08
日曜日。私はラーメン屋に来ていた。

その理由は、"1.5升のチャーハン大食い!!完食した方には、お米30kgをプレゼント!!※個性使用不可 / 個性影響可"である。

買い物帰りにいつも目に入っていた張り紙。体育祭で色々とバタバタしていたから来れなかったけど、終わったら絶対チャレンジしてみようと決めていた。
実をいうと、私は食べる量がとても多い。大食いなのだ。たくさん食べないと体調を崩すとかではないから、普段は皆と同じ量の食事をするけど、たくさん食べれるなら食べたいという感じ。
兄も私と同じ大食いだったから、個性の影響が少し入ってると思う。人並み外れた身体能力は食べ物の量をエネルギーに変えてるんじゃないかと考えているが、食べなくても力は出せるから本当のところはよく分かっていない。でも、前に個性を使いすぎた兄がお腹をとても空かせていた記憶はあった。

そんな訳で大食いな私は、チャーハン大食いと30kgのお米に目を輝かせ、ラーメン屋の前に立っていた。それに、個性の影響で大食いな人も挑戦していいのが珍しい。こういうのは個性の使用、影響による大食いの人は禁止されることが多いから。嬉しさのあまりつい、じぃーっと張り紙を見つめてしまう。すると、聞き慣れた声が耳に届いた。

「突っ立ってるだけなら退け。邪魔だ」
「……あ」

振り向くとそこには私服姿の爆豪くんがいた。私の横を通り過ぎ、中に入って行こうとする彼の手を咄嗟に掴む。

「辛いものはお好きですか?!」
「……は?」




二人用のテーブル席。目の前には眉間に皺を寄せた爆豪くん。どうしてこうなったかというと、すべて私が悪い。いつも勢いのまま発言してしまうのは私の悪い癖。

実は、チャーハンの大食いの他にもう一つ挑戦するものがあった。"ペアで挑戦!!1.5升のチャーハン・激激激辛ラーメン10分で完食した方には、お米30kg +自家製餃子二十人前プレゼント!!"というもの。

このお店の人気メニューは辛いラーメンで、そういったメニューが多い。だから、ここに来る人は辛いものが好きだという偏見と、爆豪くんの見た目で辛いのが得意だと思い、勢いのまま頼んでしまった。ここは餃子も美味しいと有名なのだ。
最初は「ンで俺がてめェの言うこと聞かなきゃならねぇんだよ!」と言っていたが、店長の「まだ一人も完食できた人がいない」の言葉に火がついたらしく、一緒に食べることになった。けれど、自分の食い意地の悪さに恥ずかしさと申し訳なさでいっぱいである。

「お前、食えんのかよ」
「う、うん。食べられる」
「俺は払わねーかんな」
「……うん」

は、恥ずかしい。普通食べれないよね、あんな量。大食いデブって言われそう。ちなみに、全て完食すればお代は無料。食べられなければ、全額負担だ。

爆豪くんの方を見れなくて下を向いてから数分後、チャーハンが届いた。見た感じあまり量が入っていなくて不思議に思ったけれど、どうやら数回に分けて出てくるみたい。

「こっちは時間制限ないけど、どんどん作って持ってくるから冷めないうちに食べた方がいいですよ!」
「わかりました、ありがとうございます」

店員さんに頭を下げてから、いただきますと手を合わせ、爆豪くんにも「お先にいただきます」を言う。それに返事はなく、ただずっとこちらを見られて食べづらい。しかし、早く食べないと彼を待たせてしまうから、ぱくりと口に運ぶ。

「あ……おいしい」

本当に美味しい。ここのラーメン屋のチャーハンを初めて食べたけど、凄く美味しい。それに私の好みの味だ。幸せを感じ、つい笑顔になって、そのまま爆豪くんに話しかけた。

「美味しいよ、爆豪くん!!食べてみる?」
「馬鹿かてめェは。俺が食ったら失格になんだろーが」
「そうだった」

ドストライクの味だったため、つい爆豪くんにも食べてもらおうと提案してしまえば、白い目で見られた。まだ自分の激激激辛ラーメンがこない爆豪くんはポケットからスマホを取り出しいじり始める。私が丁度1升くらい食べ終わったところでラーメンが届いた。

その時、爆豪くんはスマホから目を離し、私の食べる姿を見ては最初と変わらないスピードで食べていることに、マジかよ……とでも言いたそうな顔をした。

「はい、こちら激激激辛ラーメンです!合図するから、そしたら食べ始めてください」

そう言って出てきたラーメンは食べても大丈夫か心配になる程の色味。色もそうだけだけど、匂いだけで辛さが伝わってくる。

「ぅ、……ごほっっ」
「てめっ、汚ねええ!!出すな!!!」
「ご、ごめん。本当に、ごめんなさい」

匂いが凄く辛くて噎せてしまい、口の中のチャーハンが少し溢れた。辛いものが苦手な私にこの匂いはきつい。よく食べれるなぁ。爆豪くん将来、痔とか病気にならないか心配になる。あっ、……とても失礼なことを考えてしまった。

店員さんの合図の後、爆豪くんは勢いよく食べ始めた。
一口目、勢いが良かったせいか盛大に噎せていたけど、その後からは物凄いスピードで6分弱で汁まで飲み干し完食。凄い……。いつも通りの笑みを浮かべている爆豪くんは、顔からは大量の汗が流れている。私も早く完食しないとと思い、残りのチャーハンを掻き込んだ。


そして、1.5升のチャーハンと激激激辛ラーメンを完食し、お米と餃子を貰えた。何人か挑戦する人はいたらしいけど、完食できたのは私達が初めてで店長さんはとても喜んでいた。同じ味のものをあんなに美味しそうに食べてくれたのが嬉しいとか。爆豪くんにはどこのお店よりも辛く作った自信があったから悔しい、来年はもっと辛いものを作ると気合を入れていた。

お米は後日後に届けてくれるらしく、今日は二十人前の餃子を貰った。

「お米届いたら、爆豪くんのお家に持っていってもいい?」
「いらねぇ」
「え?いらないの?」

そう言って餃子も持たず帰ろうとする。

「あ、待って!これ餃子!!」
「いらねぇ」
「でも、食べたの爆豪くんだし!」
「こんな食えねェわ!!」
「あ、じゃあ、これ五人前ずつ分けて入ってるから半分こ……」
「……」

五人前が入っている容器を二つ袋から出し、袋の方を差し出す。十人前もいらないのかな…。何人家族なんだろう。ぐるぐる頭の中で考えていれば、難しい顔をした爆豪くんは袋に入っていない二つ内の一つを取った。

「あ、ありがとう。一緒に食べてくれて」

そうして、彼は振り向くことなく片方の手をポケットに入れたまま帰って行く。
その後ろ姿を見送りながら、今日は良い一日を過ごすことが出来たなぁ、と笑みが溢れた。

「……あれ?」

私、爆豪くんのこと苦手じゃなくなった…?




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