承太郎コスをしてみる
暗闇に呑まれた砂漠の真ん中に、一つの明かりがぽつりと浮かぶ。
パチパチと火の粉があがる焚火を囲み、旅の仲間は二人を除きある一方向を見ていた。
「やれやれだぜ!」
承太郎の学生帽を被り、学ランを着てズボンを穿いたうえに彼の口癖を言う人物は、決して本人ではない。
というか本人はいない。本人不在というやつだ。
つまりは除かれた二人というのは彼本人とこの承太郎もどきである。
「わはは!ワシの孫もこれくらいかわいければのー」
「だっはっは!これもう攻撃とかできねーわ!」
ズビシッと指を差す承太郎もどきに腹を抱えて笑うのは、ジョセフ、ポルナレフ。
彼らの辞書からは緊張感という言葉が時折消し飛ぶのは言うまでもない。
「しかしこうして比較すると、承太郎は高校生だというのに随分といい体躯をしているな」
「なまえさん、裾を踏むと危ないから気を付けて」
しみじみと言っている言葉は何処かズレているアヴドゥルと、くすくすと笑いながらも気遣いの言葉をかける花京院。
そして、四人の視線の先である承太郎もどきことなまえは、度々ずり落ちてくる学生帽をかぶり直す。
「ふふっ、実は学ランって一回着てみたかったんだ。…だからね、」
くるり、全身を180°回転させれば、長い学ランの裾がまるでスカートのように広がる。
後方からこちらへと向かっていた承太郎へ、なまえはにっこりと微笑んだ。
「ありがとう、承太郎」
「ありがとうじゃねえよ。人が着替えてる隙に勝手に持って行きやがって」
「ごめんってば。後でちゃんと畳んで返すから」
「そういう問題じゃねえ…」
一つ溜息を吐き、他のメンバー同様に焚火の側へ腰かける。
特別冷え込みの厳しい今夜、承太郎はいつものタンクトップに厚手のジャージを着込んだのだ。
「なまえ、もう気は済んだだろう。さっさと脱ぎな」
「やだ承太郎ったらみんなの前でっ」
「やめろ。誤解を招く言い方はやめろ」
「二人が恋仲だということは知っていたが、そうか…二人とも大人だな」
「花京院は純情少年だったんだねぇ」
「なんだ嘘かよ。つまんねーなぁ」
「うん、ポルナレフは最低だね」
「なんじゃ、なまえが嫁いで来るって話じゃあないのか」
「その反応は嬉しい反面重いですジョースターさん。いえ、おじい様っ!」
「それならわたしが二人の未来を占ってみせようか」
「いえ、未来は二人の手で切り拓いていきます!」
「どうでもいいからさっさと脱げ。汗臭くなるだろうが」
「うわああそんなにわたし臭かった!?気が付かなくてごめぇえんッ!」
たった一言で謎の展開を見せた仲間たちに頭痛を覚えながら放った承太郎の言葉に、なまえは慌てて制服を脱ぎ始める。
先ほどまでワーワーと好き勝手なことを言っていたなまえ以外のメンツは、今度は示し合わせたように承太郎を白い目で見た。
「承太郎お前…女の子に対して汗臭いはねえだろ…」
「違う、なまえがじゃねえ」
「うぅ…、え、わたしじゃあないの…?」
ポルナレフの非難の言葉を否定した承太郎に首を傾げる面々。
ジョセフだけが「言葉が足りないんじゃまったくお前は」と溜息を吐いている。
「日がな一日その制服着てんだ。汗臭ェに決まってんだろうが」
だから早く脱げ。そう続ける承太郎の言葉に、なるほどと一同は理解した。
つまりは、“制服に”対してではなく、その制服を着ている“なまえに”対しての言葉だったのだと。
「…承太郎のにおいなら、平気なんだけどな」
先ほどかぶり直した帽子を、今度は両手で鍔を引き下げるなまえ。
表情を隠すその仕草は承太郎本人も間々見せるものであるが、実際はかなりの相違がある。
似て非なる。むしろ発揮する破壊力は別物といっても過言ではないほどだ。
遥か異なるサイズの学ランにより、普段から華奢に思える彼女の身体はより一層細く小さく見える。
そんな彼女が、袖から指先ほどしか出ていない両手で必死に上気した顔を隠そうと帽子を引き下げている様は、さながら小動物のよう。
その姿は恋人であるなしに関係なく、庇護欲を駆り立てる。
加えて殺し文句のような言葉を発したとすれば、果たしてどうなるか。
「…分かった。そこまで言うなら嫌ってほどおれのにおいを移してやる」
「え、承太郎?目が、なんか目が怖いよ?」
答えは、暴走する。
end
「承太郎の制服(一式)を着てみる」とのリクエスト。
実際、学ランとか鎖ついてるし重そうだな。とか、色々と妄想想像しながら書かせて頂きました。
素敵お題を頂き、ありがとうございました。個人的には楽しゅうございました!
少しでも楽しんで頂けましたら光栄です…!
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