虹村くんに勉強を教えること


「なになに〜?『お題:虹村 億泰に勉強を教えること』ぉ?」

「…うん、そうなの」

幽波紋使いによってわたしの大事ななにかしらが閉じ込められているという箱を開けるための『お題』。
それを読み上げた東方くんにわたしはひとつ頷いてみせる。

数か月前、矢に射られたことで幽波紋使いの仲間入りをしてしまったわたしは、なんやかんやで広瀬くん、東方くんと知り合うことができた。
だから今回のことを相談する宛てがあったのはとても心強いのだけれど、残念なことに…わたしは虹村くんとはほとんど面識がないのだ。

わたしは広瀬くん、東方くんとも、虹村くんとも違うクラスだし、委員会だって違う。
虹村くんはその、何処からどう見ても不良、というか、目立つ、というか。東方くんたちと良く一緒にいるのを見かけるし、わたしは彼を一方的に知っているけれど、虹村くんは何度か顔を合わせたことがあるだけのわたしのことなんて…名前すら覚えていないかもしれない。

そんな相手に勉強を教えるだなんて…一体どうしたらいいの…?

「で、でも、テストで100点取らせる、とかじゃあなくて良かったね」

「ははは!ちげーねえ!」

「えええ、フォローになってないよ二人とも…」

もう、二人とも他人事だと思って…。なんて、相談に乗ってもらっている立場上言えないけれど。

「おお?仗助、康一〜、なにやってんだこんなトコで」

「お、噂をすればってやつだな」

「虹村くん…!わわ…どうしよう…っ」

「大丈夫、僕らに任せて」

突然のご本人登場で慌てるわたしに、広瀬くんはにこっと笑ってそう言ってくれた。

ちょっと不安はあるけれど、今はこの二人に頼るしかない。

「おー、億泰。おれら今、今度のテストに向けて勉強会でもするかって話し合ってんだけどよぉ、おめーも来るか?」

「勉強会ィ?!なーんでおめーらと顔突き合わせて勉強なんて…、」

「でもさぁ億泰くん、今度のは落としたらマズイって。夏休みに講習受けたりしなくちゃあならなくなるんだよ?」

「う…っ、それは嫌だな…」

「だろ〜?だからよぉ、おめーも来いよ億泰」

「うぅ〜…ん」

おお…!虹村くんがだいぶぐらついておられる…!
ハラハラと見守るわたしだったけれど、これはイケそうな気がしてきたよ…!

腕を組み目をとじて考えている虹村くんが気付かないように、広瀬くんと東方くんが「もうひと押しだ」って言うようにアイコンタクトをしている。

そして東方くんが虹村くんに何か耳打ちをすると、虹村くんはぱちっと目を開き…そしてわたしを見た。

「(な、なんだろう…?)」

耳打ちの内容は流石に聞こえないので困惑するけれど、とりあえず目が合ったのでぺこりと頭を下げてみる。

「…しょーがねぇなぁ〜ッ!わーったよ、行くよ!勉強会でもなんでも!」

「うっし、じゃあ日取りとかテキトーに決めとくか」

虹村くんがやけくそみたいにおっきな声で叫んだかと思うと、東方くんがこっそりわたしに向けて親指を立ててくれた。

そして広瀬くんが「みょうじさんもおいでよ」とナチュラルに呼んでくれたおかげで、スムーズに輪の中へ入ることができた。

「えっと、虹村くん、わたしみょうじ なまえです。よろしくお願いします」

「おー、知ってるよ、あんたのこと。何回か顔合わせたことあるよなァ」

「あ、覚えていてくれたんですね…!」

「お、おう…まーなぁ」

覚えていてくれたことが嬉しくて、不思議と緊張なく接することができた。
それに、不良で、ちょっと怖い人かもしれないと思っていた彼自身が、とっても明るく気さくに話してくれたおかげで、距離が縮むのも早く感じる。

この分なら、勉強会でもさりげなく教えることができるかもしれない。

わたしは人よりすごく勉強ができるってわけじゃあないから、勉強会までにテスト範囲、おさらいしておかなくっちゃ。

…そういえば、あの時東方くんは虹村くんになんて耳打ちしたんだろう?

今更だけれど気になって、虹村くんとお話する合間にちらりと二人を振り返る。
その時二人は、顔を見合わせながら満足そうに頷いていた。

今回はそのアイコンタクトの意味を汲み取ることができなくて、わたしは小さく首を傾げるのだった。


−…「勉強会によォ、みょうじも誘ってんだ。お前、前会った時に気になるっつってたろ」…−


end




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