04
梅雨も明け、期末テストも終わりあのビッグイベントが始まろうとしていた。


体育祭


この学校では毎年、夏休み前の七月に行われる。この時期から各クラスで出場する種目を決め、練習に育むのだが、未だに前の席は爆豪くん。席替えはしていない。基本的先生の気分で行い、今やらないということは夏休みが明けてからなのだろう。
爆豪くんとは、没個性だと言われてから一度も話していない。彼は思ったことを言っただけだと思うけど、"没"個性と言われたのは個性を恐がられていた私からすると少しだけ嬉しかった。
でも、それで苦手を克服した訳じゃないから次の席替えまであまり近づかないようにしたい。

とりあえず、リレーと男女混合の二人三脚の種目で彼とペアにならなければ関わりはほぼなくなる。

と思っていた矢先。

「リレーのアンカーは爆豪とみょうじさん」
「二人三脚のペア、爆豪とみょうじさん」


「え?」

そう言って学級委員長は黒板に苦手な人と私の名前を書いた。


無理。

むりむりむり!!無理だって…。百歩譲ってリレーは良い。バトンを渡すだけだから。だけど二人三脚は肩を組まなきゃいけないくらい近くて、もはやゼロ距離。密着。そんなのビビリの私には出来ない。もし上手に足が合わなくて転ばせたりしたら……って想像しただけでも恐ろしい。
でも二人三脚はくじ引きで男女のペアを決める謎のルール。この種目は全学年合同の種目だから皆の熱が入りやすい。
一学年六クラスあるこの学校では、三学年の同じ組で一つのチームを作り順位をつける。私達はC組で一年生から三年生のC組が同じチームになるという仕組み。種目毎に点数がつけられ、一番高い点数を取った組が勝利となる。

ヒーローに憧れるこの現代、勝敗を決める行事に本気でやらない訳がない。


「それにしても、私なんかがアンカーでいいのかな?」
「もちろん!!ていうか、みょうじちゃんしかいないって!!このクラスどちらかというと文化系多いし、なにより学年で一番速いじゃん!」

目をキラキラさせた後、バトン渡すのが爆豪くんなのはちょっと可哀想だけど、といたずらっ子のような笑顔をする副委員長。そうなんだ。リレーの走る順番は最後に男女のアンカーが交互に走れば、後は好きなように決めて良い。ちなみに、アンカーがグランド一周、他は半周。どのクラスも毎年男子がアンカーを務めるから、私は爆豪くんにバトンを渡さなければならない。

大丈夫かな…。








そして、リレーの練習時間がやってきた。私は今、爆豪くんに怒鳴られている。

「てっっっめェ…!やる気あんのか!!ンな渡し方じゃ数秒無駄にするわ!!」
「ぅ…、ごめんなさい」
「………チッ」

爆豪くんが怒るのも無理ない。緊張するあまり手が震えバトンを渡す力が弱く、彼の手に上手に乗せられないのだ。そのせいで向こうは助走を取ることが出来ず、なかなかバトンも渡されないから後ろを振り返ったり、最後の方は爆豪くんが奪い取るような形になっていた。
リレーはクラス全員参加じゃないため、練習時間は他の種目に比べて少ない。他のクラスメイト達が違う種目をやっている間に練習をして、後から合流する。

今日は二人三脚の練習をしているから、当然……

「…っ!」
「うわあああ!」

爆豪くんと一緒だ。
そして、全然合わない。さっきの気まずさと距離の近さによりリレーの時よりも心臓がバクバク鳴っている。この音、聞こえてないといいけど。
それよりも手のやり場に困る。他のペアはお互い肩を組んだり、腰に手を巻いたり色々上手くやっているけど、私と爆豪くんはお互い自分の腰に手をあてて、バランスが取りづらくよろけてしまう。もしかしたら、もしかしなくても私達のペアが一番出来ていない。隣にいる爆豪くんは苛立ちを隠しきれていない。


「お前、俺が怖いんか」

突然の思いもよらないことを聞かれたから、びっくりして勢いよく振り向いた。怖いか怖くないかで聞かれたら、怖いけどそれを彼に言ったら怒るのだろうか。

「こ、怖くな……」
「あ゙あ゙?」
「怖いです!ごめんなさい…」

凄い顔で睨まれてしまえば、本当のことを答えるしかない。というか、バレてた。冷や汗をかく私を他所に爆豪くんはこう言った。


「一番だ。全種目一位とっての優勝だ。てめェの気持ちなんざ知ったこっちゃねぇ。俺への恐怖心とかクソくだらねぇ事で足引っ張んじゃねェ!ビビリ女!!」


怒鳴り声と共に終わりの合図が鳴った。




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