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中央広場に着くと、聞き慣れた爆発音と見慣れた姿に安堵する。

「平和の象徴はてめェら如きに殺られねぇよ」

爆豪くんがワープの敵を、轟くんがオールマイトを捕まえていた相手を凍らせ動きを止める。脳みそが出ている巨体の敵はどことなくワープと似ているように感じた。感じる、というのは今は視る個性が発動していないから色での判断は難しい。

「出入り口を押さえられた……こりゃあ…ピンチだなあ…」

爆豪くんに目をやりそう言うけれど、ピンチだとは思ってない口振りだった。

「っと動くな!!"怪しい動きをした"と俺が判断したらすぐ爆破する!!」
「ヒーローらしからぬ言動……」

そして。爆発小僧をやっつけろ。出入口の奪還だ。と主犯格の男が発した途端、腕が割れ落ちながら体勢を立てたかと思いきや、直ぐになくなった身体の一部が生えてきた。個性が二つ。ショック吸収と超再生があるらしい。

「脳無はおまえの100%にも耐えられるよう改造された超高性能サンドバッグ人間さ」

改造された……?サンドバッグ人間……?男の言葉にひとつの考えが頭を過り、心臓が鈍い音を立てる。それって、つまり……

「!!」

フィクションの中でしか存在しない、自分とは関わりがないと思っていた所業に気付いた時、脳無と呼ばれた敵は腕が戻り、手の男の指示と共に出入口を確保するため爆豪くんのところまで迫り寄る。それも物凄い速いスピードで。

「爆豪くんっ!!」

彼の元に来るのは分かっていた。だから反応出来たのかもしれない。大切な友達の名を叫び、気付けば足が勝手に動いていた。


ドンッッという衝撃音。人が吹き飛ばされてしまうほどの風。

「みょうじ少女、大丈夫かい!?」

ゴホッ。ゲボ……。咳を溢しながら、こちらに視線を向けるオールマイト。彼越しに先程の衝撃で破壊された壁が目に入る。そうか。私はオールマイトの邪魔をしてしまったんだ。平和の象徴と呼ばれる人と同時に爆豪くんの元へ向かったから彼と一緒に吹き飛ばされた。けれど、その途中。私に衝撃を与えないよう壁に背が当たる直前、オールマイトは爆豪くん同様私の体を横に投げた。ヒーローの邪魔をしてしまった。私のせいで余計な痛みを受けてしまったかもしれない。



なまえが余計なことを、足でまといな事しかしてない、ここに来るべきじゃなかったのかも。などと自己嫌悪に襲われている中、爆豪はオールマイトと敵の速さに「何も見えなかった」と、自分との力差を痛感するもその速さについてきたなまえに対し、初の戦闘訓練で轟に感じた"敵わない"という似た思いが一瞬頭を過ぎったことに苛立ち、自分の名を心配げに呼んだなまえの声が脳内で反芻し、そのことにもググッと眉を寄せ、顔を険しくさせた。

一方、オールマイトも動揺していた。教師として生徒の個性は把握しているが、まさかあんなスピードを出せるとは想定していなかったからだ。



「だ、いじょうぶ、です。……ごめ、んなさい」

プロヒーローの妨害をしたことに震えながら謝罪するも「いい反応速度だ!」とニカッと眩しい笑顔を向けられ、やっぱり平和の象徴と呼ばれる光のような存在だなと眉を下げる。それから、再びオールマイトは敵へと視線を移した。

「…………加減を知らんのか…」

それに敵の反応はない。ただこちらをジィっと見つめているだけ。私の方を。

「お前……」

掌で覆われた顔。指の間から覗く瞳からは何の感情も感じられない。無。怒りも苛立ちも、愉しささえない。ただ、こちらに視線を向けて一言放った。

「本当にヒーロー志望か?」
「っ」
「だけど、こっち側って訳じゃないよなァ……あー…何でた?お前見てると、イライラする……」

そう言ってボリボリ皮膚が剥がれ落ちる程爪を立てて自身の首を掻く相手に何も返せず息をするのも忘れ、恐怖心から体が震える。

「まあ、いいや。……仲間を救ける為にしたことさ、仕方ないだろう」

先程のオールマイトが発したことに、仕方ない、と。緑谷くんが思い切り殴りかかろうとした、などと自分の思いを平和の象徴に打つける。それからオールマイトと改造人間と呼ばれた敵の真正面からの殴り合いが行われ、最後、敵が建物外に吹き飛ばされた。


改造人間との戦いが終わり、邪魔にならないようここから退こうとするが緑谷くんだけが動こうとせず、残り二人との戦いが始まろうとした途端、目の前から彼が消えた。

「オールマイトから、離れろ」

モヤに飛び込み、そこから手が伸びてきた時、大勢の先生方がやって来た。それにより、ワープの個性で主犯格らはこの場から姿を消した。



「緑谷ぁ!!大丈夫か!?」
「切島くん……!」

倒れてる緑谷くんの元へ駆けつけようとする切島くん。でも、今そっちには行かない方が……。土埃に紛れて姿は見えづらいけれど、多分いつものオールマイトの格好ではない。全ての力を使ったため、通常の姿を維持出来ていないんだと思う。だから、

「あっ、あの……そっち、行かない方が…!」
「?」

掠れた声で放ってしまったから届かないかもと思ったけれど、しっかり彼は声を拾ってくれて首を傾げ振り向いた。それと同時にコンクリートが壁を作るように浮き上がる。

「怪我人の方はこちらで対処するよ」
「そりゃそうだ!ラジャっす!!」

現れたセメントス先生の言葉に納得し、戻ってくる切島くんにホッと息を吐く。早く外に出ないと、と歩き出す轟くん達の後ろを俯きながら歩いていたら、ふいに隣から声をかけられた。

「おい」
「?」
「二度とあんなことすンじゃねェぞ」

いつの間にか横に並んで歩いていた爆豪くんが言った二度と、とは何のことか数秒考えた。きっと、多分、絶対あの事だ。爆豪くんが襲われそうになった時に飛び込んだこと。自分でも無意識下で行動してしまったことだけど、これからはあんなことをするのは止めよう。ヒーローの邪魔をしてしまったし、私なんかが駆けつけても力不足で何も出来ない。爆豪くん自身も力のないノロマな私が守ろうとしたことによく思わなかったのだろう。


「うん、もうしない。ごめんなさい」


でも、また大切な友達が危険な目に合うとしたら、失いたくないという自分勝手な考えで飛び出してしまうかもしれない。痛いのなんて怖くてしかたがないことだけれど、誰かが痛みを味わい、また命を失ってしまう方が痛みの何倍も怖くて辛いことだから。私の返答に、機嫌が悪そうに舌打ちした爆豪くんを横目にそんなことを考える。

私のせいで亡くなった兄の代わりにヒーローになる。兄が救うはずだった人々を救ける。それだけじゃヒーローを志す者として相応しくないのだろう。もしかしたら兄や家族、寧人がいなかったら、私は敵になっていたのかもしれない、と主犯格に向けられた言葉を思い出した。でも、敵になる度胸なんて私には無いかもしれないと自分に苦笑する。




「僕がいたとこはね……どこだと思う!?……どこだと思う!?」
「えっ?」
「どこ?」
「秘密さ!!」
「……」

急に近くにいた青山くんに自分がどこにいたのかという問いかけをされ、驚きで声を張り上げれば代わりに蛙吹……つ、梅雨ちゃんが答えてくれた。プロの世界を知り、恐怖を知ったのにも関わらず、いつも通り接し自分を保てている青山くんが凄いと尊敬する。強い人なんだろうな。

それよりもさっき後ろで聞こえた葉隠さんが居た場所が自分と同じところだったなんて気付けなかった。そそっと彼女に近付き謝る。

「ご、ごめんね……。置いて行っちゃって」

不安いっぱいで余裕がなくて、自分のことしか考えてなかったから気付けなかったんだ。

「ううん!そんなことないよ!!私の方こそ何も出来なかったよね、ごめんね」
「そんなことない……!」

なにより皆無事で良かった!と明るく言う葉隠さんに口元が緩む。

警察の人に、先生方に命の別状はないが重症なことを知らされ、何も出来なかった不甲斐なさが心中でグルグルと巡った。




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