07
お昼休憩を挟んで、次はいよいよ二人三脚。
お昼は皆、家族と食べる。私は父が仕事で来れないため、親が来れない生徒や先生達と一緒に過ごしている。元々来るはずだったけど、急な仕事で来れなくなった父はとても残念がっていた。少しの寂しさはあるけれど、ここにいると先生達がお菓子やご飯を沢山くれるから嬉しかったりする。
しっかりとお腹を満たした後は、リレーと同じくらい盛り上がる二人三脚だ。一年生から三年生の同じ組が一つのチームになって戦い、人数の関係上二グループに分かれて行う種目。最初がA組からC組、次がD組からF組。そして、タイムが速いクラスから順位がつけられ点数がもらえる。
C組は最初のグループだからもう始まっているのだけれど……。
「〜っなにやっとんだ……!クソモブ共が!!」
今走っているのは一年生で他の二組と半周、一周差?くらい遅れをとっている。隣に座っている爆豪くんは掌を上に向け前のめりになり、今にも飛び出していきそうな感じだ。
下の学年から順に走っていくため最初から差を広げられてしまうと縮めるのが大変になる。それに、後からやるグループは私達の走りを見てから行うため目標設定がしやすく有利。そのため最初のグループがやや不利なんだと去年同じクラスの子が言っていた。
朝、一応練習はしたけど全然上手に出来ないし、爆豪くんは苛ついてるしで、個人的にもとても不安だ。
それにしても、雲ひとつない快晴のせいか今日は凄く暑い。肌を露出できないから半袖・半パンの中に通気性の良いインナーを着ているが、暑さにあまり強くないため頭が良く回らない。待ち時間が長い種目だから帽子もちゃんと忘れず被っている。
ふと隣を見ると爆豪くんも結構汗をかいていて、数日前に女の子達が話していたことを思い出した。
「二人三脚の時さ、密着するから相手の汗で濡れた服触るの少し嫌なんだよねぇ。逆にこっちも汗で濡れてる時あって申し訳ないし」
「着替えもそんなないからね。私は匂い気にしちゃうな……。汗臭くないかな、とか。今回ペアの人、結構臭いが強くて」
「ねー。なんで男女ペアでやんなきゃいけないんだろ。別々でいいじゃんね」
ああ、なんで今思い出すんだろう。私は今、かなり汗かいているから不快な思いをさせてしまっているかもしれない。
そういえば爆豪くんに対してそんな風に思ったことないな。汗で濡れている時はあったけど、匂いがきついと感じたことなかった。個性上、他の人に比べて五感が優れているから鼻はいい方だと思う。
彼の汗は少し甘い匂いがした記憶があった。
どんな匂いだったか再度確かめたくて、横から爆豪くんの首に鼻を近づけた瞬間、顔面を手で押さえつけられ投げ飛ばされた。
「ッてっっめェ!!いきなり何すンだ!!!殺すぞ!!!」
「っ!!……わああああ!ごめんなさい!ごめんなさい」
いつもの何倍も目をつり上げて怒鳴る彼に自分がとんでもない事をしたのに気づいた。
何をやっているんだ私は……!これじゃ、変態だ。痴女だ。
「お前やる気あンのか!あ゙あ゙!?マジでぶっ殺す!!」
「………」
ここここ怖い。本気でキレてる。大きな声と怖さに言葉出てこない。
「おいおーい。そんなイチャイチャしてないでくれる?もうすぐ出番じゃない?君ら」
「してねェわ!!!どこをどう見たらそう見えンだ!!」
色んなことに対してパニックで固まっていると、後ろに並んでいた三年生が見兼ねて声をかけてくれた。ごめんなさい、私が変なことしたばかりに。
「ば、ば、爆豪くん、ごめんなさい。次出番だから準備……」
「……チッ」
結局、二人三脚は巻き返して三グループの中では一位をとったもののタイムではD組に負けてしまい、総合では二位という結果になった。
「次、リレーで取り返そうぜ!……なっ!勝己」
「あ゙ァ?!」
「……(すっげぇ顔)」
二人三脚で一位を取れなかったことで爆豪くんは凄い顔になっていた。どうやら予選ではぶっちぎりの一位だったみたいで、そのせいか余計に怒りが倍になっているらしい。多分、私のせいでもある……。
爆豪くん達を見ながら、二人三脚の時のことを思い出していると隣に副委員長がやってきた。
「去年、私達のクラスが合計点数最下位だったからね。それもあって余計今年は気合入ってるのかも、爆豪くん」
全体では三学年の同じ組の合計点数で順位がつけられるけど、それとは別に各クラスの合計点数も何点か体育祭終わりに掲示板に貼り出されるのだ。
「そうなんだ。去年も同じクラスだったんだね」
「そうそう。でもね、私もすっっっごく悔しかったの!!だから今年はね、どのクラスよりも一番点数を取りたいんだよ!残りの種目はリレーしかないけど他の種目より点数高いし、どのクラスよりも練習してきたと思うから」
"絶対一番取ろうね!!"
そう言って顔の前で拳を力強く握る彼女を見て、私も頑張ろうと思った。
しかし、一年の差は大きいもので三年生の中に二年生が二クラス混ざり、計七クラスで行われた本選は厳しく、それでも皆が頑張って現在三位。
そこで、バトンを渡されたのは副委員長。接戦な上に周りは男の先輩が多い。そのせいか数メートル走ったところで誰かとぶつかり転んでしまい、転がったバトンを素早く取って走り出したものの五位に下がってしまった。
「だ、大丈夫!?」
「はぁ、……はぁ…ご、めん。わたしが……」
戻ってきた副委員長の足と腕からは血が流れていて。足元に視線を落とし、呼吸を整えながら悔しそうに唇を噛む姿になんて言葉をかけていいのか分からなかった。
こ、こういう時はなんて声をかければいいの……?なんて言えば正解なんだろう。分からない。どうすればいいか分からない時、いつも考える。お兄ちゃんだったらどうするのか、と。
「と、とりあえず……、消毒してもらいに!!」
「……もう、少しでみょうじちゃんの出番、でしょ?」
「あ。私、出番……」
そうだった。もう少しで出番だ。差は縮まっているけど、今の順位は変わらず五位。横目に副委員長を見ると心配そうに、不安そうに、眺めていた。そうだ、こういう時お兄ちゃんは……
「私、一位で戻ってくる!!!」
不安な人がいると笑顔で根拠のないことを自信満々で言うんだ。
思ってたよりも大きな声が出たから自分でびっくりする。
「……え?」
「……あ、一位は無理かもしれないけど……。二位、くらいでは戻ってくる!!あ、あとは、爆豪くんが抜かしてくれる。……うん、そうだよね!?爆豪くん」
「あ?」
後ろで片膝を付け、自分のクラスの走者に目を向けていた彼に勢いよく問いかけた。そして、私達の方を少し見つめてからこう言った。
「俺ァ、端から一位しか取る気がねえ!つーか、モブ共が何位で戻ってこよーが俺が一番にゴールする事は決まってンだよ」
顎を突き出し上から見下ろすような彼の笑みは苦手な筈なのに、この時はとても心強く、何故か安心した。
「さっさと行け!クソノロマが!!」
「う、うん」
彼が一番で戻ってきやすいように。一人でも多く抜かそう。そう心に決めてバトンを受け取った。
前のクラスメイトのおかげで受け取って直ぐに一人抜かせて四位。半周過ぎたところでまた一人追い抜かすことが出来た。次の二位人まで差がある。これじゃあ、抜かすのは厳しい。爆豪くんに渡す前に二位にならないと……。
「はぁ、…はぁ」
二位の人がバトンを渡し、その少し後に爆豪くんに手渡した。
……抜かせなかった。
「みょうじちゃん!」
ゴールして直ぐに副委員長が駆け寄ってくれたが、あんなふうに言っておいて達成出来なかった申し訳なさから顔が上がらない。
最低でも二位で戻ってこないと距離的に一位の人を追い越すのは難しいと思った。
爆豪くんはどんな状態でも一番になると言っていたけど、長距離ならともなくグランド一周くらいの距離は抜かすには限度がある。走ってみて思ったけど、一位の人との差は大きかった。
「……はや」
副委員長の言葉に顔を上げると、少し目を離した隙に私達のクラスのアンカーはグランドの半周のところに。一位との差はどんどん縮まっていく。
「え?」
そして、ゴール寸前。
《五位からの快進撃!!ゴール寸前で追い抜き!一位は二年C組です!!》
当たり前だと勝ち誇った笑みを浮かべる爆豪くんの元へ皆が駆け寄っていく。
「……本当に一位で戻ってきちゃった」
総合優勝は、C組。最高得点を出したクラスは二年C組という結果で幕を閉じた。
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