ヒーローの世界-03


登場したオールマイトはヴィランを蹴散らしながらセントラル広場へと入り、脳味噌のヴィランに手酷く痛めつけられたらしい相澤を回収する。それから近くにいた峰田と蛙吹も回収し、結と緑谷がいる場所へと連れてきた。

「みんな入口へ。相澤君を頼んだ。意識がない、早く!」

緑谷がそれを止めようとするが、オールマイトは「大丈夫!」といつものように笑ってヴィランの元へと仕掛けていった。

「先生、私が運ぶね」

結が軽々相澤を横抱きにして踵を返すと、ハッとした緑谷や残る二人もそれについてくる。

「長月さん、さっきはありがとう」
「ううん、無事でよかった」

申し訳なさそうに言う緑谷に笑顔で返す。しかし彼は背後のオールマイトが気になるようで、チラチラと振り返る。それが今にも飛び出しそうに見えて結は眉根を寄せた。

「緑谷く、」
「っ、オールマイトォ!」

ヴィランに押さえ込まれたオールマイトを見て、案の定緑谷が飛び出していく。相澤を抱えている結は身動きが取れない。チッと舌打ちを零したところで、爆轟や轟、切島が到着したのが見えて息を吐いた。おかげでオールマイトも拘束から抜け出せたようだ。

「私たちは早く入口へ」
「ええ、そうね」

蛙吹と峰田を促し、入口に向かう。階段を上りきったところに相澤を寝かせると、ウエストポーチから医療キットを取り出して応急処置を始めた。

「二人とも、広場の方を見て私に状況を伝えてくれる?」
「お、おう」
「わかったわ」

二人は素直に広場の方へと向き直ってくれた。それを見て結はポーチから魔法の杖を取り出し、こっそり相澤に向ける。

「エピスキー、癒えよ」

呪文を何度か重ねてかけると、表面的な傷が少しずつ癒されていくのがわかる。鼻の骨折程度なら完治させられる魔法だが、さすがに粉砕されていそうな右腕には効かなかった。癒者でもない結にはこれが限界だろう。
とりあえず怪我の程度がひどい顔面に集中的にかけておく。

「オールマイトが殴り飛ばされたわ」

凄まじい轟音が聞こえた後、律儀に実況してくれている蛙吸の声に杖を仕舞う。振り返って様子を窺うと、確かに優勢とは言い難い。しかしオールマイトが脳味噌ヴィランに連打を浴びせ始めた辺りで状況が変わった。
ショック吸収の個性持ちであるヴィランに、吸収を上回る攻撃を浴びせるつもりらしい。脳筋怖い。

やがて脳味噌ヴィランは施設外へと殴り飛ばされた。

「…長月ちゃん?」
「ごめん、ちょっと相澤先生をお願い」

二人に相澤を任せ、階段を下りる。事情はわからないが完全に体にガタがきているらしいオールマイトと、それを不安そうに眺める緑谷の様子が気になったのだ。
脳味噌ヴィランを失って諦めるかと思われた主犯格も逃走する様子はない。

と、主犯格の指示を受けたらしい黒い靄がオールマイトに向かってそれを広げる。そして緑谷が足に力を込めたのを見て、結はまたかと地面を蹴った。

靄とオールマイトの間に飛び込んだ緑谷を、横から飛び込んだ結が空中で掻っ攫う。

そこに複数の銃声が鳴り、緑谷に向かって伸ばされていた主犯格の手に銃弾が埋め込まれた。
着地した結が緑谷を抱えたまま振り返ると、そこには雄英中からかき集めたと思しきプロヒーローたちの姿があった。

「あっ…あの、長月さんんん…!」
「ん?ああ、ごめんごめん」

担ぐように縦抱きにしていた緑谷から羞恥の声が上がる。
しかし足が折れているようだし下ろすのも、と考えたところで、背後のオールマイトの気配が急速に萎んでいくのがわかる。
これはもしかしたら目撃しない方がいいやつかもしれない。そして慌てた様子の緑谷はその事情を知っているのかも。そう判断した結が、負傷した緑谷をその場にそっと座らせる。

「私、相澤先生の様子見てくるね」

そう言うと露骨にホッとした顔になる。結は努めて振り返らないようにしながらその場を離れた。




***




結局両足を骨折した緑谷以外、生徒に大きな怪我をした者はなかった。
すぐに事情聴取はできないからと一度教室に戻ることになり、各々制服に着替えて教室に向かう。

「あ、尾白くん。あれから大丈夫だった?」
「長月さん」

結は火災ゾーンに残してしまった尾白に話しかける。

「ちょっと苦戦したけど、なんとか脱出できたよ。広場に向かおうとしたところで先生方が到着したんだけど」
「そうだったんだ。無事でよかった」

脱出のために苦戦したのか、顔や手足に小さな擦り傷がいくつもある。この程度で保健室には行かないんだろうな、と思った結は消毒液と絆創膏を渡しておいた。

その後しばらくして授業が再開され、並行して一人ずつ事情聴取に呼ばれることになった。結も特に偽りなく答え、問題なく聴取を終えた。



放課後。教室はUSJでの話で持ちきりで、なかなかみんな帰り始めない。結もまた蛙吹から話しかけられてそれに答えていたところで、轟が席を立った。彼はいつも通り早々に帰るらしい。
なんとなくその背中を目で追っていると、その先に見知った顔が現れた。零だ。
零は轟が出ていくのを半身ずらして見送ってから、結に向かって声をかけた。

「結、帰ろう」

いつもなら校門で待ち合わせなのだが、今日は状況が状況だけに心配してくれたのだろう。

「はーい。じゃあまたね、梅雨ちゃん」
「ええ、さようなら」

机の横にかけていたバッグを手に取り、立ち上がる。すると一歩進んだところで手首をグッと掴まれた。
振り向くと誰もいない。いや、いる。

「葉隠さん?」
「ねーねー、あの超絶イケメン…!B組の降谷くんだよね!?」
「付き合ってるって噂やっぱりホント!?」

芦戸も加わっての追及が始まってしまった。

「いや、付き合ってはないよ…。幼馴染なの」
「えーホントにー!?何もないの?」
「ないない」

苦笑を浮かべる結に、二人は不満げだ。
ちらっと零に視線を向けると、なんだ?という顔で小首を傾げる。うん…イケメンだ。

「じゃ、帰るね」

ブーブーとブーイングが聞こえる気もするが、なんとか受け流す。
教室を抜け出して零と歩き出すと、「災難だったな」と労うような声が降ってきた。

「どっちの話?」

USJの件か、先ほどの件か。

「どっちも」

そう言いながら零は小さく笑った。

「こんなことになっちゃって、体育祭やるかな」
「さあ…逆に強行するかもしれないな」
「ああ、その可能性ある…」

例年通り開催することで強固な危機管理体制を対外的にアピールする。なんともありえそうな話ではある。
二人ともスカウトには興味ないが、クラスの壁を越えて関われる貴重な機会だ。実は結構楽しみな結だった。


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