5-8 -Epilogue


「新一、ご飯できたよー!」

階下から蘭の呼ぶ声がする。それに「おー」と返しながら、新一は手元のハガキに視線を落とした。

そこにあるのは、バージンロードに長いトレーンを引きながら、腕を組んで教会を出ていく二人の後ろ姿だ。開け放たれた教会の扉からは美しい夕焼けが差し込んでいて、純白の道に二人の影を残している。

ハガキを裏返すと、そこには絶対に住んでいないであろうカモフラージュの住所と、聞いたこともない差出人の名前が二つ並んでいる。それでも新一には、その幸せな二人が誰なのかよくわかっていた。

「ちょっと新一?何してるの?」

降りてこない新一に焦れたのか、蘭が自室に入り込んでくる。

「ちょっとな」
「あっ、何それ!素敵!」

女という生き物はこういうものに目ざとい。手元のハガキに気付いた蘭が、そこに映る光景に頬を染めた。

「結婚報告のハガキ?」
「まーな、ちょっとした知り合いなんだ」

絶対にその正体は言えないが、後ろ姿の写真くらいいいだろう。蘭にハガキを差し出すと、彼女は一頻りキャーキャー騒いでからそれを机に置いた。早く来なさいよーと下りていく蘭に返事を返して、新一はそれを引き出しにしまおうと再び手に取る。

この町にいたたくさんの偽物は、組織壊滅とともに姿を消した。もちろん自分もその一人だ。

でも、彼女は違う。彼女が正義の人である限り、彼女の偽物フェイクは生まれ続ける。

もしかしたら今日、彼女とすれ違ったのかもしれない。明日知り合う人が、彼女なのかもしれない。
そんな嘘つきの彼女が、彼とともに今日もこの国を守ってる。

新一は敬愛する二人に思いを馳せ、その後ろ姿にそっと触れた。



*2020/08/06 完結

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