承太郎と「愛してる」を言い合うこと
◇
承太郎×執事シリーズの空条夫婦。徐倫ちゃんは4歳くらい。承太郎さんはあんまりいないという罠。
カツン、と音を立てて地面に落ちたそれは、小さな箱だった。
まさかこんな久しぶりに、幽波紋によるトラブルに巻き込まれるなんて想像もしていなかったわたしは、見事に敵の術中にはまってしまったらしい。
しかも攻撃者はヒット&ラン。
わたしの幽波紋の射程距離外へと逃走されてしまった。
「『お題:空条 承太郎と「愛してる」を言い合うこと』…?」
ふむ、意味が分からない。
地に落ちた箱を拾い上げてみると、どうやらそれには鍵かなにかがかかっているらしい。開くことはできなかった。幽波紋で試してみても同じ。
箱に付けられている紙には、『お題』なるものが書かれている。
そして先ほど聞こえた、恐らくこの能力の名前…『Automatic Treasury』…。
『Automatic』…意味は、自動の、自動式の、自動的な、無意識的な、機械的な…あたりが代表的だろう。
『Treasury』は…宝庫、財宝置き場、宝典、名詩集基金、資金…。
組み合わせとしては…自動式宝庫、あたりが妥当だろうか。
能力名から考察するに、攻撃対象者の宝をこの箱に閉じ込め、解除する条件として『お題』を提示している…。とか。
「…うーん、とりあえず外傷はない…一旦家に戻らなくちゃ…」
なんだかよく分からないまま、わたしはひとまず帰宅することに決めた。
だって今、買い物帰りだし…。
敵を追うことも考えたけれど、スーパーの袋を持ったまま走り回るのもいかがなものかと思うし、
生物だってある。
いや、そんなことよりも、だ。
「徐倫…」
万が一、ということもある。
近場だからと、すぐ帰るからと、一人家に残すんじゃあなかった。
いや、考えようによっては一緒にいなくてよかったのかもしれないが、今は考えていても仕方がない。
わたしは、可愛い娘が一人待つ家へと走り出した。
◇それからどうした◇
「ただいま。徐倫、いる?!」
「ママ、おかえりなさい!」
「…よかった…。何か変なこと、なかった?」
「?徐倫、いいこにしてたよ?」
「…そう、徐倫は偉いね。いい子」
玄関に入るなりとたとたとわたしを出迎えてくれた徐倫に変わった様子はない。
安心してその小さな身体をぎゅっと抱きしめる。
自身に外傷もないし、娘も無事。
となれば、再び徐倫を一人残して外の敵を探すより、徐倫と一緒に彼を…承太郎の帰りを待つのが無難だろう。
例の箱は、それこそ何があるか分からない。
徐倫が触れないよう、寝室の方へと置いておこう、
「さて、徐倫ちゃん。ハンバーグ作るお手伝い、してくれるかな?」
「ハンバーグ!おてつだいするーっ」
「ふふっ、じゃあ一緒に頑張ろうね」
「うんっ!」
◆それからそれから◆
「ただいま」
夜も20時を30分程過ぎた頃に聞こえた、合鍵を使って合法的に開かれた玄関の音と、聞き慣れた低音の声。
承太郎が帰るまではと気を張っていたわたしには、それらの音が徐倫の部屋にいてもよく聞こえた。
「おかえりなさい、承太郎」
「ああ。…徐倫は?」
「今日はもう寝ちゃった…っていうか、寝かせたの」
「…?」
いつも、余程遅くならない限り「パパがくるまでまってる…」と、眠い目を擦って起きている徐倫。
このくらいの時間であれば、ギリギリ承太郎の顔を見てから眠りに就く。
承太郎にとっても、帰ってから一度娘と顔を合わせるのが癒しになっていることを知っているから、徐倫にも承太郎にも悪いとは思う。
けれど、徐倫をできるだけ幽波紋絡みの話に関わらせたくないという想いは、わたしも彼も同じだろう。
だから今日はわざと色んなことを手伝ってもらって、眠気を誘うような声色で絵本を読んで。
眠りに落ちたその頬に口づけたのは、ほんの5分程前。
「ええっと…、とりあえず話は後で。先にご飯にしよう。用意するから、ゆっくり着替えてきて?」
「よく分からんが…離婚話ってわけじゃあねえんだな」
「えっ!?違うよ、なんでそうなるの」
疲れて帰ってきたところにいきなり幽波紋絡みの話を突きつけるのも酷い話だし、まずはご飯を食べてもらって…それから。
話すタイミングを色々と考えていると、承太郎から思いがけない言葉が飛び出して来た。
昼間といい、最近気が緩んでるのかな、わたし…。
すごく間抜けな声を出してしまった。
「違うならいい。…愛してる」
ちゅっ
「…わ、わたしも、愛してるよ」
お互いの頬に唇を寄せ合う。
「愛してる」の言葉を添えて。
これは初めてのことじゃあない。
承太郎が口にした離婚話云々は関係なくて、むしろ…毎日の、恒例だったりする。
それは徐倫も例外じゃあなくて、一日一回、家にいる時は必ず誰かに「愛してる」と言われ、その言葉を返す。
キスの場所はその日によって違うけれど、これがわたしたち空条家の習慣。
だからこそ、例の箱を開くために課せられた『お題』を見ても特に狼狽えることがなかった。
しかし、『お題』の話をするまでもなくクリアしてしまった。
今頃寝室で鍵は解除されているんだろうか。
確認はする必要があるけれど、今は焦る必要もないだろう。
だって、今は頼りになる愛しい人が、側にいてくれるのだから。
end
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