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「消防査察に来ましたー!設備を確認しますねー!」

しばらくすると、ライブ前の消防査察のため、会場に消防署員がやってきた。

しかし今、ステージでは波土が作詞活動を続けているはずではなかったか。引き留めようとするマネージャーだったが、それより一瞬早く彼らが会場に続く扉を開けてしまった。


「うっ……うわあああああ!!」


中を見た署員の悲鳴に、素早く動いた安室や沖矢、コナンをはじめとする面々が会場を覗き込む。

そこで一同が目にしたのは、首に巻かれたロープで宙吊りになった、波土禄道の変わり果てた姿だった。

宙吊りにされた死体を目撃してしまった蘭や園子が悲鳴を上げる中、安室と沖矢、コナンがバッと駆け出して現場に向かう。それを呼び止めようとした蘭を、ベルモット扮する梓が「エンジェル」と呼んで制止した。

(エンジェル?)

血塗られたステージは相応しくないと言って止めた辺り、蘭のことを気に入っているのだろうか。世界的な犯罪組織の幹部である彼女には似つかわしくないように思えたが、自分には関係ないと判断した名前は特に気に留めなかった。

ステージ付近に向かった安室と沖矢、コナンはそれぞれ独自に動いて証拠集めをしているようだ。こうして見ていると、この三人が協調できればこの上なく心強いのに、と名前は思う。

(東都水族館でも、他に選択肢はなかったとはいえちゃんと協力し合えたんだし)

降谷から聞いた話だと、あの時赤井の狙撃を成功させるために降谷やコナンが協力したのだという。

立場上、日本の公安警察とFBIが表立って協調できないのは仕方ないにしても、降谷個人の確執くらいはどうにかならないものだろうか。その辺りの事情を知らない名前は勝手なことを考えていた。




***




エントランスホールに集められた一同は、波土が所持していたというメッセージの筆跡鑑定に協力するため、自身の名前と「ゴメンな」という言葉をそれぞれ書いて提出することになった。

書き終えて高木刑事にメモ帳を渡した名前は、梓が蘭の声でコナンに「梓さんの苗字ってなんだっけ?」と問いかける場面をうっかり目撃してしまう。

(えええ…すごいな彼女)

なんという精神力だろう。堂々としすぎていていっそ清々しい。さすがのコナンもそれには呆気に取られていた。

名前がつい梓を視線で追っていると、彼女と何やら話し込んでいた安室がある一点を見て唐突に固まった。つられて見た先にいたのは沖矢だ。

(左利き……)

安室もきっと、赤井との共通点を再び見つけてしまい動揺したのだろう。

「…左利きなんですね?」

案の定、笑顔を貼り付けた安室が沖矢に話しかけた。

「ええ、まあ。いけませんか?」
「いえいえ、この前お会いした時は右手でマスクを取られていたので、右利きかと」
「そうでしたか?」
「まあ気にしないでください…」

そこで言葉を切った安室が、その視線に敵意を滲ませる。

「殺したい程憎んでいる男が、左利きレフティなだけですから…」

(その言い方で気にしない人間が…?)

波土禄道話で意気投合して盛り上がっていた二人の姿を思い出しながら、名前は一人現実逃避した。




***




結局、紙の文字は波土本人によるものだった。

高木刑事や目暮警部が関係者に話を聞く中、新聞記者が早く帰らせろと騒ぎ出す。すぐにでもこの事件の記事を書きたいらしい。

制止を振り切ってズカズカと歩き出した男の腕が名前に当たる。

「わっ」

避けずによろめいた名前を支えてくれたのは安室だった。

「あ、ありがとうございます」
「…いえ」

新聞記者はバッグを掴んだ高木に止められるが、それすら振り払ったところで鑑識と接触し、証拠品を盛大にぶちまけていた。

「?安室さん?」

名前の肩を抱いたまま、安室は沖矢をじっと見つめている。

「…ああ、すみません」
「い、いえ」

手を離した安室が梓の元へ戻っていく。どこか様子のおかしい安室が気になったが、おそらく赤井との確執が関係しているのだろう。それなら名前にできることは何もなかった。




***




その後、トリックがわかったという安室が高木を被害者に見立てて実演し、沖矢やコナンと共に犯人を暴いた。波土は自殺で、マネージャーがそれを他殺に見せかけたのだという。

曲名の「ASACA」表記も組織とは関係がないことがわかり、安室と梓はその場を立ち去っていく。

「じゃあ、私たちも帰ろうか」
「そうですね…」

やっと解放される、と名前は深く息を吐いた。園子の勢いに押されて来てしまったが、実のところは最近はかなりの過密スケジュールなのだ。

「名前さん、送りますよ」

蘭とコナン、園子はタクシーで帰るからと、気を利かせた沖矢が申し出てくれる。辺りがすっかり暗くなっているのを見て、これを固辞するのもおかしいかと名前は思考を巡らせた。

「ありがとうございます、沖矢さん」

送ってもらったらすぐに部下と合流しなくては。間近に控えた東京サミットのため、しばらく休んでいる暇などないのだから。


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