4-3
到着した警察による現場検証が行われる中、安室とコナン、世良は当然のように横から口を出している。「探偵多いっすよね?この街」という高木のセリフには、名前は内心で強く同意していた。
そんな時、受付で「何かあったんすか?」と尋ねているバンドマンたちを、世良がじっと見つめていることに蘭と園子が気付く。
「どうしたの?世良ちゃん」
「あ、いや…ギターケースを背負ってる人を見ると思い出しちゃうんだ。4年前、駅の向こう側のプラットホームに佇む、ギターケースを背負った秀兄をな!」
(シュウ兄?)
アメリカ帰りらしい「シュウ兄」と、世良の特徴的な目元が名前の中で一本の線で結ばれていく。
(えっ、そうだったの?)
さすがに女子高生の身辺調査までしていなかった名前は、「そう言われれば似てる」と一人納得していた。
そしてその日、兄に叱られた世良を励ますようにベースを教えてくれたのが件の「世良の兄の友人」なのだという。ベースを取り出しても彼のソフトケースの形が崩れなかったという話を、コナンが真剣な表情で聞いている。
おそらく組織のスナイパーで、コードネームは「スコッチ」。
「彼をそう呼んだ男、帽子を目深に被ってたから顔はよく見えなかったけど…。似てる気がするんだよね、安室さん、アンタにな!」
「人違いですよ…。そんな昔話より、今ここで起きた事件を解決しませんか?君も探偵なんだよね?」
「ああ、そうだな…」
安室の反応を見るに、バーボンとスコッチには何か深い関係があるようだ。それ以上の情報は、その会話からは窺えなかった。
***
その後本格的に捜査と推理が始まり、すっかり居場所を失くした蘭と園子、名前の三人は休憩所に戻ってきていた。
「ねえねえ、そういえば名前さんって今彼氏は?」
これを聞きたくて仕方なかったと言わんばかりに、園子が頬を染めて問いかけてくる。殺人事件が起こったばかりだというのに、この街の女子高生は死体に慣れすぎである。
「ええ?いないよ……ていうか前も言ったよね?」
「うっそだー!大学にもいないの!?あれから全然!?」
「もう単位も取り終わってて、大学全然行ってないし…」
そういう問題じゃない!と園子が憤慨する。苦笑いでそれを宥める蘭も、この手の話題には興味があるらしい。
「じゃあ、どんな人がタイプなんですか?」
少女らしく目をキラキラさせた蘭に、思わずウッと言葉に詰まる。苗字名前30歳、純粋な目には弱かった。
「え、えっと……」
視線をさまよわせる彼女を、目を輝かせた二人が見つめている。
(とりあえず降谷零とは真逆な感じで言っておこう…)
「……ミステリアスな感じで」
「うんうん!」
「ちょっと生活力なさそうで」
「うんうん!」
「運動部よりは文化系…」
「うんうん!」
「アウトドアよりはインドア派……?」
「ほうほう!」
なるほど!と二人で頷きあう。
「これは…決まりね!蘭」
「そうだね!」
二人の中で何かが腑に落ちたらしい。名前が首を傾げると、眩しい笑顔を浮かべた二人が声を揃えた。
「「沖矢さんでしょう!」」
まさかの人物に、名前の思考が止まる。
「………えっ?」
素で言葉を失ったのは久しぶりだった。
「いやあ、沖矢さんなら正直優良物件だし、名前さんを安心して任せられるわ」
東都大学の大学院生だから将来安泰だし、高身長で紳士的だし!
ウンウンと園子が頷く横で、蘭までキャーッと頬を染めている。暴走する女子高生に対し、名前は完全に後れを取っていた。
「……ちょ、ちょっと待って。そんな勝手なこと」
「え?だって沖矢さんも彼女いなそうだし、ねえ蘭?」
「あ、うん。女の人と一緒にいるところは見たことないよ」
「あっ、そうだ!」と園子が手を打つ。
「今度推理オタクの家掃除する時、名前さんも一緒に行けばいいじゃない!」
「え?」
「あの家広すぎるし沖矢さん一人じゃ掃除し切れないから、ウチらたまに手伝いに行くんですよ!」
「で、でも園子、それはさすがに悪いよ…。元々は沖矢さんが来る前からやってたことなんだし」
ようやく園子の暴走を蘭が止めてくれると思いきや、「ちょっと蘭」と物陰に引っ張って行かれた蘭が戻ってきたときには「名前さん、ぜひお願いします!」と完全に園子側の人間になっていた。何を吹き込まれた…?
「……あのね、二人とも。そういうのは当人の、」
名前が大人として真面目に説得しようとしたところで、推理ショーが行われていたはずのスタジオから女性の泣き叫ぶ声が聞こえてきた。
「え?」
「あっ、終わったのかしら、推理ショー」
「上に行ってみよっか」
特に動じた様子もなく、上階へと向かう二人。何度も言うが、殺人事件に慣れすぎである。
***
「ウソ…あのキーボードの女の人が犯人なの?」
「ああ…」
犯人として連行されていくのは、被害者と同じバンドのメンバーだった。
「でもすごいよ世良ちゃん!またまた事件解決しちゃって!」
「そうか?まあ安室さんやコナン君が協力してくれたから、このぐらい楽勝さ!」
「さすがJK探偵!」
女子高生ながらも事件解決に一役買った世良を、蘭や園子が褒めそやす。
「ま、ボクが探偵をやってるのは兄の影響だけどね!」
嬉しそうに頬を染めて話す世良は、亡くなった一番上の兄がFBIのエージェントで、名前は赤井秀一だと話す。コナンはそれを「やっぱり」という顔で聞いていた。
「じゃあアンタにベースを教えてくれた男の人もFBIだったりして!」
「まさか…兄が休暇で日本に帰った時に会った友達じゃないか?」
件の友人について話す女子高生たちを、後ろから安室が険しい顔で見つめている。それは安室というより降谷のそれに近い。
(スコッチ、ねえ)
安室の表情を盗み見ながら考える名前だったが、不意にその思考が遮られる。
「あっ、そうそう、聞いてよ世良ちゃん!」
「ん?」
「名前さんね、沖矢さんが好みのタイプなんだって!」
もう、安室の顔は見れなかった。
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