キャプテンにパンを食べさせること
『お題:トラファルガー・ローにパンを食べさせること』
「…、」ガタガタガタガタ…
「なまえ、なにその動き。電伝虫マナーモードごっこ?」
なにかシャチがアホなことを言っているが、正直今構っていられない。そんな心の余裕はない。
今、わたしが手にしている箱は、さっきの戦闘の時能力者であろう男によって作り出されたもの。
奴の余裕ぶっこいた説明によれば、この中にはわたしの大事ななにかが閉じ込められているという。
そして、これを開封し、無事に中身を取り戻すためには、この箱にはっついた紙に書かれているお題なるものをクリアしなければならないとかなんとか。
能力者らしき男をボッコボコにして失神でもさせれば解除されるだろうと思って、説明が終わった瞬間に回し蹴りをしてみたところ、どうも勢いが良すぎたそうで…海にドボンしてしまった。…能力者の方が。
それでもまーいっか。と能天気に構えていたけれど、一向に能力は解除されない。
くそ…あいつ意識保ったまま逃げやがったな…。
で、その問題となるお題が…これだ。ワンツースリー。
トラファルガー・ロー…つまり我らがキャプテンに。パンを。食わせろと。
…うん、つまり死ねってことだな。
「っていうか…わたしの大事なものって…なんだろ」
落ち着いて考えるんだわたし。
命をかけてまで取り戻す価値のあるものなのかどうか。それが問題だ。
大事なもの大事なもの…。
確か奴は生物…ひいては人間も含まれるって言ってた。
…はっ!まさか!?
「キャ、キャプテンキャプテンキャプテェエンッ!!?」
「うるせえ」
ゴスッ!
「ギャッ!」
い、痛い後頭部超痛い鼻血出そう。
…でもでもこの痛み。そして今の声!
「きゃ、きゃぷてぇえん…っ」
あまりの痛みに思わず後頭部を抑えながら屈んでしまったけれど、後ろを振り返ればほら!
わたしの一番愛しい人!きゃ!愛しい人だなんてやーだわたしったらだいたーんっ!
「うへへへへ…」
「…後頭部強く打ち過ぎたか…?泣きながら笑ってやがる、気色悪ィ」
よかった。キャプテンがとんでもなくつめたーい視線を落としてくるけどでもそんなのいつものことだし。むしろご褒美だし。
キャプテンがいればそれだけで幸せ。
ていうかよく考えたら、そもそもお題がキャプテンにパン食べさせるってことなんだし、キャプテンが閉じ込められてるとかないよね。
どんな無理ゲー?ってなるもんね。
もういいじゃん箱の中身とか。
どうせまたどこかの島で入手できるようなものだろうし。
…その時のわたしはそう思ってた。
自分の部屋に戻るまでは…。
◇翌日◇
朝。ダイニングのいつもキャプテンが座る席にそれとなくさりげなくパンとコーヒーを置いておいた。
…キャプテンが席を外した時、コーヒーだけが空になっていた。
胃に悪いよキャプテンっ!
昼。コックに頼み込んでグラタンの下に食パンをサイコロみたいに刻んで入れてもらった。
…キャプテンは上のホワイトソース部分だけを削るように食べて、隣でちらちら見守っていたわたしの皿にパンをぽいぽいシャンブルズしてきた。…いや、普通にフォークで横流ししてただけなんだけど。
…お行儀悪いよキャプテンっ!
ていうか、さすがにお腹溜まるわ。
その後も腹に鞭打って色々試した。
ジャンバールとわざと大きい声でパンについて語ったり、シャチとパンの新たな可能性を模索してみたり。
もしかしてわたしの手作りなら食べてくれたりして!?と迷走して作ったベポパンは、「…お前はベポを食うのか?」と非道な人間を見るような目で静かに批難された。
「…どうしたらいいの…」
ダイニングのテーブルにほっぺを片方くっつけて、憎き箱を片手でコロコロと弄る。
なかなか美味しいベポパンを仕方なく自分で食べながら考えるけど、正直いい考えなんかこれっぽっちも浮かばない。
ベポの白さを表現するために表面に塗ったホワイトチョコと、お顔を描いたチョコ。
こんなに甘くて糖分たっぷりなのに、ああなんてこと。わたしの脳みそは“諦める”なんていう言葉を思い浮かべてる。
「はぁ〜…」
「お前が溜息とは珍しいな」
「キャプテン!どうしたんですか?」
「コーヒー飲みに来ただけだ」
「じゃあじゃあ!わたしがキャプテンのために愛情たっぷり豆いっぱいで淹れて差し上げますよ!」
「豆は普通でいい」
「アイアイ!」
豆は普通でいい?ということは愛情は欲しいってことですねキャプテン!もう、欲しがり屋さんめ!
さっきまで沈んでいた気持ちが嘘のように、わたしは意気揚々とキッチンスペースに向かい、コーヒーを淹れ始める。
自慢じゃないが、わたしの淹れるコーヒーは結構美味しいと評判だ。
まぁもちろんハートの中で、だけど。
キャプテンのためにえんやこらさっさとコーヒーを淹れて持って行くと、キャプテンはいつもの席に座り新聞を読んでいた。
「キャプテン、どうぞ」
「ああ、悪いな」
「いえいえ」
キャプテンがクールに新聞読みながらクールにブラックのコーヒーを飲む。
キャプテンまじクール!マジかっけーっす!
だってわたしブラックとか苦手だもん。べ、別に飲めないわけじゃないんだからね!
幸せ気分でクールクーラークーレストなキャプテンの横顔を眺める。
カタン
キャプテンがコーヒーカップを置いた時、ほんの少しだけ彼の手がベポパン…の、耳の部分だけが残った皿に触れ、小さく音を立てた。
「あ、すみません」
「なんだそれ?」
「あー、えっと、わたしのおやつ?です」
さっきそりゃあもう批難されたあのベポパンですとは流石に言いづらかったので、ごにょりと言葉を濁してみた。
キャプテンは聞いた割りには特に興味がないそうで、「そうか」とたった三文字口にしただけだった。
と、思いきや。思いきやである。
ぱくっと。食べたのだ。キャプテンが。あのキャプテンが!ベポの!いや、パンの!耳を!いやいや耳部分を!
「えっ、え?!キャプテン!?」
「…あめぇ」
「そりゃそうですよ、チョコ塗ってあるし…ってそうじゃなくて!」
パンですよ!?
そう言いたかったのに、でも言わない方がいいのかなとも思ったり。
わたしが一人パニックをおこしていると、ガチャリと鍵が開くような音がした。
それは迷うことなく例の箱が開いた音。
その音にパニックすらもぶっ飛んで、わたしは恐る恐る箱を持ち上げ、蓋を…開ける。
「…や…ったぁ…!」
中身を取り出し、思わず歓喜の声を漏らしたわたしに、キャプテンもちらりとこちらに視線を寄越す。
「…なんで2年以上も前の手配書なんか持ってんだ」
閉じ込められていた、わたしの大事なもの。
それはキャプテンが初めて億越えをした時の手配書。
今よりちょっぴり若くて、人相悪くて(今のもそうか)、かっこいい(今も!)。
実は今まで手に入った手配書は全部とっておいてるんだけど、中でもこれは…億越えした時のは特別だ。
よかった。取り戻すことができて。
わたしが手配書を眺めながらちょっと泣きそうになっていると、キャプテンは「訳が分からねえ」と言ってもう一度コーヒーに口をつけた。
end
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