シーザーと相手の好きなところを言い合うこと
◇シーザーも普通に幽波紋を知っているというn巡目的パラレル。
シーザーとの待ち合わせ場所へ向かうわたしの足は、平常よりも随分ゆっくりとした動きで歩を進めている、
なのに、まるでさっきまで走っていたかのようにバクバクと強く早い鼓動の原因は、片思いの相手であるシーザーに会えるから。…だけではない。
鞄の中にしまわれた小さな手乗りサイズの箱へ目をやると、必然的に視界に映る一文の文字。
『お題:シーザー・A・ツェペリと相手の好きなところを5つ言い合うこと』
「うぅ…」
何度見ても変わらないその一文に、思わず小さく唸ってしまうのは仕方のないことだと思う。
好きでもない人ならいい、というわけではないけれど、よりにもよって片思い中の人に…そんな…!
事情を話せば、きっとシーザーは笑顔で引き受けてくれるだろう。…悔しいけれど、彼はいつも多くの女性に甘い言葉を紡いでいるし。わたしの呼び出しに対しても二つ返事で了解してくれたし。
でも、問題はわたしの方。
告白する勇気がなくてずるずると片思いを長引かせているのに、突然本人を目の前にして彼の好きなところを言う、だなんて…。
ぐるぐる考えながらも、ゆっくりながらも。歩を進めていればやがて目的地には到着する。
家でじっとなんてしていられなかったわたしは、約束の時間よりも随分早い時間に出発した。
だからこそ時間を気にせず思う存分ゆっくりゆっくり歩いていたわけだけれど、結局今、集合場所…噴水のあるこの公園に、約束の時間より20分も早く到着してしまった。
「どうしよう…20分…」
公園内の時計を見上げて悩んだけれど、結局わたしは噴水の向かいにあるベンチへと腰かけることにした。
待つのは嫌いじゃあないし、噴水を眺めていれば少しは気持ちも落ち着くかもしれない。
そう思って。
しかし、そんな余裕はなかった。
「なまえ!もう来ていたのか」
「シーザー…!?」
ふぅ、と腰を降ろして、落ち着け自分と言い聞かせながら目を閉じて深呼吸して。うそ、そんな動作に20分もかけてたの?!
耳心地の良い声に名前を呼ばれて目を開けると、そこには思い描いた人物が。
わたしは困惑して、近づく彼と、時計を交互に見る。
時計は、約束の時間よりも15分前を指している。
「すまない、急いで来たつもりだったんだが…」
「う、ううん!わたしが早く着きすぎちゃって…。実際まだ15分も前だよ」
「いいや、なまえを一人で待たせてしまうことが問題なんだ。キミみたいな可憐な女性が一人で居たら、悪い虫が寄ってきてしまうだろう?」
「そんなことないよ。わたしなんか、…ん、」
ベンチから立ち上がり、目の前まで来てくれたシーザーを見上げると、彼は人差し指をわたしの唇にそっと当て、わたしの言葉を閉じ込めた。
シーザーはとても優しい笑顔を浮かべていて、それに見惚れてしまったわたしはもうそれ以上言葉の続きを言うことはなかった。
◇それからどうした◇
「…と、いうわけなの」
公園近くのカフェに入り、向かい合わせで今回彼を呼び出した理由を説明する。
テーブルの上に置かれた小さな箱を手に取り、目線の高さまで持ち上げてはしげしげと見つめるシーザーは真剣な表情。
…ああ、いつもの優しい表情も大好きだけれど、鋭い目をしている彼も本当に素敵だなぁ…。
「…なるほど、事情はわかったよ」
「協力、してくれる…?」
「…」
相変わらず真剣な表情のまま箱を眺めるシーザーは、口元を手で覆い、意外にも了解を悩んでいるようだった。
その様子に、わたしはどんどん不安になっていく。
箱の中に閉じ込められたわたしの宝物のことはもちろん、…シーザーに、嫌われているんじゃあないか…って。
シーザーは優しいから、気は進まないけれどわたしの呼び出しに応じてくれて、優しい言葉をくれていたんじゃあないか。
本当は、こんな面倒なことに巻き込まれて内心怒っているんじゃあないか。
…そう考え始めてしまったら、じわじわと目頭が熱くなっていくのを感じた。
ダメよ、泣いたりなんかしたら余計に面倒くさい、鬱陶しい女って思われちゃう…!
「あの…ごめんなさい、やっぱり、」
「協力するのは構わないんだが、その前にひとつ教えてくれないだろうか?」
「…え?」
シーザーから箱を返してもらおうと手を伸ばしかけた時、少しの間黙っていた彼は神妙な面持ちで口を開いた。
「その箱の…中身を、教えてほしいんだ」
「なかみ…?」
鍵が開けば自然に分かることなのに、一体どうして…?
「…もし、その中身がなまえの想い人だったり、なまえへ宛てられた恋文だったりしたら…俺はどうなるか分からん。だから事前に心の準備を…させて欲しいんだ」
首を傾げているわたしの心中を察し、珍しく視線を逸らして意図を教えてくれる彼。
…なるほど。確かにそうよね。
もし仮に逆の立場だったとして、箱からシーザーの恋人や想い人が出て来たら…彼が誤解されないように言い訳のひとつやふたつ、考えておかなくちゃあいけない。
恋文だって、心の準備なしに人様のものを見てしまったら反応に困るだろうし。
シーザーはそれで悩んでいたということ?
嫌われているわけじゃあなかったってことだよね…。…よかったぁ…。
「中身はね、ブレスレットなの。ちょっと前に貰った、大事な宝物」
「…それは、恋人からのプレゼント?」
「…ううん、違うよ」
残念ながら、という言葉は飲み込んで笑ってみせると、シーザーは険しかった表情を緩め、「そうか」とひとつ頷いた。
「好きなところを5つ、か」
「難しいかもだけど、よろしくお願いします」
「確かに難しい。どうやって5つに絞り込めというのか」
「…っ、」
うぅ、まだなにも言ってないし言われてないのにドキドキ心臓がうるさいよ。
「それじゃあ、ひとつずつ交互に言い合うっていうのはどうだろう」
「えっ!?こ、交互に?!」
「その方がドキドキするだろう?」
そんなちょっとかわいい笑顔で言われても…!
というか、もう充分すぎるほどドキドキしているのですが…っ。
シーザーの提案に異を唱えようにも、それらしい言い訳も浮かばず、結局言わなくてはならないのだからと思うと、ただ数回口をぱくぱくさせて…結局頷くことしかできなかった。
「まず、笑顔がとてもチャーミングなところ」
「…ほんのり石鹸の香りがするところが、清潔感があって…す、好きです」
「今みたいに顔を隠してしまうのは惜しいが、恥ずかしがり屋で照れ屋なところ」
「っ!?あ…っと、優しい言葉や行動をさりげなくしてくれるところ…」
「ついつい甘やかしてしまいたくなる程真っ直ぐで努力家なところ」
「お話する時、ちゃんと顔を見て話してくれるところ」
「俺を頼りにしてくれるところ」
「すごく、頼りになるところっ」
「…一緒にいて、幸せを感じられるところ」
「え…っ!?」
「ほら、最後のひとつだ、なまえ」
「え…あ…、…〜っ、ず、…ずっと…一緒にいたい、と…思えるところ…っ」
ガチャン、テーブルの上の箱から、鍵が開く音が聞こえた。
しかしわたしは両手で顔を隠すのに精一杯。
シーザーは、「友達として」という意味でとったのかもしれないが…わたしとしてはとても今彼の顔を見ることはできない。
「…なまえ、開けてもいいか?」
「…うん」
わたしが頷くと、シーザーがテーブルの上で箱の蓋を開く。
「…これは、」
中のブレスレットを手にとり、シーザーが小さく声をあげた。
…覚えててくれたのかな。それか、思い出してくれたのかな。
それは、シーザーから貰った初めてのプレゼント。
「…これがなまえの宝物、か」
「…うん、知り合ってから初めての誕生日に貰ったものだから…思い出深いっていうか、大事に、してるの」
「そうか、…まさか、俺が贈ったものが出てくるとは…」
「…シーザー…?」
「いや、嬉しくて堪らないんだ…本当に」
「…?」
シーザーは何処か泣き笑いみたいな表情を浮かべて暫くブレスレットを見つめた後、そっとわたしの手首にそれをつけてくれた。
end
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