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純粋にナマエの身を心配していたコナンは、目の前に広がる光景を呆然とした様子で見つめていた。

「それで、目的は?」

うつ伏せに倒れ込んだ男の横にしゃがみ込み、ナマエは首を傾げて問いかけている。
男は呻きながら痙攣を繰り返し、満足に口を開くこともできないでいた。

事の経緯はこうだ。

ポアロを出たコナンは、少し歩いたところでナマエと、その背後から付け狙う男を目撃した。
嫌な予感がしたコナンがこっそりついていくと、ナマエと男が順に角を曲がったところでバチッと何かが弾けるような音が聞こえたのだ。
ハッとしたコナンが急いで角を曲がると、そこにはスタンガンを手にした男の腕を捻り上げ、そのまま男の背中に押し当てているナマエの姿があった。

体を震わせた男がうつ伏せに倒れ込むと、ナマエはその横にしゃがみ込んだ。

「それで、目的は?」
「……ぁ、う」
「答えられないか。それほど強力な電流を君は人に向けたんだ。理由もなしにできることじゃないよね」

こてりと首を傾げたナマエの金髪がさらりと揺れ、日の光を受けてキラキラと輝く。
その姿はどこか少女めいて見えるが、口調には聞いたことのない硬さがあった。

「金かな?」
「……ち…が」
「違うか、じゃあなんだろう。このまま警察に突き出してもいいけど、被害者の立場としては動機を把握しておきたいな」
「…きみが」
「私が?」

感覚が戻ってきたらしい男が、うつ伏せの体勢のまま呻くように言う。

「君、が…いつも、あの男とばかりいるから…」

あの男、とナマエの唇が繰り返す。

「いつもいつも…店に来るときも、ずっと一緒で…!店の、中でも!」
「ああ、透のことかな」

得心いったとばかりにナマエの声が明るくなる。

「なーんだ、動機は痴情か。思ったよりくだらなかったな」
「……はぁ…!?」
「女に声もかけられず、持ち出したのがスタンガンとは。男としてというより、人として情けなさすぎて話にならない」
「…ぅ…!!」

すげなく言い放ち、立ち上がったナマエはくるっと後ろを振り返った。

「コナンくん、この場合は交番でいいの?」
「…気づいてたんだ」
「心配してくれたんだよね?ありがとう」

二コリと笑うナマエはどこまでもいつも通りだ。コナンは呆気に取られながらも「110番でいいと思うよ」と質問に答えた。

「よし、じゃあ通報しよう」

スマートフォンを取り出したナマエの背後を見て、コナンが「危ない!」と声をかける。
彼女の隙をついてバッと立ち上がった男が、固く握りしめた右拳をナマエに向かって振り抜いた―――かに見えた。

「え?」

首を軽く傾けてそれを躱したナマエは、勢いのまま迫ってくる男の胴体に右肘を突き立てたのだ。完璧なカウンターが決まり、男の体がくの字に折れる。

「…ぐぅっ……!!」

男は蹲り、「うぇっ」と吐瀉物をぶちまけた。

「もしもし?あ、事件です。スタンガンを持った男性に……」

スマートフォンをいつの間にか左手に持ち替えていたナマエは、振り返りもせず110番受理台に応対している。

その一部始終を目の当たりにしたコナンは、安室が彼女を心配しなかった理由がわかった気がした。




***




「も、元軍人!?」

思わず声を上げたコナンをナマエはニコニコと見つめていた。

「そうそう。病気で退役せざるを得なくなって、路頭に迷いそうになったところを透が助けてくれたの」

両親も亡くなって、頼る先もなかったし。と彼女は続ける。

「そうなんだ…。そういえば、ナマエさんってどこの国の人なの?」

容姿からして北欧の方だろうかと当たりをつけていたコナンだったが、そういえば具体的な国名が話に上ったことはない。

「うーん、それは内緒」
「え?」
「ほら、透って謎多きミステリアスな男でしょ?遠縁とはいえ一応親戚だし、勝手に話しちゃダメだと思って」

なるほど、彼女は安室が公安警察であることを把握しているのだろう。秘匿性の高い立場にいる彼について、迂闊に情報を漏らさないよう指示を受けているのかもしれない。

「なるほどね…」
「ありがとうね、コナンくん」
「え?」
「心配してくれたの、嬉しかったよ」

ふふ、と笑う彼女は本当に嬉しそうだ。

「透は基本的に私のこと心配しないし」

急に愚痴っぽくなった彼女の言葉に、コナンは安室の様子を思い出して「はは」と苦笑した。




***




(首都高湾岸線で大規模停電…)

ナマエは朝食を取りながら、スマートフォンのネットニュースを確認していた。
あいにくこの部屋にはテレビがないので、最新のニュースは全てネットニュースの速報で知るしかない。

(…零も昨夜から帰って来ないし、関係あるのかな)

公安の仕事だと言ってスーツ姿で出て行った降谷は、朝になっても帰って来なかった。
何かあれば電話なりメールなりしてくるのだろうが、それまで動きようがないというのも辛いものがある。急な呼び出しがあるかもしれないと思ったら、安易に外出もできない。

「暇だな…何しよう」

ぽつりと呟いたところで、タイミングよくスマートフォンが震える。

「もしもし?」
『連絡が遅くなってすまない』

降谷だった。今日も一日帰れそうにないらしい。ただ、連絡だけはつくようにしておいて欲しいと彼は言った。

『もしかしたら公衆電話からになるかもしれないが…その場合も必ず出るように』
「わかった。大丈夫なの?」
『ああ、問題ない』

即答が逆に怪しいが、「ならいいけど」とナマエも短く返した。
結局次に降谷から連絡が来たのは、翌日の夜だった。




***




公衆電話からの着信に、ナマエは迷わず通話ボタンをタップする。

「もしもし」
『ああ、僕だ』
「大丈夫なの?」
『問題ない。…が、少し力を借りたい』

盗聴の心配がない公衆電話だからか、彼は珍しく詳細に説明した。
なんでも組織にNOCの情報が一部渡り、彼はつい先程まで組織の人間に殺されかけていたらしい。なんとか窮地は脱したものの、警視庁から盗み出されたというNOCリストそのものは回収できていない。リストの在りかは大体予想がついているが確証はないそうだ。

(NOC…Non Official Cover…スパイ小説で読んだな)

というか自分が死にかけたことをさらっと話しすぎだ。その前に連絡がほしかった、とナマエは思った。

「それで、私は何をすればいいの?」
『早めに僕と合流してくれ』

指示された場所は東都水族館。その目玉でもある大観覧車の上だ。

「わかっ……え?」

聞き返そうとしたが、すでに通話は終わっていた。

「観覧車の、上?」

上とは?
ナマエは暗転したディスプレイを見つめながら首を傾げた。




***




タクシーで東都水族館に向かったナマエは、指定された大観覧車に向かう。
しかし二輪式の大観覧車は一つが点検のため封鎖されており、もう一つには長蛇の列が出来上がっている。

(これに乗り込め…っていうわけではないよね、多分)

ゴンドラに乗り込んだところで、できることはないだろう。

(となると、上って…本当に上?)

ナマエは思わず見上げるが、巨大すぎて真下からでは全貌が窺えない。
どうやって登ればいいのか見当もつかないナマエだったが、周辺を歩き回っていると「関係者以外立入禁止」と書かれたドアを見つけた。

(上なんて、どうせ正攻法じゃ辿り着けないよね)

キョロキョロと辺りを見回してから、ナマエはそのドアを開けた。


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