承太郎がクロスオーバー


◇3〜6部のクロスオーバー。


「えっと、つまり…ご都合幽波紋によって時空転移、いわゆるタイムトリップをしてしまったということ、ですか…?!」

「ああ、そうらしい」

此処はわたしの隣に座っている、恋人である承太郎の部屋。
わたしの目の前にいるのは、三人の男性。

土曜日で学校は半日な今日、承太郎のお母様が「あらまあ、承太郎ってば彼女ができたなら早く言って頂戴!挨拶しなくっちゃ!」とのことで、初めて空条邸にお邪魔したわけなのだけれど。

お母様は夕方に戻られるらしく、それまで承太郎の部屋で待つことにしてそれで。
承太郎ががらりと部屋の入口を開けると、部屋の中には例の男性×3。

「じょ、承太郎って4人兄弟だったの!?」

あまりに背格好や顔立ちが似ていたために、わたしは瞬時に兄弟だと思い込んだのだけれど、承太郎がわたしと同じくらい驚いていたことやすぐさまわたし以外の全員が臨戦態勢をとったことから、どうやら事はそう簡単ではないらしいと察した。

かくかくしかじかと事情聴取を行ったところ、どうやら冒頭のとおりの事が起こってのことらしい。

さて、皆さまお分かり頂けただろうか。
三人の男性は承太郎と背格好がとてもよく似ている。似すぎている。
そして、幽波紋によるタイムトリップ。

そう、彼らは全員『空条 承太郎』らしいのです。

お話を聞いていた中で得た情報によると、さっきわたしの要約に肯定してくれたのは承太郎さん(28)。
そしてわたしをじっと見ているのが承太郎さん(30)。
逆に承太郎(17)をじっと見ている…観察?しているのは承太郎さん(41)。

…4人も承太郎が居るのだから仕方ないんだけれど、なんというか空間が狭い感じがする。
あと、自分が随分小さい人間のように感じる。(物理的に)

「はぁ…。で、そのご都合幽波紋とやらに対処する方法は分かってんのか?」

「いや…。しかし、こちらへ来るのを仗助たちが目撃している。本体を見つけるなりの対処は期待できるだろう」

今は近くにその幽波紋特有の気配は感じないらしく、手がかりを探りつつジョウスケさん?に期待する、という方針で話は固まった。

わたしと承太郎は知らないけれど、他の三人はそのジョウスケさんのことを知っているらしく、彼なら信頼できる的な雰囲気だ。
だからきっと大丈夫なのだろう。

となると、目下、一番問題なのはわたしである。

今まで驚きと混乱で麻痺していたけれど、落ち着いた今…この状況を冷静に考えてみると…。

「(承太郎と二人きりどころか…承太郎に囲まれている…!?)」

承太郎とお付き合いを始めて1カ月。
たまに手を繋いだりキスしたりする程度で脳みそが茹るんじゃあないかってほどドキドキしているのに、こんなに早く承太郎のお家に行くことになって。
世間一般の時期はよく分からないけれど、わたしにとってはそれさえかなりハードルが高い。しかも、今回のお宅訪問はただ遊びに行くだけじゃあなくて、承太郎のお母様が挨拶したいって仰っているのだからハードルどころか鉄棒並みの高さがある。

正直、緊張しすぎて今日の授業なんてまったく覚えていない。

ただでさえそんなだったのに、承太郎のお家で。承太郎の部屋で。
承太郎と承太郎さんと承太郎さんが承太郎さんでああああッ!もう訳分かんないよおおっ!

「…しかし、わたしとなまえの高校生時代か」

わたしと承太郎を見ながらしみじみと言葉を紡いだのは、この中では一番年長である承太郎さん。

40を過ぎているとは思えない容姿だけれど、なんだかどの承太郎さんより雰囲気が落ち着いているというか、柔らかい感じ。

第一人称も違うし、ふっと笑った時の顔は妙に安心を覚える。
なんという包容力!こ、これが大人の色気ってやつなのかな…。

「高校生のわたしはまだまだ子供だと思うが、どうか支えてやってほしい」

「そんなこと!わたしの方が子供すぎて、承太郎にはいつも迷惑ばっかりで…!」

「そんなことはない。なまえにはいつも救われている。…わたしはうまく、それを伝えることができないんだが」

「じょ、承太郎、さん…っ」

柔らかい笑顔でそっと握られる手。
いつも、ということは、元の世界の貴方の側に…まだわたしは居られるということでしょうか?
聞きたいけれど、聞けない問いかけ。
聞いたことで未来が変わることもあるかもしれない。
それはわたしも承太郎も同じ考えのようで。

さっき名前の出たジョウスケさんのことや、彼らが今どういう立場で人間関係はどうだとか。気になることが沢山あると思うけれど、承太郎は敢えてそれには触れない。承太郎さんたちも、同じ。

「おい、いい加減その手を離せ」

わたしの手を包むように握っている承太郎さんを睨みつけ、低く言い放つ承太郎。
わたしからすれば彼も承太郎だけれど、本人からしたら別人だもんね。
見るからに面白くないという表情の承太郎に、わたしはちょっとだけ嬉しいなんて思ってしまった。

「ふっ、やれやれ。やはりまだ子供だな」

「うるせえ。ただでさえテメーと同じツラした野郎が3人もいて気が滅入りそうなんだ。大人しくしていやがれ」

はいはい、という風に小さく笑い、承太郎さんはわたしの手を離した。

「高校生のわたしの気持ちも分からないではないんだが…、」

呟かれた声の方へ視線を向ければ、30歳だという承太郎さんと目が合う。

じっとわたしを見ていた承太郎さんは何処か憂いを帯びている雰囲気で、目が合うとすぐに視線を逸らされてしまった。

「わたしは、ここ数年まともになまえと会っていない」

「え…っ」

「10年後はどうか知らないが、もしわたしのような状態が続いているのなら…今だけは彼女の存在を噛みしめたい」

「承太郎さん…、」

彼が本来の時間軸でどういう状況なのかは分からない。
けれど、伏せられたその瞳は僅かに揺れていて…こちらまで寂しい気持ちになってしまう。

空条 承太郎という人は、とても強くて優しい人。
でも、少し不器用なところがあって、誤解も受けやすい人だと思う。

だからこそ、時には辛いことだってあるかもしれない。
それがもし、彼の『今』だとしたら…。

そう思った時、わたしの身体はもう動いていた。

降ろしていた腰を上げて、ぎゅぅっと彼を抱きしめる。

「っなまえ、」

「承太郎さん、わたしは大丈夫です」

「…?」

「承太郎さんにとってわたしがどういう存在になっているかは分からないけれど、でも、それもわたしなんですよね」

「…ああ、そうだな」

「なら、大丈夫ですよ。会いたいって思っているのはきっと同じだと思います。だけど、また会えるって信じているはずです」

だから、そんな寂しい顔をしないでください。
心の中で祈る。
未来のわたしが今のわたしと100%同じだなんて、なんの確証もない。
けれど、そうであって欲しいと思う。

「……ありがとう、なまえ」

聞こえる声は優しくて、わたしは安心した。

いつの間にか詰まっていた息を深く吐き出して、そっと承太郎さんから離れる。

そして、決して忘れていたわけではないけれど、再び視界に映る複数の人物。

承太郎は顔を下に向けている。見える耳が赤い。
28歳の承太郎さんは顔を手で覆っている。指の間から見える顔が赤い。
41歳の承太郎さんは帽子の鍔を下げている。隠れきらない口元が柔らかく弧を描いている。

「(今、わたし…とんでもなく恥ずかしいことを言ったような…!)」

皆の反応と、脳裏に過る自分の言葉。
一瞬血の気が引いたようにさあっと冷たくなって、その後すぐに発火しているんじゃあないかってほど全身が熱くなった。

「〜…っ!」

浮かせていた腰をぺたんと着いて、わたしは両手で顔を覆う。
もう恥ずかしすぎて涙が出そうだ。

「なまえ、顔を上げてくれ」

「むりです…っ」

指の間から少しだけ見えたのは、約10年後…28歳の承太郎さんだった。

まだまだ恥ずかしさの嵐が止まないわたしは顔を上げることができずに首を横に振る。
承太郎さんが「やれやれ」と小さく呟いたのが聞こえたけれど、その声は微笑んでいた。

「おれは、お前を…10年前のなまえを見た時、正直怖かったんだ」

「こわい…?わたしが、ですか?」

「なまえが、というか…そうだな、おれの知っているなまえが、10年前からどう変わっているのか分からない自分が、怖かった」

顔は隠しながらもそろそろと顔を上げれば、承太郎さんはわたしの頭をぽんぽんと優しく撫でてくれた。
10年後。遠いようで案外と近い未来。
だけど、想像もできない世界。

「だが、変わっちゃあいなかったんだな。そして10年後も、きっとお前は変わらないんだろう」

「…それはいい意味、なんでしょうか…?」

「ああ、当然だ」

10年経っても変わらないなんて、成長しないってことなのかな。と、一瞬思った。

でも、きっとそういうことじゃあないんだと思う。

「承太郎さん、わたし…っ」

―…ボーン…ボーン…−

「鐘の、音…?」

何処からか聞こえてくる、時計の鐘のような音。
でも、この部屋にそんな音のすような時計はない。

「この音は…、」

わたしの頭を撫でてくれていた承太郎さんの手が止まり、呟いた。

そして、鐘の音が数回鳴り響いた後、カチリ、と時計の針が合わさるような音。

「仗助がやったらしいな」

そう聞こえた瞬間、わたしたちの前から三人の姿が消えていた。

まるで、最初から何もなかったかのように。
あまりにも、あっけないお別れ。
最初から巡りあうべきではない異常現象だったのだから当たり前といえば当たり前かもしれない。
けれど最後に一言くらい言いたかった。

「突然現れたかと思ったら突然消えやがった…やれやれだぜ」

「…うん。元の時間軸に帰れたんだね、きっと」

二人して気の抜けたように長い息を吐く。

「…なまえ、お前さっき何か言いかけていたようだが、何を言うつもりだった」

「えっ、そ、それは…、」

じっとわたしを見つめる承太郎の視線。
わたしの大好きな優しいグリーン。

「…わたしが変わらないで居られるのは、きっと承太郎が変わらないで居てくれるからです、って」

顔を見られたくなくて、承太郎の胸に額を当てて俯く。

とくとくと一定のリズムで聞こえる心臓の音は、そのままぎゅうっと抱きしめられたことで更に鮮明に聞こえた。

一緒に歳を重ねていけたらいいな。
いつか彼らの知るわたしになる、その日と、その後まで。


end

「456部承太郎in3部世界」とのリクエスト。
やっぱりこう、キャラが増えれば増えるだけ書き手の苦手度が向上していくようでノ(^。^)ヽ。
少しでも!少しだけでも楽しんで頂けましたら光栄です…!




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