※プラス作品(Twitter)再掲
※名前変換あり
「ピアスしてみたいんだけど、穴開けるのお願いしていい?」
▼松田
「ピアスだぁ?」
チャラチャラしやがって、とジト目になる松田。「誰の影響だよ」と聞かれたので、名前は会社の同僚だと正直に答えた。すると彼は「ふーん」と素っ気なく返した後、「いいぜ、開けてやる」と悪い顔で笑う。あれ、なんだろう。嫌な予感しかしない。
気を取り直して必要なものを並べれば、松田は迷うことなくピアッサーを手に取った。いや保冷材は?消毒は?と問いかけるより早く耳を掴まれ、名前は青褪める。
「え、ちょっと待っ…、い…っ!?」
鋭い痛みに思わず悲鳴のような声が出た。―――違う。これ、ピアッサーじゃない。
「ほら、できたぜ」
人の耳たぶに容赦なく噛みついておいて、その男は悪びれもせず楽しげに笑ってみせた。「いや何してんの」と鏡を覗き込めば、犬歯でぶっすりいかれたらしくポツンと穴のような噛み跡が残っている。
「あのね、陣平」
「薄くなったらまたやってやるよ。反対側もいっとくか?」
「いらないから!」
なんでそんなに嬉しそうなんだ、この男は。
「もう頼まない。自分でやる」
「はいはい、勝手にどーぞ」
ベッドにごろんと横になった松田を尻目に、名前は再度準備を整える。そして鏡を見ながらピアッサーを構えるが、視界に入る噛み跡につい手が止まってしまった。「なんだよ、やんねーの?」と背後から揶揄うような声が聞こえる。
その跡がまるで所有印のようで、その上から穴を開けるのがなんだかもったいなく思えただなんて……悔しいから絶対に言ってやらない。
▼萩原
「よっしゃ、俺に任せなって」
そう言いながらピアッサーを手に取る萩原。自信たっぷりに振る舞う彼のおかげで、名前の初ピアスに対する不安や恐怖心も和らいでいく。
諸々の準備を済ませて向き直れば、萩原は待ってましたとばかりにピアッサーを構える。大丈夫、彼に任せておけば大丈夫。興味があるとはいえ怖いものは怖いので、名前は心の中で何度もそう繰り返した。
「じゃあ1、2、3でいくな。いーち、にー、」
「っ!」
「………」
「………」
「………」
「……研二、くん?」
3を数える声も痛みも一向に訪れないので、不思議に思って様子を窺う。すると微笑ましそうにこちらを見つめる彼と目が合って、思わずきょとんと目を瞬かせた。
「あー、ごめんごめん。プルプル震えてるのが可愛くてずっと見てたわ」
いい笑顔でそう言われ、名前は「もー!」と憤慨する。
「ごめんって。もっかいやろーぜ」
「もういい」
「まあそう怒んなって」と宥めるように両手で頬を包み、間近で優しく微笑む男前。怖がっているのがバレていたなら、開けずに終わって半分ホッとしているのもお見通しだろうか。
「ま、無理に開ける必要もないっしょ。どうしても開けたいってんなら穴開け係もピアス贈る係も全部俺な」
冗談っぽくウィンクされて、名前は「うん」と答えながら頬を緩ませた。
「素直でよろしい。やっぱり名前ちゃんは笑ってんのが一番可愛いなぁ」
あー可愛い可愛い。そう言いながら顔中にキスを落とされて、今度は羞恥にプルプル震える羽目になる。
▼諸伏
「ええ〜……好きな子傷つけるの、抵抗あるなぁ」
眉尻を下げてそう言う諸伏に、名前は「傷つけるって、大袈裟だよ」と苦笑する。慎重な性格の彼だからこそ任せたいと思ったが、かえって負担になってしまうだろうか。それなら自分で、と名前が考えたところで、彼が「よし」と頷いた。
「じゃあこうしよう。俺も開けるよ」
予想外の提案に「え」と目を丸くする。
「で、俺のは名前ちゃんが開けてよ」
「ええ〜……」
「ほら、抵抗あるだろ?」
確かに、と思わず納得してしまう。それでもやってみようという流れになり、まずはじゃんけんで負けた名前がピアッサーを構える。
目の前にあるのはサラサラの髪と形のいい耳。長めの横髪を耳にかければ、彼は「くすぐったい」と笑いながら肩を竦めた。それを可愛く思いつつ、一度深呼吸をしてから「いくよ」と声をかける。しかし意気込んだはいいものの、なかなか先に進めない。だって目の前のきめ細やかな肌には毛穴一つ見当たらないし、ここに今から穴を開けるだなんて、なんだかすごくいけないことをしている気分になる。
「……ダメ!やっぱり無理!」
結局観念した名前に、諸伏は「残念」と目を細めて笑った。どこからが彼の策略だったかなんて、もちろん名前は知る由もない。
▼降谷
「ピアス?」
聞き返した後、彼は「そうだな……」と顎に手をやって考え込む。
「……セルフでの穴開けは角度や位置取りが難しいと聞くし、それに穴開けは医療行為だ。金銭授受や継続性を伴わなければいいという見解もあるけど、感染症や金属アレルギーの危険性を考えれば皮膚科や美容整形外科に予約を入れて専門医に任せた方が―――」
他にも長々説明してくれたけど、途中から(今日も顔がいいなぁ)としか考えられなくなったので諦めた。
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