02
爆豪勝己

彼はあのいじめっ子と少し似ているところがあり、よくあの子と重ねて見てしまう時がある。
だからか何もされていないのにびくびくしてしまいそして彼は不機嫌になる。そりゃあそうだ、こんな態度では誰でも嫌がるに決まっている。自分のせい、なのは分かっているけど苦手なものは苦手だ。

例えば、前からプリントが配られる時は慎重にとるし、間違っても手は触れないようにする。そのせいか最近では机に置かれるようになった。幸い給食の班も彼は前のグループ、私は後ろのグループだからそこは安心できた。


だけど関わらないようにする事は難しく、その日は突然現れた。

「今日は爆豪とみょうじ、二人で日直を頼む」
「……え?」
「普通は隣同士でやってもらってるんだけど、ほらお前らの隣は今日休みだろ?」

その方が効率が良いという先生。え、ちょっと待って。私達を抜かして先に後ろの席の人達にやってもらうことは出来ないですか……!?

号令、日誌を書く、黒板を消す、移動教室の時は最後まで残り電気を消し、窓が開いていたら閉める、教室の鍵の開閉、係のない科目はノートを集めたり、先生に頼まれごとをされるのが日直の仕事。

移動教室は二時間目、係のない授業は四時間目と一回ずつしかないから、何とか一人でも出来そう。問題は日誌。これは放課後皆で掃除が終わった後、二人で一日の感想を書き、先生に提出しなければならなく、余程のことがない限り一緒に放課後書くという決まりらしい。私は思った。なんだ、このふざけた規則は、と。



「おい」
「ぇ、あ…は、はい!!」
「号令、黒板、日誌、鍵を開けるのは俺がやる。他はてめェがやれ」
「わ、わわかりました」

前を向いたまま話す彼に、緊張して声が裏返りながら返事をした。
全部任されると思っていたが、たくさんやってくれるみたい。逆に私がやらな過ぎかもしれない。確かに、前回の日直の時もきちんとやっていた気がする。


一時間目が終わり、次は移動教室。彼、…爆豪くんが黒板を消している間に窓を閉め、汚くなった黒板消しを機械で綺麗にしとく。凄く綺麗に消してるなんて思っていると爆豪くんが大きな声を出した。

「消すのはやるっつただろーが!!」

こっちを見ないで突然怒鳴ったため思わず肩がビクッと上がる。

「…ぃや、あの…鍵を閉めるのに」
「…………チッ」

黒板を消すのを止め、しばらく止まった後、思い出したかのように舌打ちをされる。クラスの皆は既に移動しているからこれはもしかして爆豪くんと一緒に行くようになるのかな。…え、嫌だな。

消し終わり、鍵をかけるまで待っててくれ、手を差し出されたから、お願いしますと言って鍵を渡すとスタスタと歩いていった。


「びっっっくりしたぁ」




四時間目の授業では何もする事はなく、そのまま放課後まで先生に頼まれごとをされる事はなかった。
そして掃除が終わり、ちらほらとクラスの子が帰っていき、前の席では爆豪くんが感想を書いている。書き終わったのかプリントを渡す時のように日誌を置いてくれて、その後自分の机の上に足を乗せていた。
そこで初めて中身を見たのだけど、なにこれ。授業の内容がわかりやすくまとめてあって、字もとても綺麗。


「字、うまぁ」

今日起こったあらゆるギャップに思わず声が漏れてしまった。

「あ?」

そう言い、決して普段後ろを振り向かない彼が振り向き、目があったので思いっきり自分の机に視線を逸らした。

「あ、ご、ごめんなさい……。綺麗だったから、つい!」

何が綺麗だったからつい、だよ!何言ってんの私。と、とりあえず落ち着こう。落ち着いて早く今日の感想を書こう。そうしている間も視線を感じる。早く、早く書かないと!!
え、えーっと。爆豪くんの字が綺麗だった。ってあぶないあぶない!動揺し過ぎて、変なこと書こうとしちゃった。今日の感想って、爆豪くんのギャップしか思い出すことが出来ない。

「遅ェ」
「ぁ、うん、ごめんなさい。早くします」
「チッ」

舌打ちをして前を向き直した。や、やっぱり気持ち悪かったよね、ごめんなさい。
結局何も思いつかず、今日の天気は良かったと書いてしまったが大丈夫だろうか。

そのまま一言も喋らず二人でで職員室に行き、終わったら彼はやっぱりスタスタと歩いて行く。




「……爆豪くん、あのいじめっ子と全然違かった」




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