職員室に用があり、やって来たら珍しく金髪の不良少年がいた。何かやらかした?職員椅子に豪快に腰を下ろした倉持が意外にも真剣な面持ちをしており。
「全滅っスか」
そう言った。全滅??あの男、とうとう何かを滅ぼしたの??
「すまん。いっそ噂の届いていない県外の私立に」
「私立?ヒャッハハハハ!ウチそんな金ないっすよ」
どうやら自分の推薦枠を滅ぼしたらしい。どうして?最近、何かやらかしたっけ?そこまで考えて、倉持が友人達と話していたことを思い出した。確か、どこかの偉い人の息子と喧嘩したとかなんとか。タイミングがなぁ。でも、どうせ友人を庇って何かしたんだろうな、あの男は。いつだって、友達思いで、優しいから。
「よっ!」
「…おー、いたのか」
職員室を出てすぐ。不良少年に声をかければいつもより沈んでいるように感じた。
「一人や二人、不良がいた方が楽しいのにねぇ」
「聞いてたのか。……あー、まあ、仕方ねぇだろ」
「ふーん」
「俺、自分のしたことに後悔してねぇから」
「ほーん」
そう言い切れるって凄いな。仲間思いっていうか、お人好しっていうか。でも、なんか、好きなことが出来ないっていうのは悔しいよね。そうやって、諦めなきゃいけないのは、見切りをつけなきゃいけないっていうのは、大人になってたくさんあることだと思うけど、まだ義務教育の中学生がそれをやってしまうのは、なんか、勿体無い気がする。なんとなく、ここで諦めたら倉持は誰かのために自分をすぐ犠牲にしたり、仕方がないって諦めてしまう大人になるように思えた。そう思ったところで、私に出来ることはないんだけど。
翌日の朝。少しだけ様子が気になって野球部の部室を覗いてみた。
「うわ、煙っ!」
そこには倉持の姿はなく、彼の友人達しかいなかった。楽しそうにゲラゲラ笑いながら話している姿とその内容にフツフツと苛立つ。どうやら、喧嘩の原因は彼らにあったらしく、雰囲気的にもしかしたら倉持は悪く言えば良いように利用されていたよう。本人達には悪意はなく、利用したって意識もなさそうだけど。つーか、学校で煙草なんて吸ってんじゃねーよ。
そう思ったところで、タッタッタと足音が聞こえてきた。そちらへ振り向くと、そこには少し嬉しそうな顔をした倉持がいて。え。やば、こっち、くる…?
「わ、わぁぁあ!洋ちゃん、おはよー!ちょっとお話したいことが…」
あれを聞かせてはいけない。その一心で部室に行かせないように手を左右に広げてブンブン振り回し近くと、倉持は怪訝そうな顔をして「なんだお前」と言って私の横を通り過ぎようとする。
「あー!!ちょっと待ったぁ!と、取り敢えず、落ち着こうか」
「お前が落ち着けよ。悪りぃが今急いでんだ」
「あっ、ちょっ」
やばい。そっちには煙草集団がいるんだって!それに倉持なんか嬉しそうだし、今みたら気分ガタ落ちだよ!?慌てる私を他所に倉持は部室の前まで向かい、足を止めたところで中からまた声が聞こえてきた。
「うわ、ひっでぇ!先に喧嘩売ったのお前だろ」
「あいつらがさ女といていきがってるからさぁ」
「で、逆にブッとばされちゃったんだよな」
「どんだけバカだよ」
「うるせ!でも、洋ちゃんなら仇を討ってくれるって信じてたね。それに洋ちゃん単純だしな、顔の傷見せたら一発だよ」
「お前それ本人の前で言ってみろよ!関節決められんぞ!」
「ははは、ありゃやめてほしいよなぁ。マジで痛いから」
「わかるー」
手に力が入り拳を作った。全員知ってるんだよね?倉持が仇ってやつを取って大好きな野球が出来ないことを。推薦を取り消されたことを。なのに、なんでそんな風に笑っていられるの?
倉持が聞いてるなんて気付きもしないヤツらはどんどん話を続ける。聞くに堪えないものだ。横を見て倉持の顔を確認すれば、胸が痛み、すぐさま目を逸らしてしまった。
「なおと高校でも野球やんの?」
「やんないよ」
「お、俺も……」
「こんなのやってたら彼女できないもんな」
「俺もう野球はいいや、洋ちゃんみたいに上手くねぇし。ぶっちゃけ他の高校行ってくれた方が助かるよな」
「だよな」
聞くに堪えない。本当に。いつの間にか握られた掌には爪が食い込み、自分が口を挟むことじゃないと分かっていてもその場でジッとしていることは出来なかった。ただの私のわがまま。ムカついて、ムカついて仕方がなかったんだ。こんなヤツらのせいで、倉持は野球をすることが難しくなっているんだってことに腹が立った。一発全員殴らせろ。扉に手をかけ開けようとした時、私を止めたのは倉持本人だった。
「みょうじ、先行ってろ」
「……」
「ありがとよ」
乱暴に前から頭をひとなでされ、お礼を言われてしまったら、言われた通りここから離れるしかない。お礼を言われることなんて何もしてないのに。こちらを見ず、ただ前だけを見つめるその瞳は呆れているのか、怒っているのか、私には分からなかったけど、どこか寂しそうな悲しそうな目をしていることだけは感じ取れた。