ディオに髪を切ってもらう


◇『ディオと貧民街少女』の番外編。
 ↑よりはシリアスじゃない雰囲気小説。


シャキン

それほど大きくはない金属音。しかし耳につく音を発するその行為を何度か繰り返し、ディオは小さく息を吐いた。

「なまえ、始めるぞ」

「うん。よろしくお願いします」

ディオに背を向け座ったまま、なまえは答える。その瞳は鏡に映るディオを見ているが、それはただ眺めているだけの、監視を目的とした視線ではない。

ディオはそれが不思議だった。不思議、というよりは理解し難いというような、ほんの少し無防備すぎるその後ろ姿が心配になるもので。

自分の背後に刃物を持った人間がいたら、果たして自分はそんな目ができるだろうか。

考えるまでもなく答えは出ていた。

鋏だって凶器だ。よく手入れをし、人並みの握力を持っていたなら皮膚を切り付け血管を分断することができる凶器。

貧民街で隠し持つには絶好の人殺しができる道具だとディオは思う。

しかし警戒心など欠片も感じさせない目の前の彼女は、ただ紙や糸を切るための、あるいは今のように髪を切るための便利な道具としか考えていないのだろう。

そして自分を絶対的に信頼しているのだろう。ディオは心配の中に喜びが混じっていることを無自覚に感じていた。

シャキシャキと小気味良くリズムを刻みながら、なまえの髪が床に散らばっていく。

勿体ないなどと思うのは、それがなまえから離れた瞬間にただのゴミに変わるからだ。

なまえを構成していた一部分がゴミに変わる。なんの価値もくなっていく。

縦に横にを繰り返し、最後は床に落ち切らなかったゴミを払う。

「終わりだ」

「ありがとう、ディオ。わぁ、本当にディオは器用だね」

「別に。ただ適当に切っただけだ」

鋏をテーブルの上に置き、鏡を見ながら嬉しそうに微笑むなまえを横目で捉える。

このディオがヘマをするものか。そう上辺で思いながらも、その実彼女の笑顔に安堵したディオ。

「待ってて。すぐに片づけてお茶を用意するから」

「ああ」

ゴミとなったなまえの一部分。いや、一部分だったものが散らばる床を、椅子に腰かけながら何とはなしに眺める。

指に残る感触。鼻を掠めるほのかな匂い。
それらは確かになまえだった。

片づけられていくそれを見ながら、ディオは呟く。

「もう髪は切らん」

「え、あー、ごめんね。無理にお願いしちゃったから、」

「違う。なまえが減るのが気に食わん」

「わたしが減る??」

何も分かっていない表情で首を捻るなまえに、ディオは短く息を吐く。椅子から立ち上がり、なまえの前へ。

「髪は女の命というだろう。大事にしろ」

見上げる彼女の切り揃えられた髪を撫でつけ目を細めるディオに、なまえは相変わらず困惑顔だ。

「(何だかよく分からないけれど…大事にされているのは分かるんだよなぁ)」

変なところで不器用で、言葉が足りない節があるかわいい弟のような存在。そんな風に思っているのも、思えているのも、世界中に彼女ただ一人。
その事実を彼女は知り及ぶところではないが、それが彼女にとってのディオ・ブランド―なのだ。

「ふふっ、じゃあ伸ばしてみようかな」

「そうしろ」

だからこそ、他の人間が見たら卒倒するような彼の柔らかい笑顔も、声も。
何の疑いも持たずにただ「嬉しい」と感じることができるのだろう。


end




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