27 -Epilogue-


「髪、だいぶ伸びてきたな」

そう言って降谷が摘まんだナマエの金髪は、そろそろ肩に触れそうな長さにまで伸びてきていた。

「うん。戻ってきた時は零と同じくらいだったもんね」
「あれはあれで似合ってた」
「本当?」

ナマエは目を瞬かせた後、へらっと頬を緩めた。
それから手元に目線を戻し、ハンバーグのタネをこねる。
以前から和食中心の二人だが、今日はナマエのリクエストでハンバーグの日だ。降谷が取り出したフライパンに、ナマエが成形した肉ダネを並べていく。

「そういえば」
「ん?」

シンクで手を洗うナマエに、降谷が問いかける。

「結局ロイとはどういう関係だったんだ?」
「うっ」

咳き込みかけたナマエが水道のハンドルをターンッと力いっぱい下ろす。そんな彼女に降谷が一歩近づいた。

「別に気になるわけじゃないが、そういえば具体的な回答を得られていないと思ってな」
「それを気になるというのでは」
「ん?」
「いやなんでも」

ループから外したタオルで手を拭きながら、ナマエはこちらを見ようとしない。

「で、どうなんだ」
「どうって…」

拭き終わった両手でタオルをぎゅっと握る。
「えーと…」と数回繰り返してから、ようやく観念したように話し始めた。

「……まぁ、戦争中はお互い正気じゃなかったし…依存してたというか…その、色々あったけど」

無意味にタオルを握り直す。

「一緒に国を変えるって決めてからは、よき戦友というか…たまに、からかわれるだけ、というか……」

話す声がだんだん小さくなっていく。

「へえ?」
「ひっ」

俯いてしまったナマエに後ろから覆いかぶさるようにして、降谷がシンクの縁に両手を置いた。
ナマエがビクッと肩を跳ねさせるが、鍛え上げられた両腕が左右の逃げ道を塞いでいる。降谷の頬に彼女の金髪がさらりと触れた。

「…君との関係を今後どうしていくべきか考えてたんだが…おかげで方向性が決まりそうだ」

え、とナマエが声を漏らす。

「それは…どういう意味……?」

おそるおそる問いかけてくるナマエに、ふっと小さく笑う。少し伸びた彼女の髪を耳にかけ、そこに口元を寄せた。

「さぁ……すぐに分かるんじゃないか?」


ふたりの関係に名前がつくまで、あと少し。



*2020.09.03 完結

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