お代はポテチで


あの日から倉持は元気がない気がする。


「ねえ、倉持。勉強教えてあげようか?お代はポテチでいいよ」
「俺はもう勉強しなくていいんだよ。つーか、相変わらずポテチ好きだな」
「え!勉強しなくていいってなんで!?……ま、まさか、中卒!?」
「なんでそうなんだ!!」
「じゃあ推薦無しで勉強もしないって、あなたは馬鹿?」
「……あー、東京行くことになった。なんかそっちの高校が俺を拾ってくれるってよ」


え?東京……?拾ってくれるって?


「野球続けられるってこと?」
「……ああ」
「なんだよおおおおお!!良かったじゃん!!心配して損した。てか県外から声かけられる程、野球上手かったんだね!」
「っな!?おいっ何すんだみょうじ!!離れろっ」
「いーやーだーー」


嬉しさのあまりつい抱きついてしまった。基本的に私に対して慌てたりしない倉持でも流石に抱きつかれたら慌てるらしい。数秒経ったらいつも通り落ち着きを取り戻していた。なんだなんだ。そっか。野球これからも出来るのかぁ。でも、東京ってのは意外すぎたなぁ。


「てか、なんで言ってくれないの!?」
「……俺がどこ行こうが関係ねーだろ」
「言われてみればそれもそうか」
「それに」
「?」
「たかが野球だろ」


そう言う倉持の瞳は冷めていた。きっとあの時のことが原因なんだろう。


「なになに?反抗期??」
「ちっっげえわ!!」


それでも、行った先の高校で「たかが野球」なんて台詞を言わないくらい夢中になれればいいな、って思う私は自分が思ってるより倉持のことが気になっているみたいで身震いした。気持ち悪っ!!


「つーか、なんでみょうじがそんな嬉しそうなんだよ」
「え、だって倉持から野球とったらただの不良になってしまうではないか。だからだよ?」


そう言うといつもの様に、もっかい言ってみろと片手で両頬を握られた。口が、くの字に尖ってしまう。けど、痛くはない。毎回ちゃんと手加減はしてくれる。

けどね、喜んだ本当の理由はプレーしている姿を見たことない私でも話を聞いてるだけで野球が大好きなんだってことが伝わってきて、それがもう出来ないかもしれないってなった時の倉持の表情を見てしまったから、このまま続けられないのは悔しいと思ったからなんだ。
あともう一つは、そうなったとしたら私があの友人達を許せそうにないから。これは、個人的な自分勝手な思い。











その日の放課後。一人でいるところに声をかけられた。


「……みょうじさん」
「うん…?」


倉持といつも一緒にいた五人組。倉持経由で話したことはあるけど、こうやって直接、それもあいつがいないとこで五人と話すのは初めてだ。


「あ、あのさ……」
「うん」
「よ、洋ちゃん、元気?」


控えめに少し困った顔をしながら質問された。しかも、五人みんな同じ。そんな顔するなら最初から言わなきゃいいのに。


「本人に聞いてみたら?」


そう言うとみんな下を向いて黙る。少しキツく言っちゃったかな?でも何で私に聞くの!?なんか私と倉持が仲良しみたいじゃん!

私じゃなくて本人に謝罪をして聞けばいい。謝って許してもらえるかは別として気まずい関係のまま卒業していくのかな。小さい頃からの仲なんでしょう、あなたたちは。倉持と一緒にいると、この人達の話題がよく出る。だから、話したことはなくても一人一人の性格とか面白エピソードを知ってたりする。私なんかよりもずっと倉持のことは知っているはずなのに。男同士のいざこざはよく分からない。でも、倉持は君達のこと大好きだと思うから。


「仲直りしたらいいのに。私なんかよりみんなの方が仲良いんだからすぐ出来るよ」


部室で話していたことはムカつくけど。あの時はぶん殴ってやろうと思ったけど、倉持もきっと前みたいにこの人達と仲を戻したいんじゃないかなって見てて思うから。つい、余計なことを言ってしまった。


「いや、待って?私なんかよりって、その言い方だと私も仲良しみたいじゃん!?違う違う、私は仲良くないよ?」


慌てて撤回するも目の前にいる彼らは眉を下げて気まずそうにしている。それにずっと無言。あ、あの?ちょっとみんなして黙んないでよ。なんかこっちまで気まずいじゃん。笑えないんですけど、この状況。助けて!助けて先生!


「ま、まあ、とりあえず、仲直りしとこ?ね?」


なんて、適当にその場を収めてそそくさ早足で立ち去った。










時は流れ。三月中旬。中学校最後の行事、卒業式が今終わった。


「おお!凄いじゃん倉持、髪が地毛になったー」
「髪を触んなっ!」
「洋一、なまえー!写真撮るぞー」


卒業式の看板の前で、倉持のおじいちゃんが手を振っている。「さっき撮っただろ!」と言う倉持におじいちゃんが「なまえと二人で撮っとらんじゃろ!」と言うので、写真を撮ることになった。
え、二人で撮る必要ある?てか、なんで倉持も「ああ」って納得して撮る気でいるの?


無事、二人で写真を撮り終え、一緒に写りたいと言った弟もいれて三人で撮った。見ていた双方の母達は「三人家族みたい」「うちのなまえをよろしくお願いします」とか楽しそうに会話をしていた。




そして、数週間後。倉持の門出を見送ることに。


「洋一!!行ってこい!負けんなよ、洋一」
「そうだぞ!!洋一、負けんなよ!」
「もういいって。てか、何でみょうじもいんだよ」


少し呆れた顔をしている倉持は何だか嬉しそうで。
結局、あの五人は来なかった。仲直りは出来たのだろうか。あ、でも出来てたら今ここに来るか。


「早く彼女作れよ!!」
「そうだぞ!可愛い彼女紹介してくれよ!!」
「お前はノっかんな!」
「いや間違った。なまえを早く嫁さんにもらえよ!」
「「なんでだよ!?」」


おじいちゃんのとんでもない発言に二人で突っ込むと同時に出発するアナウンスが流れ、扉が閉まろうとする。「じゃあね倉持」と言うと「ああ」なんて可愛くない返事が返ってくる。そして、あっという間に電車が出発していった。


「よし!!なまえ!洋一がいない分どんどん遊びに来いよ!」
「うんっ!」


駅からおじいちゃんと帰る途中、洋ちゃんへの横断幕を抱えている五人組を見かけた。倉持に届いたかは分からないけど、いつかまた六人でいる姿が見れるといいな、と小さく笑みを零した。



それから私はおじいちゃんの言葉通り、高校に入学しても倉持宅へ遊びに行った。たまに連絡を入れては「元気そうだな」「なんでそんなしょっちゅう行ってんだよ!」とか、倉持が自宅にかけた電話に私が出た時は「お前、住んでんのか!?」等言われたりした。

しかしそれも一年の冬で終わりを告げることとなる。母の転勤で東京に引っ越すことになったからだ。高一の冬休み明けの転校。倉持ってどこの高校だっけ?多分遊べはしないだろうけど、会いに行けるくらいは出来るだろうと、私は自身の通う高校の門を潜った。


青道高校。ここが今日から通う私の高校だ。




prev back next