5-4


夏に諸伏と会ってからも、彼との月イチのメールは相変わらず続いていた。
そして日々の仕事を淡々とこなしていれば、それからの数ヶ月はあっという間に過ぎた。



クリスマスイブ。
早めに仕事が終わり、今年のプレゼントはどうやって渡そうと悩んでいた名前のもとに、タイミングよく降谷から電話が来た。

『今出られますか?』
「あ、うん。どこに行けばいい?」
『下で待ってます』

どうやらマンションの下まで来ているらしい。帰宅したばかりで変装姿の名前は、そのまま下に降りることにした。

「安室くん」

路駐したRX-7にもたれていた降谷が顔を上げる。
白いセーターの上にチャコールグレーのPコートを着込み、ベージュのチノパンを合わせた爽やかな男が、こちらを見て柔らかく微笑んだ。

「すみません、急がせましたか」
「ううん」
「ちょうど近くまで来たので、これだけ渡したくて」

そう言って彼が渡してきたのは、綺麗にラッピングされたプレゼントだった。

「あ、じゃあ私もこれ」

交換するように、名前も手に持っていたプレゼントを渡す。お互いがお互い宛てのプレゼントを手にした後、二人は同時に目を瞬かせた。

「…なんか……」
「ええ、包みが似ていますね」
「箱の大きさも」

顔を見合わせた二人は、どちらからともなくその場で包みを開けた。

「やっぱり」
「ふは」

二人が贈り合ったのは、同じレザーブランドの革手袋だった。しかも肌触りのいいツイード素材とのコンビで、手首の部分が柔らかいリブになっているところまで同じだ。
メイドインジャパンで一点一点手作りで、3D縫製で着け心地もいい。そしてめちゃくちゃ暖かい。そんな噂を聞いた名前は即断即決でそれにしたのだが、まさか降谷とかぶるとは。

「おそろいになっちゃった」
「結果オーライということで」

二つの手袋は少しだけ色合いが異なるが、どう見てもおそろいだ。レディースの方がやはり細身の作りだが。

「いいクリスマスになったよ、ありがとう」
「こちらこそ」

笑い合う二人だが、にこやかに笑う降谷は安室透だし、名前も彼の知らない女性に変装している。どちらも偽物だというのが、さらに二人の笑いを誘った。

「あー、変な感じ」
「ですね」
「これからまだ仕事?」
「まぁ、そんなところです」
「濁したね」
「はは、濁しました」

なるほど、組織関係か。名前は「気を付けてね」と笑いかけた。

「ありがとうございます。ところで、年末のご予定は?」
「え?」

急に話題が変わり、名前は一瞬考え込んでから「31の夕方くらいまでは多分動けないかな」と答える。今潜入中の案件をなんとか年内に片付けたいと思っているところだ。

「では僕もそれまでに一段落つけるので、二年参りでもしましょう」

夜中ですし、できれば素顔で。

聞き逃しそうなほど小さな声で付け足されたそれに、名前は一瞬固まった。

「……なるほど、そう来たか」

海の件で味をしめたのか、最近の降谷はあの手この手で素顔の名前を外に連れ出そうとする。自分のリスクを考えてないのかと忠告したいところだが、この男がそれをわかっていないはずがない。

「二年参りって…長野の?」
「ええ。昔友人に聞いたことがあるんです」

そういえば諸伏は長野県出身だったか。

「…まぁ、安室くんがいいなら、いいけど」

なんだかんだいって、結局いつもそこに落ち着くのだ。
嬉しそうに微笑む彼に、思わず呆れたような笑みが零れる名前だった。




***




大晦日。二人が選んだ神社にはちらほら人はいるものの、夜の静けさが漂っていた。近隣にある大きな神社に人が流れるようで、灯りも少ないこちらは完全な穴場になっている。

白い息を吐きながら、名前は隣を歩く降谷を見上げる。
暗いからと素顔で来た名前同様に、彼も安室透の爽やかな仮面をかぶってはいない。もちろん知り合いでも現れればすぐ切り替えるだろうが、人がいる中を降谷と出歩いているという状況が新鮮だった。

「結局、0時ギリギリになりましたね」
「いいんじゃない?手っ取り早くて」

名前の言葉に、ふ、と小さく笑う。

「確かに」
「寒いし、年越し感味わったら退散しよう」
「本当、イベント事に向いてないですね」
「大丈夫。自覚してる」

それでもここ数年はクリスマスを気にしたり、誕生日にメールしてみたりと、彼女なりに頑張っているつもりだ。気を抜くと忘れそうになるのも事実だが。

「あ、手袋してくれてるんだ」
「名前さんも。これ暖かいですね」
「うん。手だけほかほか」

暗いからわかりにくいが、二人ともクリスマスに贈り合った手袋をしている。

「手を繋いでポケットにっていうのができなくて残念ですが」
「さすが発想が若いね」
「一歳しか違いませんよ」
「そうだった」

名前は素で目を瞬いた。
どうも、時代を戻ってしまったせいでずいぶん長く生きているような気がしてしまう。いかんいかん。まだ三十路にもなってないぞ。

「あ、そろそろです」

拝殿の手前まで来たところで、降谷がスマートフォンを見ながら足を止めた。名前もそれを覗き込む。
時計表示を秒単位で確認できるように設定したようで、新年まであと十秒だということがわかる。

「5、4、3…」

それを見ながら、名前がなんとなく小声でカウントダウンをする。

「2、1、ゼ」

ロ、と音を発する前に、隣の男に口を塞がれた。少しして離れた唇が、「あけましておめでとうございます、名前さん」と言葉を紡ぐ。

「…あけまして、おめでとう。零くん」

二人にしか聞こえない声で返した後、名前は「やることが若いよ」と思わずツッコんだ。

「一歳しか違いませんよ」
「……そうでした」




***




「何をお願いしたんですか?」

拝殿を後にした二人は、そのまま帰路につく。朝になれば二人とも早速仕事始めだ。

「内緒。零くんは?」
「なんで自分だけ教えてもらえると思うんですか?」
「ですよね」

名前がお願いすることなんて、零の幸せ以外にない。この時代に来て7年間それしか考えてこなかったのだから、今更他の願い事なんて思いつかなかった。

「叶ったら教えてあげるね」

何をもって「叶った」というのかわかりにくい願いではあるが、きっと死ぬまでには叶うだろう。多分。

「じゃあ僕もそうします」

そう言って降谷が可笑しそうに笑う。一体どんな願い事をしたんだろう。教えてほしいから彼の願い事が叶いますように、と名前は身も蓋もないことを考えた。

2月7日まで、あと少し。


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