15
夏休みが終わり、中間テストも終わった十月中旬。
三年に一度行う文化祭のため、各クラス準備に力を入れていた。体育祭は年に一度の大イベントだが、文化祭は三年に一回。残りの二回は合唱コンクールを行っている。そして、その一回が今年である。よって、全クラスが盛り上がりを見せていた。
私達のクラスは二つの教室を使い、お化け屋敷をやることになった。驚かすアイデアを出し合ったり、どういう配置で、通路は難しくするのか、など試行錯誤をし、準備をしている。
カーテンだけでは作れない暗闇、通路はダンボールで形成することになり、スーパーや商店街によく行く私はそのダンボール担当になった。お店の人が皆、優しいおかげで集めるのにそんな時間がかからず済んだ。と言っても、物凄い量を使うから足りなさそう。
「前、見えない……」
大量にあるダンボールは担任の先生が車で学校に運んでくれた。それからは数人で教室まで持っていくのだけれど、力があるといって一気に持ちすぎた。重いっていうより、持ちづらい。前が見えなくて慎重に登らないと階段を踏み外しそう。と思った瞬間、本当に踏み外した。
うわ、どうしよう。
「ゔ……」
「お、前……マジで、ふざけんな」
背中から落ちると思っていた私の体は、後ろからダンボールを運んできた爆豪くんによって阻止された。彼も私と同じように持っているため、ダンボールを盾に支えてくれている。そして、勢いよく押し戻され、前に重心がかかる。た、助かった…!
「ご、ごめんなさい……。ありがとうございます!」
「……おい」
勢いよく頭を下げ、階段を駆け上がる。爆豪くんの呼び止める声が聞こえたのを無視してダッシュした。
ここ数ヶ月、彼のことを避けている。最近席替えもして席も離れたため、喋るのは久しぶりだった。
どうして私がこんな行動をとっているかというと、始業式の日まで遡る。
約束してた麻婆豆腐の作り方を書いた紙を爆豪くんに渡した日。放課後の廊下で女子生徒の話し声が聞こえ、瞬時に身を隠した。自分の名前が聞こえたからだ。
チラッとその子達を見ると、爆豪くんに何か誘ってた後輩の子とよく一緒にいる二人だった。
「本当に爆豪先輩とみょうじなまえ先輩、二人でお祭り行ったらしいよね」
「あーそれ聞いた。クラスの子見たって」
「てゆーか、付き合ってないって言ってたじゃん?友達って感じでもないし。あの子可哀想だよね」
「私も思った。何の関係もないなら、近くにいんなって。爆豪先輩のこと狙ってる人、あの先輩のせいでいけないって子いるよ、絶対」
そ、そうだったんだ。そこまで考えていなかった。爆豪くんと何の関係もない??確かに、友達と言われれば違うような…?クラスが一緒ってだけだ。
私が彼といることで他の子達に迷惑がかかっている。そう思い、その日から近づかないように、話さないように、目も合わせないようにと心がけた。
自分では上手くやっているつもりが、爆豪くんには不審に感じたみたいで、最近は向こうから話しかけてくるようになった。
文化祭前日の放課後。少し光が漏れているところを発見したため、椅子の上に乗って補強していた。ダンボールを持ってきすぎちゃったな、と横目に見ながら後悔する。
もうちょっとで塞ぎ終わるところで、これが完了したら帰ろうと心の中で呟いた。数分前にクラスメイト達は帰り、誰もいない教室はとても静か。
「おい」
……あれ?手が届かない。あと少しなのに。背伸びをしても地味に届かない。
「……おい」
「え?……あっ、わああああああ!!」
「っ!?」
誰もいないと思っていたところに、急に後ろから声を掛けられたため、驚きで椅子から足を滑らせ、その人の上に跨るように落ちた。
「ッいってぇなァァ!!!」
「ば、爆豪くん!?」
声を掛けてきたのは爆豪くんで、早く上から退かないとと上半身を勢いよく起こしたらダンボールを置いていた机に体が当たり、今度はそれが上から落ちてきた。最悪だ。いつもより近くで聞こえる彼の怒鳴り声が、耳に直接入り耳鳴りする。
その音と共に、今度は廊下から人の声が聞こえてきた。まずい、また誰かに見られちゃうと思って、離れようとしたら下にいる爆豪くんの手が私の後頭部に回り、そのままグイッと自分の方に引きつけた。
「!?」
ち、近い。何枚ものダンボールが上から被さっていて、薄暗いけど息がかかりそうな距離。
「またクソみてェなこと気にしてンのか」
「クソ、みたいなこと……」
それはもしかして、噂のことを言っているのかな。
「てめェはどうしたいんだよ」
どうしたい?彼の問いに数秒考える。数ヶ月前までは怖くて、同じ教室にいるのでさえ気を張るくらいだったけど。今は……
「一緒にいたい」
考えるより先に言葉に出た。それを聞いた爆豪くんは勝ち誇った笑みを零す。
「じゃあそうしてろ。ビビリ女」
そう言うと、乱暴に私を突き飛ばした。結構強く振り払われたから横に倒れてしまう。……痛い、と感じながら爆豪くんに視線を向ければ、彼は教室を出て行こうとしていた。
"友達って感じでもないし"
"何の関係もないなら、近くにいんなって"
「あの!」
「……」
「……わ、私と……と、と、友達に、なってくれませんか!?」
「…………」
ゆっくり振り向いた爆豪くんの顔は見たこともないくらいマヌケ面だった。絶対、は?って思ってる。わ、たしはなんて大胆なことを……。
「あ、あの……今のは、「なってやる」……え?」
思ってもいなかった返事が返ってきて、声が裏返った。
「だァから、なったるわ!!」
「と、友達に?私と……?」
「てめェが言ったんじゃねェか!?脳ミソ腐ってンのか!!」
なってくれるの??友達に……?
「……すごく」
「あ゙ァ!?」
「すごく嬉しい。ありがとう」
きっと今の私の顔はとてもだらしないだろう。それくらい嬉しいんだ。爆豪くんはそんな私を見て眉を潜め、いつものようにケッと吐き捨て帰っていった。
「ンで、あいつのペースに巻き込まれてんだ。クソッ……気分悪ぃ」
教室を出て直ぐ。そんなことを零していた爆豪くんの言葉が私に届くことはなかった。
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