承太郎に一方通行な愛をぶつける
「おはよう承太郎くん!今日もかっこいいね凛々しいね!ああ、今日も朝から承太郎くんを見られて先行き良好、わたしの世界は光に満ちているよ!大好き!」
またコイツか…。
承太郎は小さく溜息を吐いた。
いつもどおりの時間にいつもの道で遭遇した女生徒は、承太郎と同じ学校の更には同じクラスのみょうじ なまえ。
こうも毎日毎日出くわしていれば、最早これは“遭遇”などではなく、恐らく張り込まれているのだということは考えるまでもない。
だがしかし彼女は比較的無害だった。
他の女子と違い、言いたいことだけ一方的に告げて去っていくのだ。いつも。
だから承太郎もわざわざいつもと違うルートに変更したり、彼女に鬱陶しいと怒鳴ることもない。
「(よう分からんやつだ…)」
今日もいつもどおり言いたいことだけ言ってたったか先に学校へ向かう彼女の背中を見送りつつ、承太郎もまた同じ方向へと歩を進めるのだった。
彼女…なまえは気が付けばだいたい承太郎の側にいる。
移動教室の時にほぼ同じタイミングで教室を出たり、珍しく体育に出れば幾人かのギャラリーの中に必ず紛れていたり。
これは流石に偶然だと思うが、席が隣になったり。
「わぁ、承太郎くんの隣!これは運命ってやつかな?」
「偶々だ」
「っ、」
ガタガタとクラスメイトたちが席を移動させている中、満面の笑みで運命論について一人熱弁していたなまえに、承太郎は思わず思考を言葉に出してしまった。
初めての“会話”になまえは目を見開き、その表情は明らかな驚愕を表していた。
「…まぁ、暫くはよろしく頼むぜ」
「…え、あ、よ…よろしく…」
いつも一方的に投げられる饒舌は何処へ行ったのか。
目をぱちぱちと瞬かせながら返されたのは、もごもごと歯切れの悪いものだった。
それからというもの、なまえは教師にチョークをぶん投げられてもだいたい数秒後には承太郎の方を向いているようになった。
けれどそのくせ本人と目が合うと途端に黒板の方へと向きを変える。
かと思えば、承太郎が鉛筆を落とそうものならすかさず拾い上げ、
「承太郎くん、この鉛筆、芯が折れちゃったみたいだから代わりにこれ使って!」
と言われ、何故か自分のものとほぼ同じような鉛筆を渡される。
そして元の鉛筆は返ってこない。
「(なんなんだ…)」
本気で訳が分からない承太郎は、それでもこの女に流されてはいけないと思った。
毎日のように繰り返される「大好き!」は無言で返し、理論不明な運命論には「偶々」「偶然」「思い込み」で返した。
だがしかしどうしたことか。
なまえは一向に笑顔のままだ。
むしろ「最近承太郎くん返事してくれるから嬉しい」などと言う始末。
しかし確かにそうだ。言われてみれば。
他の女子に対して放つ言葉は「やかましい」か「鬱陶しい」くらいではないだろうか。
それに比べれば随分と会話らしいことをしている気がする。
それはなまえが、承太郎のどんな言葉であっても怯まず、凹まないから。
そして以前と変わらず、基本的には承太郎の返答に期待をしていないからなのだろう。
「おはよう承太郎くん!今日は寒いね。でも大好きな承太郎くんを見ていれば体温も高くなるってものよね。ああ、承太郎くんの隣で良かった!」
「ふん、どうだかな」
「え?」
いつもどおりの時間にいつもの道で遭遇したなまえは、相変わらず言いたいことを言ってそのまま先を行こうとする。
しかしそれより早く、承太郎は彼女の言葉に“返事”を返した。
「みょうじ…お前はおれを好きだなんだと言っちゃあいるが、実際おれが何をしてもしなくても変わらねえ」
「うん?」
「例えばおれがお前以外の女と居たところで、お前はそれでも変わらないんだろうぜ」
「そうだね、わたしもそう思うよ」
「そんなもん、本当の意味で好きだって言えるのかよ」
「好きだよ」
唐突に始まった問答だと、承太郎自身分かっている。
しかし、まったくの躊躇なく答えるなまえの表情は、いつもどおりの笑顔そのもの。
「わたしはね、承太郎くんが本当に大好きだから変わらないんだよ。何があってもなくても、この大好きが変わらなければわたしも変わらない」
それはつまり、気持ちが一方的だと自覚したうえで、現状を良しとして受け止めているということだ。
逆に言ってしまえば、諦めているとか、期待していないとか。そういうことだ。
「へへっ、でも嬉しいな!承太郎くんがわたしのことをそんなに意識していてくれてたなんて!」
「は?」
意識していた?おれが?みょうじを?
コイツはまた訳の分からんことを言い始めやがって。
強く脈打った鼓動を無視し、承太郎はそんなことがあるわけがないと…一瞬過った考えを一掃した。
end
「承太郎のことが好きすぎる夢主」とのリクエスト。
私自身思っていた内容とかーなーり、ずれました。なんかこれ、一歩間違えたらヤンデレっぽい…?というかストーカーちっく。
ちょっとでも楽しんで頂けましたら光栄です…!
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