12
「爆豪くん?」
「………」

彼は私の方を見るなり、またかと言いたそうな渋い顔をした。



乙ちゃんとプールに行ってから数日後、私は図書館に来ていた。
あれからエアコンを直しに業者の人が来てくれたり、我慢できる気温だったから家で過ごしていた。今日は中々の暑さと読書感想文を書く本を探すため図書館に来た。借りる本は何冊か候補があるから、宿題のワーク集でもやろうかと席を探していたところで爆豪くんの姿を見つけた。

二度あることは三度あるとはいうが、こんなにも偶然が重なると怖い。もしかしたらまた会うかもしれないと考えてしまっていたのが、逆に良くなかったのかもしれない。

彼はとても嫌そうな顔をしながら、じっと一点を見つめてる。その視線を辿った先には私の手。……手??あ、もしかして……。間違えていたら凄く恥ずかしくて自意識過剰だけど、もしかしたら心配してくれている…?プールの時男の人に握られた手首。

「何ともなってないから大丈夫、です」

手首を触りながら自分の胸あたりに手を持ってきてそう口にした。それが気に食わなかったのか彼の目はどんどんつり上がっていく。

「あ!?ンな事どうでもいいわ!!」
「そ、そっか」

怒らせてしまった……。

そして、ここからが問題なのだ。今日は人が多くて空いている席が爆豪くんの近くしかない。いや、空いてることはあるんだけど、皆、隣同士では座らなく最低一席は空けて座っている。他にも空いているテーブルに荷物や本を置いていたりして、そこに声を掛けられるほどの勇気は私にはない。だから、意を決して一席空けて彼の隣に座らせてもらったら、舌打ちをされた。本を読んでいる爆豪くんに、申し訳ないと思いつつチラッと視線を向ける。

「あ」
「あ?」
「それ、面白いよね。爆豪くんもそういうの読むんだ」
「"も"ってなんだ。文句あンのか!?ぁあ!?」
「文句ない!文句ないです!!」

わっ、わぁぁぁ……!口滑らせちゃった。私も結構好きな本だからテンション上がっちゃって。駄目だ、うん。集中しよう。勉強しよう。








「………」

わからない。あれ?全然わからない。問題に取りかかった瞬間、手が止まる。……そうだ。ここがわからなくて、途中で止めてたんだ。誰にも聞ける人がいなかったから、学校に行って先生に聞こうと思ってたんだ。

…………。

爆豪くんに聞いたら怒られるかな……。頭いいしなぁ。でもさっきから静かに本読んでるしなぁ。

「視線がうぜェ」
「え!あ、……ごめんなさいっ」

見すぎちゃった。

「………この問題教えてもらえ「るわけねェだろ」

だ、だよね。しかもこの問題、

「難しい問題だもんなぁ」

難問って書いてあるし。解ける人はって感じだったしなぁとぼんやり問題を眺めていたら、目の前からワークが消えた。消えたものは爆豪くんの手の中にあり、鼻で笑いながら「2」と呟き、私の前にワークを乱暴に投げた。2って、今の答え?

「どうやって解いたの?」
「普通に」
「普通……。途中式このノートに書「かねぇ」……」

んんん。答えは解答集見ればわかるし、解き方もわかるんだけど、どうしてこの公式を使うのかあまり理解できていない。テストで同じような問題がもし出たら、解けないかも。爆豪くんは理解してるんだよな。なんか、ここで引き下がるのも嫌だ。このまま悶々とするのも嫌だったから、数ヶ月前なら考えられないくらい爆豪くんに聞きまくった。


そして、数分後。

「す、スッキリしたぁ。わかったぁ!納得した!ありがとう爆豪くん!!」
「てめ、後で覚えとけよクソッ」
「え、あ、うん。後でお礼するね。本当に助かりました」
「違ェェェ!!死ね!!」

そのまま爆豪くんは荷物を持ち、席を立った。そして出口の方へ向かっていく。また、怒らせてしまった。言われてみれば、大胆なことをやってしまったかもしれない。教えたくないと言われたのに、無理矢理聞き出したりして。彼は感覚で問題を解いているというか、わからないことがわからないみたいな感じで、教えるのが下手だった。教えてもらった身で失礼極まりない。だけど細かく質問すると答えを返してくれるから理解するのに時間はかからなかった。

やっと解けた達成感で他の問題をやる気が起きない。今日は勉強を終わりにして、本を読もう。その後は、今商店街で行われている福引抽選会をやりに行こう。券も二枚持っている。





福引会場に着いたのだけれど、途中パラパラと雨が降ってきたせいかそこまで人はいない。これなら早く帰れそう、なんて思いながら最後尾に並ぶと数秒後、誰かが後ろに並んだ。

「は?」
「……え」

数時間前、隣で本を読んでいた人と同じ声が聞こえ、まさかと思って振り返れば傘をさした爆豪くんがいた。二人ともあまりの偶然に目を見開く。「またあったね…」と苦笑いをする私に爆豪くんは盛大に舌打ちをした。
それにしても、よく私のこと気がついたなぁ。傘で顔見れないのに。あ、いつも使っている日傘だったからかも。これ晴れ雨兼用だから。

そんな事を考えているうちに順番がきて、ガラガラを回す。毎年来ているため、おじさん達には顔が知られいて「今年は何当たるんだ〜」と笑いながら言われた。何を当てるっていうのは毎年何かしら景品を持って帰るからだ。昔から私はくじ運が凄く良いみたいで、必ず一つは当たる。それはそうと、ここの景品はいい物ばかりだから当たれば嬉しいな。

回して出てきたのは色の付いたものだった。これは当たりなのだろうか。おじさんの顔を見れば、カランカランと鳴らし「おお、三等ー!!おめでとうございます!!」と叫び、景品を持ってきてくれた。

「扇風機!?」
「三等は扇風機ね〜」
「すっごく嬉しい!!丁度、壊れちゃってて」
「そりゃよかった!雨降ってるから持って帰るのは今度にするかい?期間中に取りに来てくれれば置いとくこともできるんだよ」
「わあ、助かります。後で取りに来てもいいですか?」
「いいよ!じゃ、もう一回」

もう一度ガラガラを回し出たのは、また色付きの。おじさんの顔を見れば、驚いた顔をしていた。

「嬢ちゃん、やっぱりすげぇな」
「え?」
「特別賞だああああああ!!」
「び、びっくりした。……特別賞?」

おじさんがさっきとは比べならない程大きな声を出したから、びっくりして一歩後ろに下がった。

「そう!今年からできた賞でね。ま、見ればわかるよ」

A4サイズの紙とチケットみたいなものを渡され、会場から離れた。これって……。






「あ、爆豪くん」
「………」

次に並んでいた爆豪くんが終わるのを少し離れた所で待っていた。名前を呼ぶとさっきよりも機嫌が悪いのがわかった。紙袋をもっているから何か当たったのかな。

「ば、「ンで!てめェが当たって俺が一個しか当たんねぇんだ!!」

……え、えっと、機嫌が良くないのは、それ?

「……当たったのって、油?」
「あ゙ァ?!文句あんのか!?」
「ないですないです!油はいくらあっても嬉しいよね!!」
「嬉しかねェわ!!」
「そ、そっか!」

こ、これ聞けない。この雰囲気聞けない。

「……用は」
「え?」
「用件はなんだって聞いてンだよ!!……お前、まさか自慢するために待ってたわけじゃねェよなァ」
「違う違う!!あの、これ一緒に行けないかなって思って…」

差し出したのは、さっきもらった特別賞。景品は今度やる夏祭りの"全ての屋台(飲食のみ)無料券"だ。下の方に二人分と書かれている。

「…は?」
「お、お礼として!色々と助けてもらってるから」
「てめェとなんか行くわけねぇだろ!!それに助けたつもりはねぇ!!」

そうだった…!考えてなかった。爆豪くんが友達と行く約束をしてるかもしれないってこと。いや、それともただ単に私と行きたくないのかも。多分、ぜ、絶対そうだ。

「今年は、あそこのラーメン屋も出店を出すみたいで……。お祭限定の激辛ラーメン出すみたいだから、どうかなって思ったんだ、けど」

ラーメン屋というのは大食いをしたお店だ。チケットと一緒にもらったA4の紙に出店と何を出すかが書かれていた。
"限定の激辛"の言葉に爆豪くんは眉をピクりと動かした。

「日にちは」
「え、……あ、明後日」
「18時、公園前。遅れたら殺す」
「は、はい」

え、え?お祭、来てくれるの?




prev | back | next