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工藤邸に到着してしばらく。
名前はすっかり沖矢との会話と食事を楽しんでいた。

(いやーこれはモテるわ)

彼は会話運びが上手く、知識も豊富だ。聞き上手でありながら話し上手でもある。奴は(多分)FBIだぞ…と言い聞かせつつも、すっかりこの時間を楽しんでしまっている自分がいた。

「シチュー、おかわりいかがですか?」
「いただきます!」

彼の作ったシチューは野菜の切り方が大きめで、普段から男料理だなんだと言われる名前にとっては親近感の湧く仕上がりだ。
やや煮込み不足な感もあるが、沖矢のような男前が作ると「頑張ったんだね…!」と思えてしまうから不思議である。ただ、赤井が作ったんだと思うとなんともいえない気持ちになる。

「名前さんは表情豊かで、作りがいがありますね」
「ふふ、試食ならいくらでもしますよ」
「それは助かります」

薄く微笑む沖矢は全く年下には見えない。27歳ってなんだよ、同年代だろ?むしろちょっと年上だろ?名前は内心半目だった。

「沖矢さんは大学のない時は何して過ごしてるんですか?」
「ここで本を読んだり、料理したり、夜は晩酌したり…ですかね」
「お酒好きなんですか?」
「ええ……最近はバーボン一筋でして」
「へえ」

顔はおそらく変装マスクだろう。夜は外しているのだろうか。
名前は彼の手元などマスクでごまかせない部分をチラッと確認するが、赤井の手を覚えていないのでまだ確信には至らない。変装を得意とする者として身体的特徴を覚えるのはお手の物だが、比較材料が絶対的に不足していた。

(赤井を見たのなんてバスジャックの時を含め数回……あとは降谷くん情報だけだしなあ)

降谷情報にはかなりのバイアスがかかっており、参考にならない部分も多い。赤井の能力だけは認めているようだが、それもかなり不服そうだった。

「名前さんは、お酒は?」
「子供舌なので、甘いお酒なら」
「ホォー……。量は飲めるんですか?」
「うーん、すぐ赤くなっちゃうので……正直、自分がどのくらい飲めるのかよくわかってないです」

実際は選ぶ酒の種類や飲み方で、最初から最後まで顔を赤くせず過ごすことも、早々に赤くすることも可能だ。長くは続けられないが、ちょっと赤くなるくらいならシラフでもできる。

「ふむ。ではチョコレートリキュールなども用意しておきますので、次は晩酌をご一緒していただけませんか」
「えっ」
「一緒に飲んでくれるような友人がいないので、いつも一人でして」
「ん、んんー、でも沖矢さんが私なんかと噂になるのも申し訳ないので、夜に二人でっていうのは……」
「……その自己評価の低さはいかがかと思いますが、そうですね……では夕方からお会いして早めに帰るというのはどうでしょうか?タクシーは手配しますし。それと、ボウヤも誘いましょう」

ボウヤというのはコナンだろう。晩酌に子供、と少しぎょっとするが、コナンだしなと思い直す。

「コナンくんも?……ってここで違和感を覚えない辺りがコナンくんですよね。あの子、大人っぽいから」
「ええ。彼がいればあなたも安心でしょう」

苗字名前としてはそのメンバーで会うのは断固拒否したいところだが、偽苗字名前としてはこの辺りが落としどころだろう。

「……わかりました。じゃあまた、コナンくんの都合も聞きつつ計画しましょうね!」

やだなー怖いなーと某怪談家のような心の声になってしまったのは内緒である。




***




「あっ、名前お姉さーん!」

工藤邸を出て米花公園近くに差し掛かると、聞き馴染みのある声がした。名前が辺りをキョロキョロ見回すと、公園から手を振りながら歩美たち少年探偵団が飛び出してくる。

「みんな!」
「名前お姉さん、お久しぶりです!」
「歩美、お姉さんに会いたかったー!」
「姉ちゃんも犬探しするか?」

口々に話す子供たちに囲まれ、名前はわたわたと慌てながらも頬を緩める。少し向こうからは、落ち着いた足取りでコナンと哀も近づいてきていた。

「私もみんなに会いたかったよー!……って、犬探し?」
「今ね、探偵団の依頼で迷子の犬を探してるの!」
「同じクラスの子からの依頼なんです」
「ずっと走り回ってたから腹減ってきたぜ……」
「そ、そうなんだ」

大変だね、と苦笑してみせたところで、「おいオメーら、名前さん困ってるだろ」と呆れた様子のコナンがフォローを入れる。

「ええっと、探すといっても宛はあるの?」

聞いてみると、どうやらコナンの推理で大方の移動範囲は予想がついているらしく、これから聞き込みをしながら範囲を狭めていくところらしい。

「なるほどね。じゃあ、力になれるかはわからないけど……私にも手伝わせてくれる?」

今は特に呼び出しもかかっていないため、少しくらいなら大丈夫だろう。そう判断して協力を申し出ると、子供たちから歓声が上がる。

「……あなたも大概、お人好しよね」
「え?そうかなあ。でも子供たちの喜ぶ姿って、つい見たくならない?」

呆れたように言う哀に笑って返すと、彼女も少し笑ってくれた気がした。




***




それから手分けをして聞き込みをし、目撃情報が増えてきたところで一度合流した。
すると光彦が突然「あっ!」と声を上げる。彼の指差す方向を見ると、迷い犬と同じ特徴を持つ犬が男性に抱き上げられるところだった。

「あのー!その犬、よく見せてもらえませんか?」

全員で駆け寄ると男性はぎょっとした表情でこちらを見る。

『え?なんだい?君たち』

男性の言葉は日本語ではなかった。彼の日本人離れした容姿に気づいた子供達が「外人さんだー!」と興奮したような声を上げる。男性は子供達の大声にたじたじである。

『あの、突然すみません。今みんなで迷子の犬を探していて、もしかしたらその子かもしれないと思ったので……少し見せていただいても構いませんか?』
『ああ、そういうことだったんだ。構わないよ。僕も今、ウロウロしているのを見つけたところだったんだ』

見かねた名前が声をかけると、男性もホッとした表情で犬を地面に下ろした。

結局、聞いていた特徴が一致したことから迷い犬であるということが判明し、男性には礼を言って別れた。子供たちはこれから友達に犬を届けるそうだ。

「さっきの名前お姉さん、カッコよかったねー!」
「なんて言ってるかわかんなかったけどな!」
「さっきのはフランス語だよ……。ね、名前さん?」

コナンの問いかけを肯定すると、「すげー!」「カッコいいです!」とさらなる歓声が上がる。

「喜ぶ顔、見られてよかったわね」

そう話しかけてきた哀に「そうだね」と笑って返す。すると今度こそ優しく微笑んでくれた彼女に、名前はさらに頬が緩むのを感じていた。


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