れんだろ」
「ほんと、あったかい!…けど、な、なんか近くない?」
「あ?花京院の時は自分から行ってただろうが」
「や、背中と正面は違うっていうか…正面は流石に恥ずかしいというか、」
もごもごと口籠り、もぞもぞと落ち着かないなまえ。
その頬は徐々に赤みを帯びていく。
正面の近距離から見つめられることに耐えられなくなったのだろう。
やがては視線も地面の方へ落ちて行った。
だからこそ、その様子を楽しそうに、愛しそうに眺める承太郎の視線に気づくことはない。
承太郎にとって、それは些か残念なことでもあるのだけれど。
「〜っぅわぁああ!熱い…っ!」
数分の後、なまえはついに限界を超えたようで。
叫びと同時、逃げるように勢いよく立ち上がった。
そして、
「じゃあその熱、分けてもらってもいいですか?」
「わっ」
羞恥を謎の動きで誤魔化そうとしていたなまえの腕を引いたのは、テントから戻ったばかりの花京院。
「身体、拭いている内に冷えてしまったので…また温めてください」
「ちょ、か、花京院くんまで…っ!」
引いた腕はそのままに、片手をなまえの腰へと回す。
引き寄せられる力に足場の悪い砂場では抗うこともできず、今度は花京院に抱きしめられる体勢へ。
羽織ったままだった承太郎の学ランは、狭い肩幅からするりと滑り落ちる。
一瞬意識はそちらへ向かうが、しかし身体を包み込む温もりにそれどころではない。
「…チッ」
思わず漏れた承太郎の舌打ちは、言葉にならない声を上げるなまえには届かない。
まるで花京院はそれに対抗するように、より抱きしめる腕に力を込めるのだった。
小さな火種が華開く
end
「承太郎と花京院で取り合う」とのリクエスト。…うん…うん?
今更ですが、こういう逆ハ(二人だけど)みたいなもの…初めて書きました。
…これじゃない感がすごいです。もっと精進します。
素敵お題を頂き、ありがとうございました!
少しでも!ほんのちょっぴりでも楽しんで頂けましたら光栄でございます…!
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