06
体育祭当日。

「みょうじちゃん〜〜!良かったぁぁ、体調は大丈夫なの??」
「うん、大丈夫だよ。迷惑かけてごめんね」
「そんなことない!もし具合悪くなったら言ってね!リレー走るの無理そうなら、代わりに走るって言ってくれた人もいたし!」
「ありがとう。で、でも朝少し練習したから、皆が良かったら走らせてほしい」

登校してくるクラスメイトに休んだことを謝ると、皆心配をしてくれた。

結局、体育祭前に学校へ行くことは叶わなかったから皆より早めに来て練習をしていた。
誰もいないと思って登校をしてきたのだけれど、荷物を置きに教室に入れば、ツンツン頭をした人物がいて驚きのあまり荷物を落としてしまった。彼は私を見るなり、来なかったら殺すつもりだったと、ニヤリと笑うから本当に来て良かったと心の底から思った。それから少し練習をしたのだけど、倒れる前みたいには上手くいかなくて爆豪くんはイラつき、私も少し不安が残った。



《続いては二年の部 予選リレー!!》

開会式と一年生の部の予選リレーが終わり、次はいよいよ二年生。
アナウンスと共に第一走者が位置に着き、合図が鳴った瞬間、一斉に走り出した。私達のクラスは二走者目に変わったところで一位。後ろに並んでいる爆豪くんの雰囲気が怖くて見れない。

「おい」
「……」
「……おい」
「……わ、たし?」
「お前以外に誰がいんだよ、クソが」
「…そ、そうだよね」

クソが……?まさか喋りかけられるとは思っていなかったから反応に遅れてしまった。というより、爆豪くんのこと無視しちゃったんだけど「クソが」で済んで良かった。

「帽子はどうした」
「……帽子?」
「ッてっっっめェェ……!そのせいで熱出して倒れたんじゃねぇか!!!!ンで被ったねぇんだよ!!」

びっくりした……。鼓膜が破れるほど大きな声で怒鳴った爆豪くんに近くにいた待機している人達が勢いよく彼の方を見た。多分、私が帽子を被ってないことを気にしてくれたのだろう。直ぐに理解しなかった自分の頭を殴りたい。

「走る時に邪魔だから置いてきたの!日が当たるのが駄目とかじゃなくて、長い時間ずっと当たってると少し体調が悪くなっちゃうだけで」

なるべくは当たらない方がいいけど、こういう時まで無理して被る必要はない。一応、顔以外の肌は直接日に当たらないようにインナーを着ているし。それに、あんなに熱を出したのは日に当たってただけじゃなくて、色々緊張して精神的にも疲れていたのも原因だったかもしれないから。

「あの、心配してくれてありがとう」
「あぁぁあ!?誰も心配なんかしてねェわ!!そう思うンなら脳外科行けや!!」

た、確かに。でも、日光に弱いことを覚えててくれたのが少し嬉しい。席が近くなってから彼の見方が少しずつ変わっていった。
そんなことを考えているうちに、順番が回ってきて一位で戻ってきたクラスメイトからバトンを受け取り、走り出した。これ、抜かされたら殺される…。


無事に予選を一位で通過し、タイムも一・二年生の中で一番を出せて、アンカーの爆豪くんは見事な走りで最終位の人と一周差をつけて戻ってきた。本選に出場できるのは予選のタイムが速い順、合計七クラス。今の時点でC組は出場決定だ。

本選出場は決定したもののバトン渡しは上手くいかず、爆豪くんは後ろを振り返りながら受け取っていた。このままでは優勝は難しい。しっかりしなくちゃ。




そして。様々な種目が行われ、次は二年女子の個人種目、借り物競走。例年、三年男子と二年女子が借り物競争をやり、借りるのは物や人、いろいろである。もちろんこの競技も順位毎に点数を付けられる。
今のところ出ているお題は、無難な物からイケメン、将来育メンになりそうな人などといった探しにくそうなものまで。できれば簡単なお題を引きたい。

《位置について、よーい…》

バンッとピストル音が鳴り、走り出して自分の前に置いてある紙を取った。

「これって」

お題を確認した瞬間に思い浮かんだ人物。しかし彼が一緒に走ってくれるとは到底思えず、違う人を探そうにも彼以外に思いつかない。私がモタモタしている間に他の子達は自分のお題に合う人を探しに動いている。

これじゃあ、ビリになってしまう。……ビリ?
そう思った途端、自分のクラス席へと勢い良く駆け出した。

……そうだ、負けちゃう。もしここで一位になって点数を取っていればって後々後悔したくないし、ビリだったことが爆豪くんにバレるのが怖い。私の順位なんてこれっぽっちも興味は無いと思うけど、知られたら怖い。あとは、それよりもただ少しでも点を取って皆の役に立ちたい思いが強かった。


《おーっと!C組のみょうじさん、一目散に自分のクラスの方へ!!そっちは男子しかいない!お題の内容が気になりますねえ!!》

アナウンスにより一気に注目の的に。大勢の人に見られるのは苦手だ。

「きたきた!」
「みょうじさん、お題なんだったの?!」
「誰探してんの?一緒に走ろうか?」
「俺?!俺?!」

クラス席に着くと皆が一斉に話しかけてくる。男の人には苦手意識があって、ほとんどの人がそんなに話したことがない。目的の人物・爆豪くんは一番後ろの椅子に体を崩して、こちらを見向きもせず座っていた。

「……爆豪くん」
「あ゙?」

周りの人に頭を下げながら爆豪くんの前へ向かい、深く頭を下げる。

「い、一緒に!走ってくれませんか?!」
「ヤダ」
「……」

そ、そうだよね。嫌だよね。……どうしよう。予想はしていたけどこのお題、爆豪くんしか思い当たらない。プチパニックに陥っていると、クラスの男子達の一斉ブーイングが周囲に響き渡った。

「勝己ぃー!そりゃねぇぜ!!」
「同じクラスなんだから協力してやれよー!」
「そうだ!じゃねぇと俺らのクラス、ここでビリになることで負けるかもしれねぇよ?」

"負ける"の言葉に眉をピクリと反応させる爆豪くん。

「……負けるだァ?……チッ、おいノロマァァ!!!俺の足引っ張んなっつったよなァ!!」
「え、あ、うん……?わっ、ちょっ、まっ」

こちらを睨み怒号を上げ、勢い良く椅子から立ち上がったと思いきや爆豪くんはそのまま走って行ってしまった。あのっ、これ、一緒にゴールしないと駄目だと思う!


《一番で帰ってきたのはC組!みょうじさんペア!!》

「はぁ、……はぁはぁ」

一番と言われたのにも関わらず、渡されたのは六位の旗。

……やってしまった。

あまりにも爆豪くんが速すぎるのと一緒にゴールしないといけない焦りから、個性を使って走ってしまった。

「ごめんなさい!!走ってくれたのに!……個性を、使ってちゃって!!」

キレられる。これは本気でキレられる。でも仕方がない。私が悪いんだ。
下げた頭を上げて、爆豪くんを見ると眉間に皺を寄せ、舌打ちをした後どこかにいってしまった。てっきり怒鳴られると覚悟していたけど、あれはあれで怖さと申し訳なさがダブルできて辛い。


そうして借り物競争が終わり、お手洗いに行ってから自分のクラスのところへ戻ると男女数名が勢いよく近づいてきた。

「みょうじさん、みょうじさん!お題なんだったの?!」
「俺、めっちゃ気になってたんだよ!」
「爆豪くんと走ったんだよね!」
「お、お題??」
「そうそう!なんだったの!?」

えっと……。言ってもいいのかな…?大したお題ではないけど、爆豪くんに迷惑かからないかな。当の本人は離れたところに座っていて、ここからじゃ聞こえなさそうだからいいか。

「料理が上手な人」

男子生徒限定で。と付け加えると一回静まり返った後、皆が揃えて驚きの声をあげた。

「何で何でなんで!?爆豪って料理上手だっけ?!」
「も、もももしかして二人ってそういう……」
「ちっ、違う!!ほ、ほほら、調理実習の時、凄く手際がいいなって思ったことがあって!」
「……あー、確かに美味かったかも。つーか勝己なんでも出来んもんな」
「う、うん!そうそう!!」

あ、ぶなかった。もちろん料理が上手だと思ったのは家に来てくれた時のことなんだけど。調理実習の時なんて怖くて一回も見たことがない。取り敢えず、家庭科の授業でも手を抜かない爆豪くんに感謝だ。




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