リゾットさんと同郷の恋人
「お疲れ様です、リゾットさん」
どうぞ、と笑顔で玄関を広く開け、なまえはリゾットを自宅へと招き入れた。
リゾットがこの家を訪れることは初めてではなく、恋仲になってから幾度か繰り返していることではあるものの、未だに彼自身は彼女の家に踏み入るこの瞬間がどうにも落ち着かない。
警戒だとか、ましてや緊張しているというわけではない。
ただ、日頃のアジトでの生活と比べ、なまえの家はあまりにも自分に似つかわしくない。この場所、空間にとって、自分が異物であるように感じてしまう。
そんな違和感を抱えつつも、リゾットは「邪魔をする」と静かに告げ、なまえはそれに笑顔で頷く。
「コーヒー淹れますね。夕食は摂られましたか?」
「いや…」
「じゃあ一緒にパスタでも用意しましょうか」
「いつもすまないな」
「いえ、仕事以外で一緒に居られる時間は、少しでも長い方がわたしは嬉しいです」
さらりと出た言葉は紛れもなくなまえの本心であったが、なまえ自身、思ったよりも恥ずかしいことを面と向かって言ったものだと自覚し、徐々に頬が熱くなるのを感じた。
それを誤魔化すような話題もすぐには思いつかず、なまえはリゾットに告げたとおり、足早にキッチンへ向かった。
リゾットはリビングの椅子に腰掛け、なまえはキッチンでコーヒーと軽い食事の支度をする。
暫く、無言の時が流れた。
シチリアの人間はよく喋る、という印象を持たれているそうだが、この二人には当てはまらない。
かといって、二人にとってこの無言の時間は苦痛ではなかった。
チームの面々と交わす仕事上の会話も、それ以外の他愛ない雑談も。
どれも苦痛と感じることはないのだが、この二人だけの空間というのはまた特別なもので。
殺伐とした稼業とも、喧騒の絶えない街中とも切り離された、ゆったりと時が流れる空間。
「リゾットさん、お先にコーヒーどうぞ。…あ、」
コーヒーを注いだカップをリゾットへ差し出したなまえは、テーブルの上に飾っていた花を眺める彼に気がついた。
なまえは花が好きで、花屋に通っては気に入った花を買い、普段からその定位置に飾っていた。
リゾットがそこにある花に興味を示したのは、恐らく初めてだ。
「オレンジの花か」
「はい。この香りで
故郷を思い出しまして…」
白い花弁を見つめていたリゾットだったが、珍しく歯切れの悪い彼女が気にかかり、すぐに視線を移した。
なまえの表情から、何事かを考えていることが分かる。
普段から培われている観察眼のおかげで、それがなんとなく…自分を気遣っているのではないかと頭に浮かぶ。
自分の過去を知っている彼女のことだ。
故郷のことは思い出したくないかもしれない、などと考えているのかもしれない。
そう、リゾットは結論付けた。
「…ああ、オレも懐かしい気分になれた。たまには花というのも、悪くないな」
「!…はいっ」
少し伏し目がちだったなまえの瞳が、弾かれたようにリゾットを見つめる。
そしてすぐに、それは嬉しそうな笑顔で返事をするものだから、リゾットも思わず口元が緩む。
そのまま腕を伸ばしてなまえの頭を軽く撫でる。
「…あの、なんだか子供扱いしていませんか?」
「年下とはいえ、子供扱いしているようなら付き合ったりはしねぇ」
「そう、ですね…」
どこか複雑そうな表情を浮かべながらも、なまえはその心地良い体温に身を任せた。
ピピピッとキッチンタイマーがアルデンテを知らせる、その瞬間まで。
end
水仙様より、『リゾットとお花好きの恋人でほの甘』(ざっくり)とのリクエスト。
リクエスト頂いた際、諸々詳細に書いて頂いたのですが…なんというか、リクエスト頂いた内容の7割くらいしか反映できていない気がします;
他のメンバーも出したかったのですが、とにかく二人のほんわかした雰囲気を出したくて、このような仕上がりになりました。
少しでも楽しんで頂けたら嬉しく思います。
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