ハンターの世界-05


出口の手前にあった鍵で手錠を外すと、ゴゴゴと音を立てて扉が開いた。

「お疲れ様ー」

外に出た結が301番の男に手を振ると、彼も振り返してくれた。

「結さん」
「零くん。さすが、早かったね」

駆け寄ってきた零と合流する。周囲を見渡すと通過者はまだ全部で4人だ。
結と零はまた壁に背を預ける形で座り、結がバッグから出した飲み物で喉を潤す。

「どんな道だったんですか?」
「一蓮托生の道ってやつで、さっきの彼とずっと手錠で繋がれてたよ」
「ホォー…」
「不穏な顔やめてね」

零くんは?と聞くと、彼は嫌そうに顔をゆがめた。

「僕はあっちのピエロメイクの彼と同じ道でした」

よっぽど嫌だったらしい。わかりやすい反応に結が目を瞬かせる。

「そんなに大変だったの?」
「大変というか、まぁ…今後一切関わり合いたくないタイプです」

苦虫を噛み潰したような表情に、結は「そんなに…」と思わず同情した。




***




四次試験はゼビル島という島を使ったナンバープレートの奪い合いだ。
自分のナンバープレートが3点、ターゲットのナンバープレートが3点、それ以外のプレートが1点という配点で、滞在時間一週間の間に6点集める必要がある。

結のターゲットは89番、零のターゲットは362番だった。
試験の詳細が説明されたところで受験者は皆一様に自分のプレートを隠してしまったが、記憶力のいい二人は誰が何番かすべて覚えている。

島に向かう船の中で、二人は作戦を立てていた。

「僕のターゲットは坊主頭の小柄な男性です」
「私は長髪ケツアゴの男性」
「一週間ありますから、プレートを守り切るためにも派手な行動は避けた方がいいでしょうね」
「うん。それに後半はみんな守りに入るだろうからターゲットを狙うなら序盤かな」
「早々に奪ってどこかに潜伏しますか」
「そうだね、それがよさそう」

島に到着すると、タワーから脱出した順番で島に入る。零は二番で、結が三番だ。
先に入った者は後から入った者の動向を把握できるので圧倒的に有利だった。

結は先に入った零と合流し、二人とも“絶”で気配を絶ちながら木の上からターゲットの行き先を確認する。
ターゲットがそれぞれ反対方向に向かうのを見て、二人は別行動を取ることにした。

結はターゲットが小さな湖に近づいたのを見て、絶をしたままその背後に降り立つ。徹底した絶のおかげで、すぐ後ろにまで近づいても男が気付く様子はない。
湖に向けて手を伸ばし、念による性質変化で湖の水に毒性を付与した。

「……う…ぁ?」

それを手ですくって一口飲んだ男がその場で昏倒する。

(ただの睡眠薬だから。ごめんねー)

男の衣類をもぞもぞと探り、あっという間に89番のプレートを手に入れた。

(どうしよう、楽勝だった)

むしろこの後の一週間の潜伏生活の方が不安だ。
その場で円を広く展開した結は、零のオーラを見つけてその場へ急いだ。




***




同じくあっさりプレートを手に入れていた零とともに、潜伏場所を探す。
出入口が一つしかない洞窟は論外だし、人が集まりがちな水場近くも避けたい。結局二人は大岩が密集した地帯に身を隠すことにした。

「一週間か…暇だね。修行でもする?」
「ほかに念能力者もいるのにですか?」
「う、確かに」

44番のヒソカとかいう男と、結がトリックタワーで行動を共にした301番は間違いなく念能力者だ。
円を乱用しまくっている結が念能力者だというのはとっくにバレているだろうが、錬や発で手の内を晒してしまうのは間違いなく悪手だろう。

「こういう時こそ本だね。はい」

結がバッグから取り出した本を、今度は零も素直に受け取った。

「シリーズで持ってきたから、読み終わったら言って」
「相変わらず準備よすぎでしょう」
「でもこのバッグ、質量は変えられないから詰めたら詰めた分だけ重いんだよ、ちゃんと」
「ああ、道理で」
「え?」

どうやら湿原で結を抱えた時、いつもより重いとは思ったらしい。その時に言ってくれ。

結局二人はそれから数日、絶をしたまま読書を楽しむという、ハンター試験中とは思えないのどかな時間を過ごしたのだった。




***




「あ」

何かが飛来する気配を察知し、瞬時に木を駆け上がった結がそれをキャッチする。

「何でした?」

そのまま地面に着地すると、零もまたそれを覗き込んできた。

「197番のナンバープレート」
「まさかプレートが飛んでくるとは」

すでに6点集めている二人にとっては不要なプレートだが、何かの交渉材料には使えるかもしれない。とりあえず持っておくことにした。試験終了まであと一日ある。

すると少しして、またこちらに向かってくる気配を感じた。今度は人間だ。
絶を継続している結と零の視界に入る位置にザッと現れたのは、294番のスキンヘッドの男だ。

「くっそー、方角はこっちで合ってるはずなんだけどな」

男は呟きながら辺りをウロウロと探し回っている。
結は隣の零とアイコンタクトを交わす。男はおそらく先ほど飛来したプレートを探している。

「あー、仕方ねーから今からもう二点狩るか…」

男は意気消沈した様子でしゃがみ込んだ。期限が迫って焦っているのだろう。

先ほど拾ったプレートを交渉材料にと思った結だったが、余裕のある現在の状況では特に交渉内容も思いつかない。
どうしようかなぁ、と手元のプレートをぷらぷら揺らしていたが、男が立ち去りそうな気配を感じて仕方なく立ち上がった。

「!」

男がハッとした様子でこちらに向き直る。
絶は解いていなかったが、揺れた空気で存在を察知したのだろう。軽薄に見えて優秀そうである。結が絶を解くと男は目に見えて警戒した。

「もしかして、これ探してる?」

結が197番のプレートを見せると、男がそれを指差して「あー!」と声を上げる。

「私たちはもう6点集まってるから、あげてもいいよ」
「……私、たち?」

訝しげにこちらを見る男に、背後で座ったままだった零が絶を解いて立ち上がった。
零の存在に気付いていなかったらしい男がバッと身構える。

「…何が目的だ?」
「さっき言った通り、こちらは二人とも6点揃ってるの。これ、あなたのターゲットなんでしょう?」
「……」
「本当は交渉にでも使いたかったけど、今は特に必要なものもないし。あげる」

ピンっと指先で弾いたプレートが男の足元に落ちる。

「私たちはここから動かないから、早く拾って」

そう言って両手を上げてみせると、男は警戒しながら腰を落とし、プレートを拾い上げた。

「……ありがとよ」
「いえいえ」

そして男が跳躍して立ち去っていくのを見届ける。

「まったく…お人好しですね」
「交渉はしてないけど、恩は売っておいて損はないからね」

ふふ、と笑う結に、傍らに立つ零は呆れたような表情で嘆息する。
結局プレートを奪われることもないまま試験は終了し、二人は最終試験へと進出した。




***




飛行船での個人面談を済ませると、ハンター協会が経営するホテルで最終試験の内容が発表された。
試験内容は負け上がり方式での一対一のトーナメント。なぜか結と零は一回戦で当たる組み合わせだ。

「零くん、面談でちゃんと答えた?」
「戦いたくない相手として答えたはずですが」

二人は顔を見合わせて苦笑した。二人のうち負けた方が403番のレオリオと当たるらしい。

「まぁいっか」
「ですね」

早速名前を呼ばれ、立会人を挟んで向かい合う。

「レイ・フルヤ対ユイ・フルヤ!」

コールされた名前に、周りが少しざわっとする。まさかの夫婦対決である。

「始め!」
「まいった」

試合開始と同時に手を上げたのは零だ。これで結の合格は決まった。

そしてその後なんやかんやあって、なぜか試合に乱入して191番を殺害した99番のキルアという少年の不合格が決まり、零もまた合格が決定した。

「あっ、おい!あんた!」

ライセンスの説明を受け終えて帰ろうとしていた結のもとに、294番の男が声をかけてくる。

「あの時はありがとな!助かった」
「ふふ、律儀だね」

男はハンゾーと名乗り、名刺を渡してきた。ジャポンに行った時は色々と便宜を取り計らってくれるらしい。
手を振って立ち去るハンゾーに結と零もまた手を振り返す。

「いい新婚旅行先ができましたね」
「だね。行ってみよっか」

こうして二人は無事にプロハンターとして認定された。


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