3-11
子供たちのいるゴンドラに行くため進行方向に向き直った瞬間、轟音が辺りを切り裂いた。
容赦のない銃撃音と地響きすら生む衝撃、壁を紙屑のように破壊していくその銃弾は人の手によるものではない。
「これは……」
(戦闘機でも持って来たか!?)
足元がぐらりと揺れる。咄嗟に哀を抱えて階段下に潜りこむと、キュラソーも隣に滑り込んだ。
「奴らの狙いは私……」
彼女はスカートのサイドを引き裂くと、再び立ち上がる。
「あなた、まさか囮に!?」
「あの子たちを頼んだわよ」
「ダメよ!殺されるわ!」
踵を返そうとしたキュラソーの手を、名前がパシッと掴んで止めた。
「?」
手首を掴んだまま、彼女のブラウスの袖口から発信器を差し込んで装着する。
「………後でね」
その様子をじっと見ていたキュラソーは、名前の目を見て「ええ、後で」と頷き、今度こそ銃撃音の鳴る方向へ消えていった。
「あなた、今の…」
「急ごう。時間がない」
哀を抱えて階段下から出ると、銃撃音が遠ざかっていくのがわかる。上手く引き付けてくれたようだ。キュラソーが向かった先に攻撃が集中的に降り注ぐ。
手摺りから哀と下を覗くと、銃弾を体に受けた彼女がまさに落下していく瞬間だった。
「! そんな……」
哀が絶望的な表情を浮かべる。
名前がキュラソーに発信機を取り付けたのは、たとえ死体となったとしても確実に彼女を回収するため。死体といえども人の体は情報の宝庫だ。みすみす奴らに渡すつもりはなかった。
それを全て理解していたかのような彼女の表情を思い浮かべ、名前はギリッと奥歯を噛んだ。
***
「こんな時に聞くことじゃないのはわかってるわ。でも聞かせてくれる?あなたが何者なのか」
ところどころ崩れている通路を慎重に進んでいると、腕の中の哀が意を決したように問いかけてきた。
「哀ちゃんの敵ではないよ」
「それはなんとなくわかるわよ」
「哀ちゃんも守るべき対象だけど、他に優先すべき目的もある。言えるのはそのくらいかな」
コナンくんには内緒ね、と続けると、少し考え込んだ彼女が諦めたように頷いた。
「彼も私に隠してることがあるもの。おあいこよ」
ここでグッと飲み込んでくれるのが、彼女のいいところだ。名前は「ありがとう」と笑いかけ、到着したゴンドラの上部で彼女を降ろした。
「あなたはどうするの?」
「まだやることがあるの。子供たちをよろしくね」
頷いた哀がゴンドラの内部に降りていくのを見て、名前は来た道を戻っていく。途中ショートカットしながら向かうのは、キュラソーが落下したと見られる地点だ。
哀を抱えていない名前の足取りは軽い。通路から通路へ、時には瓦礫の山を足場にしながら下へと向かう。スマホを取り出して発信器の反応を確かめようとしたところで、上空で爆音が轟いた。
「!?」
瓦礫の隙間から爆炎に照らされて見えるのは、オスプレイだ。
(あんなの持って来てたの…!? もう武器密輸とかいうレベルじゃないんだけど)
想像以上に規格外な犯罪組織である。
名前が愕然とした様子で見つめる先で、今度はそのオスプレイ周辺に大輪の花火が上がる。すると間髪入れずにオスプレイから着弾音と火花が上がり、その機体が傾いた。
状況がよくわからない名前だったが、何者かがオスプレイを狙撃したのだけはわかった。
(赤井さんかな。となるとその辺にコナンくんも……もしかしたら降谷くんもいるのかも)
しかし今は自分の目的優先だ、と再び駆け出す名前に、傾いたオスプレイから悪足掻きのような銃弾が降り注いだ。
「は!?ちょ、無理!死ぬ!」
もはや自分の姿も忘れ、素の声で叫びながら瓦礫の間を駆け回る。途切れない雨のような銃弾が辺りを破壊し、散乱した瓦礫の破片と煙が視界を奪う。かろうじてその場を切り抜けた名前の背後で、銃弾は車軸を中心に蹂躙していった。
(車軸を狙ってる…。なんで?)
考えながらも走る足は止めず、最短ルートで地表へと向かう。途中、凄まじい衝撃と共に体が宙に浮きかけたが、体勢を立て直して構わず走った。
地面に降り立ってようやく詰めていた息を吐く。しかし休む間もなく、後ろから金属の塊が軋むような音が聞こえた気がして、名前はゆっくりと振り向いた。
「いやいや……冗談でしょ…」
車軸を破壊されて地に落ちた鉄の輪が、今にも転がり出しそうにギシギシと音を立てていた。
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