17-Epilogue-


ふと、キッチンで昼食の準備を終えたナマエが上を見上げた。

(何も聞こえなくなったな……)

二人が二階に上がってもう大分経つ。
ナマエはエプロンを外して、足音一つ立てずに階段を上った。

(あ)

静かになった子供部屋をナマエが覗くと、そこには並んで寝転ぶ零と透の姿があった。

透は零の腕を枕にしながら気持ちよさそうに寝息を立てていて、零はもう一方の腕で目元を覆っているため表情が窺えない。
規則正しく上下する彼の胸を見るに、透同様眠っているか、そうでなくともウトウトしているのだろう。

ナマエはそっとしておこうと思ったが、ふと思い立ってスマートフォンを取り出し、二人にそっと近づく。
そして二人にカメラを向けたところで、腕を少しずらした零と画面越しに目が合った。

(あ……"絶"しとけばよかったかな)

撮影を諦めたナマエが、スマートフォンを下ろして苦笑する。

するとそれを見た零は、空いている腕を伸ばしてナマエに笑いかけた。
その唇が音もなく『おいで』と動くのを見て、嬉しそうに頬を緩めたナマエが透の反対側にぴったりと寄り添う。

腕の付け根辺りに頭を乗せれば、頭頂部に零の唇が優しく触れたのがわかる。それに顔を上げると、柔らかく細められた灰青色の瞳と視線が絡んだ。

「―――――」

(!)

再び音もなく紡がれたのは、なんともストレートな愛の言葉だった。
目尻がじわりと熱くなったナマエは、愛おしそうに見つめてくる瞳から隠れるようにその体を抱き締める。
鼻孔をくすぐるのは太陽のように爽やかで力強い彼の香りだ。

腕にぎゅっと力を入れると、頭上からふっと笑う気配がした。
それから抱き締める腕を少し伸ばせば、力なく開かれた小さな手のひらにたどり着く。

この大きな体を、この小さな手を、これからも守っていきたいとナマエは思う。
そして自分自身、暗殺者でもキャラクターでもないただの「ナマエ」として、これからも彼に守られていたいと思うのだ。

温もりにつられるようにして目を閉じれば、カーテンが揺れる微かな音が耳に届く。
ぴったりくっついて横たわる三人を、柔らかな風がまるで慈しむように撫でていった。



*2020.11.17 完結

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