18
年始。
無事一年が終わり、新しい年を迎えた。去年は何かと濃かったなぁなんて思い出に浸りながら、両手には初売りで手に入れた物をたくさん持ち、家まで目指す。
まさか、爆豪くんとお友達になれる日がくるなんて……。去年の今頃は考えもしなかったな。そんなことをぼんやりと考えていると、ドサッという音がして左手の荷物が軽くなった。
「……う、うそ」
食材が入った袋が破け、地面にはそれらが落ちていた。
「あ、良かった。卵は無事」
明日は幼なじみの家族が家に来る。そのためいつもより多めに買っていたから重くて破けてしまったのかもしれない。取り敢えず、袋の底を縛れば使えるかな……?
「あら、大丈夫?」
しゃがみ込んで袋を縛っていたら、頭の上から声が聞こえ顔を上げると、女の人が前屈みに覗き込んできていた。
「あ、だ、大丈夫、です」
「家すぐそこだから、良かったら袋持っていきな?」
「え」
それに一人じゃ持てないでしょと言い、落ちた食材を拾い上げてくれた女の人と一緒に歩き始めた。
「みょうじさん、よね?」
「え?」
「ああ、ごめんね。息子がみょうじさんと同じクラスでさ」
「そ、そうなんですね」
誰だろう…?でも、なんか凄く既視感があるような。ま、まさか、ね。
そして、少し歩いたところに家があり、本当に直ぐ着いた。
「……爆豪」
表札にはさっきまでぼんやりと考えていた人の苗字があった。というか、お家が大きい。や、やっぱり爆豪くんのお母さんだったんだ。凄く似てるし、匂いも同じ。洗剤の匂いが。って、また痴女みたいなことを考えてしまったと体育祭のことを思い出し、顔が青ざめるとポタッと頭に何かが落ちてきたその瞬間、大量の雨が一気に降ってきた。え?急に??
「みょうじさん、こっちこっち」
「は、はい」
爆豪くんのお母さんに手招きされ、後ろをついて行き、玄関に入れてもらった。家の中に入っちゃった……。凄く広い。
「いきなり降ってきたねえ。みょうじさん濡れたでしょ?タオル持ってくるから、取り敢えずリビング行こう」
「い、いや、私ここで!」
荷物を持ってくれ、袋もくれると言ってくれて、これ以上迷惑かけるわけにはいかない。それにこんな年明け直ぐに人様のご家庭にお邪魔するなんて、申し訳ない。
「あら、この後予定ある?雨上がるまででも」
「予定はない、ですけど。あ、あの!……ご迷惑になってしまうので」
「それなら心配しないで。旦那は用事でいないし、それに丁度……」
な、なんで私ここにいるんだろう。買い物して、袋が破けて助けてもらって、その人が爆豪くんのお母さんで、それから雨が降ってきて。ソファに座り、台所で紅茶を淹れる爆豪くんのお母さんをチラッと見る。
はああああああ、ケーキに釣られてしまった。
丁度、美味しいと有名なケーキを貰ったらしくて。かなりたくさんあるから爆豪くんも食べてくれなくて余っちゃうみたいで。きっと私がここにいること、彼にバレたら凄くキレそうだ。それに、今爆豪くんに会いたくない理由がちゃんとありまして……。
「はい!どうぞ」
「あり、がとうございます」
紅茶とケーキを持ってきてくれ、対面式のソファに腰をかけた。ここのお店高いんだよね。わ、私なんかが食べても大丈夫なのだろうか。そう思いながら一口食べる。
「……ふわぁ」
あまりの美味しさ、ふわふわ加減にそのまま声に出してしまった。は、恥ずかしい。
「ふふ、美味しい?」
「すごく、美味しいです。あの、本当に私が頂いちゃっても良かったんですか?」
「いいのよ!それに、みょうじさんとお話してみたかったのよねぇ」
「私と、ですか?」
首を傾げると、爆豪くんのお母さんは楽しそうに笑った。
それから、数十分。たくさんお話して、たくさん食べた。誰にでも人見知りをする私だけど、彼のお母さんは不思議な人で直ぐ打ち解けることが出来た。爆豪くんの話だったり、学校の話、いつも行くスーパーが同じだったり、雨は上がっているのに未だこのお家にお邪魔している。
それに、私がたくさん食べることを知ったらケーキ以外にもおせち料理など他にも色々食べさせてくれた。どれも美味しくて、爆豪くんの料理上手がなんとなく分かった。私が美味しそうに食べているみたいで、それを見て彼のお母さんは嬉しそうに笑っていた。
「は?……な、んでいんだてめェ」
あと少ししたらお暇した方がいいかもと思っていると、リビングのドアが開き、そこには数週間振りに見る爆豪くんの姿があった。
「……あ」
ここ、爆豪くんの家ってこと忘れてた。やってしまったと冷や汗が流れたと同時にスパーンと頭を叩く音が部屋に響いた。
「あんた、女の子に向かっててめェはないでしょーが!」
「ァ゙あ゙!?ッにすんだ!バッバアァ!!」
「ババアも言うなっての!」
もう一度、勢いよく叩いた。勢いが、凄い。
「あ、あの!私、爆豪くんのお母さんに助けてもらって。それで、雨降ってきちゃったからお邪魔させてもらってたの」
「……」
「……あ、あと。ケーキに釣られて」
「釣られンな!」
無言で見つめられたからケーキのことも言った方がいいと思ったのだけれど、それは言わなくてよかったみたいだ。
そう説明している時、家のチャイムが鳴り彼のお母さんが返事をして玄関へ向かった。
「あ、あの」
「あ゙ァ?」
「爆豪くん、明けましておめでとうございます」
「……ああ」
年が明けてこんなに早く会えるたのは嬉しいな、とそっぽを向いて返事をする彼を見て思った。
「つーか、それ自分でやったンか」
「え?」
自分でやったのか、そう言う彼の視線を辿ると私のおでこに。こ、これも忘れてた。爆豪くんに会いたくない理由、それはこの短くバラバラの前髪。冬休み入って直ぐ、伸びてて邪魔だったから前髪くらいはと思い、自分で切ったのが失敗だった。毎年、お正月に来る幼なじみに切ってもらうまで我慢するんだけど、その日は何故か私でも出来るんじゃないかと自信があって、この有様。
髪は伸びるからいいんだけど、爆豪くんが綺麗に切ってくれたのに、申し訳なくて顔が合わせられなかったんだ。
「ご、めんなさい。せっかく綺麗に切ってくれたのに」
そう言って彼から視線を外し、床を見る。すると爆豪くんは自分の手を私の前髪と額の間に滑らせ、髪に触れた。
「来い」
「え……?わっ」
前髪から手を離すと、今度は私の手首を掴み引っ張る。リビングを出たところで、爆豪くんのお母さんに会い「どこ連れてくの?!」の問いに「部屋」と吐き捨て階段を登った。
爆豪くんの部屋はイメージ通りでシンプル。何かを取りに一旦部屋を出ていった彼を待っている間、キョロキョロと見渡す。あ、あんまり見たい方がいいよね。そう思ってまた下を向く。それにしても、綺麗に掃除してあるなあ。爆豪くんA型だ、きっと。
下を向き、ぼーっと考えていたら乱暴に扉が開いたからビクッと肩を揺らす。
「おら」
戻ってきた爆豪くんの手には袋とハサミ。袋を渡され、私の頭を少し下向きに傾けさせた。き、切ってくれるのかな……?「寝たら殺す」と物騒な事を言う彼を見て、慌てて袋を広げる。
少しして、手が離れていくのが分かったから終わったのかなと瞑ってた目を開けると、満足そうな顔をした爆豪くんがいた。上手く切れたのだろうか。ご丁寧に鏡まで持ってきてくれて、切り終わった髪を見せてくれた。
す、凄すぎる。彼のセンスと器用さを改めて実感した。料理も上手だし、部屋も綺麗に整理されてるし、なんか、凄く……
「良いお嫁さんになりそうだね」
「あ゙ァ゙!?ッてめ、どう言う意味だゴラァ!!!!」
「………ごめんなさい」
ひぃぃぃぃい。間違えた!!間違えて口に出してた!!
そして、そろそろ本当に帰ろうと思い二人でリビングに戻れば、爆豪くんのお母さんが私の前髪を見てポカーンと口を開けた。
「あんたが……切ったの?」
「なんだよ」
驚く自分の母親に爆豪くんはムスッとして応える。彼がこんなに上手に髪を切れる事に驚いたわけではないらしく。
「嫁入り前の子になにしてんの!?」
「あァ!?俺が完璧に切った髪をこいつが下手に切りやがったから直しただけだ!!!」
「は?……切ったってまさか」
今度は焦ったようにバッと私の方に振り向いた爆豪くんのお母さんに「この髪、爆豪くんに切ってもらって……」と返した。体育祭の時は凄く長かったから、驚いているのだと思う。
「責任とりなさいよ、あんた」
「どう言う意味だ!!!」
わーわー言い合う爆豪くん達にただ焦ることしか出来ない。ど、どうしよう。言い争いは止まるどころかヒートアップしていく。私がお願いしたばっかりに。そして、混乱して出てきた言葉がこれだった。
「わ、私が、責任とります!!爆豪くんの!!」
「「………」」
あ、あれ?……間違えた。
私の問題発言に爆豪くんのお母さんは爆笑し、彼は苦虫を噛み潰したような顔をして呆れていた。そうして言い争いは収まり、帰る支度をしている時に彼のお母さんがぽろっと零した。
「おかしいと思ったのよねぇ」
「え?」
「夏休みの時だったかしら。私に髪のこと聞いてきてさ。しかも携帯で女の子の画像見てたから珍しいな、と思ってたのよ。……あんなんだけど、これからも仲良くしてやってね」
そうだったんだ。
「こ、こちらこそ!!爆豪くんは、優しくてとても素敵な人で」
「……」
「私、お友達になれて嬉しいです」
そう言って笑うと、思いっきり抱きしめられた。
「なにこの子可愛い!!」
「えっ……え?」
ちょ、……え?待って。苦しいし、胸が……。
「……なにやってんだ」
「あっ、ばく、ご、うくん」
た、たすけて。
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