グレーゾーンかもしれない花京院
◇みょうじさんがみょうじくんです(男装)。旅の一コマ。
いやいやいや、まさかそんな。
確かにどれが初恋だとかどんな性癖だとか、正直自分でもよく判らないけれど、だからって。そう簡単に認められるわけがないだろう、こんな…。
確かにみょうじは小柄だし、少年のように声も高いなとは思う。
顔も中性的、というか、とにかく僕や承太郎とは違う。
でも、身を包むブレザーは僕たちと同性であることを示している。
そもそも高校生組の僕たちがこうして一つの部屋に泊まること自体、同性だからできることであるわけで。
それを、か、かわいいだとか思っている僕は…もしかして、もしかするのだろうか…?!
「…承太郎、花京院どうかしたのかな?」
「さあな」
黙り込んで頭を抱えたり腕を組んだりとにかく眉間に皺を寄せている僕に、みょうじは不思議そうな顔で首を傾げている。
視線の端に映るその仕草はまるで小動物のようで可愛らし…だから!そうじゃないだろう僕…!
「花京院、大丈夫か?さっきから赤くなったり青くなったりしてるけど…調子が悪いならおれ、いくつか薬持ってるけど」
「え、あ、いや…大丈夫、気にしないでくれ」
「大丈夫ならいいんだ。でも、もし必要なら言ってくれよな」
「ああ、ありがとう」
少し心配そうに笑うみょうじが天使かなにかに見える。本格的にヤバいかもしれない。
しかし、僕が仮にそういう嗜好だったと認めるとしよう。あくまで、仮に。
それが露見してしまったら、みんな僕を見る目ががらりと変わるだろう。
きっとみょうじにだって避けられる。
そんな状態で旅を続けられる程、果たして僕の神経は図太いだろうか。
…駄目だ、みょうじに避けられることを想像しただけで今少し泣きそうになった。
みょうじが着ている制服には見覚えがある。
きっと僕たちの学校からそう遠くない学校のものだろう。
この旅が無事に終わって帰国できたとしたら、普通の学生のように意味もなく会って、勉強や趣味、たまに将来の話なんかしたりできるかもしれないじゃあないか。
…将来の話っていうのは、大学とか就職とかそういう類の話であって、他意はない。
そういう『良い友人関係』をぶち壊してしまうくらいなら…。
こんな感情はやはり、思い過ごしにするしかない。そうでなくてはならないんだ。
「おーいお前ら、飯行くぞ!」
「今行くよポルナレフ!花京院も、行こう」
「っ…はい」
ぎゅっと握られた手が熱い。
きっと、みょうじはまだ僕の調子が悪いんじゃあないかと思っているんだろう。
腕を引かれる力はとても強いとはいえない。でもそれを振り払うこともできない。
「んん?なんだァお前ら、男同士で手なんか繋いで」
「あっ…ごめん花京院!気持ち悪かったよな…」
「なんだよみょうじ、お前まさかそっち系なの?」
「ち、違うよ!」
にやにやと腹の立つ笑みを浮かべてみょうじをからかうポルナレフは、本当にただからかっているだけ。
なのに、その言葉がみょうじを通り抜けて僕に突き刺さる。
変なことを言われて怒る彼の赤い頬に触れたい。
ふざけて彼の手を握る電柱をぶん殴りたい。
さっき離された手が、未だに熱を失わない。
「おい花京院、随分顔が赤ぇが…大丈夫か」
「…承太郎、ヤバいかもしれない…」
散々からかわれ、「悪かった」と再度謝ってくるみょうじの心配そうな表情に、僕の胸は苦しくなっていくばかり。
いっそ、認めた方が楽かもしれない。
思い過ごしにしたくとも、過ってそのまま消えてくれない感情ならば。
頑なに認識しまいとしていた言葉が、無意識下で浮上する。
これが『恋』かもしれないなんて。
(あんまりべたべたすると花京院に気持ち悪いって思われちゃう…気を付けよう)(いっそ、男同士だから常に一緒にいられると考えてしまおうか)
end
「花京院と男装っ娘で恋の始まり」とのリクエスト。
どういった視点で書くか迷った挙句、花京院がなんだか吹っ切りました(笑)
結局耐えられなくなったみょうじさんが性別を暴露して、結果的に安心で安定で合法的なお付き合いをすることになるでしょう。(予報)
少しでも楽しんで頂けたら光栄です…!
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