合宿スタート
森然高校。
今日から一週間、合宿を行う高校に到着した。
「…っうえぇぇ」
「!!」
「みょうじ!大丈夫か?!」
ただいま、みょうじなまえ。吐きそうです。
「だ、大丈夫…です」
「だからバスの中で本読むなって言ったのに」
「…う」
「夜久が持ってきた酔い止めは飲んだんでしょ?」
「はい」
夜久先輩が背中をさすってくれ、福永くんが私の鞄から飲み物を渡してくれた。海さまが言ってた酔い止めは出発前、私がバス酔いすると思った夜久先輩が持ってきて渡してくれたのだ。わざわざ持ってきてくれた先輩に黒尾先輩は、母ちゃんかと突っ込んでいた。
薬を飲んだため、安心して隣に座っている孤爪くんのゲームを覗き込んだり、バレー本を読んでいたのが失敗だったと後悔する。
「へいへいへーい!こないだ振りだなー!」
「おはようございます。……木兎さん、これ忘れてます」
「おー、はよー。相変わらず、朝から元気だな」
体育館に入り、荷物を置いたところで先に来ていた他校の人が声をかけてきた。梟谷学園らしい。うわーふたり共、黒尾先輩と同じくらい大きい。
「あ。そうだ、みょうじちゃん、みょうじちゃん」
「「?」」
ぼけっとその人達の方を見ていたら、黒尾先輩が振り返って手招きした。呼ばれるままそっちに向かうと、そのふたりに紹介する。
「今回の合宿だけ手伝ってもらうことになった臨時のマネージャーなんだけど、色々とよろしく頼むかもしれない」
「!!みょうじなまえです!よろしくお願いします!!」
「おおっ!音駒にもついにマネージャーが!!俺は木兎光太郎!よろしくな!!」
「(……色々と頼む?)赤葦京治です。よろしくお願いします」
「臨時ってことは、誰かと友達なのか?」
「はい!孤爪くんと親友です!!」
「おおお!孤爪と!?」
凄くオーバーリアクションをする木兎さんとそれを冷たい目?で見る赤葦さん。いや、いつもこういう目なのかもしれない。それにしても、木兎さんの髪はセットしてるのかな?それとも寝癖なのか、凄く気になる…!
「そっちのマネージャーっている?この子、まだ二回くらいしかやったことねぇんだわ。俺らも手伝うけど、マネージャーと一緒の方が心強いと思ってさ」
「それなら…」
「おっいたいた!!ゆきっぺー!!雀田ー!!」
自分の高校のマネージャーを見つけ大きな声で呼ぶ木兎さん。って、その前に!黒尾先輩の優しさ、気遣い、それにこの子って…!!相変わらず、イケメン!!先輩が他校の人と話してるというのもあって、いつもの数倍私の心には刺さり、そのせいか急な吐き気に襲われた。
「……うっ」
「え、大丈夫ですか?」
思わず手で口を覆うと、それに気づいた赤葦さんが心配そうに声をかけてくれた。
「もしかして、まだ治ってねぇの?」
さっきのバス酔いのことを知っている黒尾先輩は私の顔を覗き込み、そのことを聞いてくる。でも、これは違う。
「これは……つわり、かもしれません…!」
「は?」
「え。そのネタまだやんの?」
口元と胸をぎゅっと押さえる私に、顔は変わらず無表情のまま間抜けな声を出す赤葦さんと、また始まったとでも言いたそうに苦笑いをする黒尾先輩。
「???…つわり??なんのこと?赤葦」
「はーい、スルーでいいからね。気にしなーい。流してー」
「だそうです。空耳でしょう、木兎さん」
「えーめっちゃ気に…「呼んだ〜?木兎〜」おー!ゆきっぺ!」
丁度良いタイミングでマネージャー達が来て、木兎の気は逸れたみたいだ。この一瞬のやりとりと、自分達のマネージャー2人に挨拶が終わった後「美女、かわいい、素敵っ!!」と目を輝かせているみょうじの姿に、赤葦はさっき黒尾が言った"色々と頼む"の意味を理解した。そして、同時に嫌な予感がした。
木兎さんに似ている。本能が警告しているような気がした。
梟谷学園の雪絵さんとかおりさんに案内してもらい、仕事を進めることができた。その間、他の高校のマネージャーの方達にも会うことが出来て、お話しした。それにしても、みんな可愛い。え、あれ?マネージャーは可愛くないと出来ない仕事なのか?!
3年生が多く、違う学年で他校の知り合い、しかも県外とか!そういうのは部活をやったいないとなかなか出来ない。1週間しか一緒に入れないのが少し寂しくなる。まだ、あって数分しか経ってないけどねっ!!
ちなみに、黒尾先輩から部活中に先輩のことを忘れなくていいと言われた。気を遣わないでいつも通りでいいらしい。逆に夜久先輩とかは普段通りじゃない私の方が気になると言われたから、普段通り我慢しない方向でいくことにした。私の頭が下心満載なのは、最初から皆、承知の上だということだ。
「あ!いたいた!みょうじさぁーーん!」
「なにー?」
「烏野が来たらしいんですけど、みょうじさんも行きません?日向に会いたいって言ってたじゃないですか!みんなもう行ってますよ!」
「…日向??あ!翔陽くん!?いくいく!!」
ある程度、準備が終わった時、リエーフが遠くから声をかけてきた。どうやら翔陽くんたちが来たらしい。うわあああ。ずっと気になってた噂の翔陽くん。
「もしかして、私のこと呼びに来てくれたの?嬉しい!!優しい!イケメン!!」
「アザッスー!!」
まるで、芸能人にでも会いに行く勢いでリエーフの後を追った。
「…ちょ…まって…!速い…、走るの、速い」
「みょうじさん。遅過ぎて、びっくりです」
「そんな…マジ顔やめて、」
2m近い身長の走りについて行けるわけもなく、階段の上でそんなやりとりをしていたら、リエーフが目的の相手を見つけたみたく、走って降りていった。
「……日向ー!!身長伸びたかー!?」
「リエーフ。うるさい」
「第一声から失礼だな。たった2週間で伸びるか!!」
「俺は2mm伸びたぞ!」
「ガーン」
「って、みょうじさーーん!!まだそんなところにいるんですか!!早くきてくださいよ!」
日向を見つけ、思わず走ってしまったリエーフだがみょうじの存在を思い出し階段の方を見上げると、まだ半分しか降りていないのが見えた。初めて聞く名前に日向は首を傾げる。
「??みょうじさん…?」
「今回の合宿だけマネージャーをやってくれる研磨さんの親友!」
「え…親友では、ないけど」
「研磨の親友!?」
日向は勢いよく研磨の方を見て目を輝かせる。その後ろで3人のやりとりを聞いていた他の烏野のメンバーは少し驚いていた。
「臨時のマネージャー?」
「ああ。この一週間だけな。烏野にも迷惑かけるかもしんねえから、先に謝っとくわ。ごめん」
「え。どんな子なんだよ」
主将ふたりの会話を後ろで聞いていた田中は空を仰ぎ心の中で、虎よ良かったなと涙ぐんでいた。
そして、その音駒の臨時マネージャーは…
「あああああああああーー!あなたが翔陽くん?わあ!はじめまして!私、みょうじなまえです!孤爪くんといつも連絡取ってるんだよね?会いたかったのー!!宮城から来てるんでしょ?私、行ったことないの!向こう何時に出てきたの?こんな早く来ると思わなかった!あ!好きな食べ物とかある?最近ね〜好きな食べ物聞くのがマイブームでねぇ〜」
「は、ははははははい!!!(ち、ちちちちち近い…!)」
「会いたかったんだー!嬉しいなぁ。あとね…うぇっっ」
「みょうじ。うるさい。翔陽が可哀想」
本当に哀れんだ目をしながら、みょうじの襟元を後ろから引っ張る研磨。
「…元気、だな」
「元気っつーかなんていうか…。おたくのチビチャン大丈夫?」
「日向はいつもあんな感じだから、大丈夫…だと思う」
「悪いね。おーい、みょうじちゃん。ちょっと」
研磨に引っ張られるみょうじを呼ぶと、更に顔がぱあっと明るくなり黒尾の方へ小走りでやってくる。それを見ていた烏野のメンバーはまた驚いた。
「はい!なんですか?」
「こっち烏野の主将ね」
「はっ!!挨拶が遅れてすみません!2年3組!みょうじなまえと申します!よろしくお願いします!」
「そんな、大丈夫だよ。主将の澤村大地です。よろしくね」
「俺は菅原孝支です。よろしく!」
「よろしくお願いします!爽やか…!泣きぼくろが素敵…!」
澤村とその隣にいた菅原も爽やかに挨拶をする。その爽やかさにより眩しそうに手でガードを作った。
マネージャーということで、澤村は烏野のマネージャー、清水を呼び2人のマネージャーと挨拶を交わした。
「まっ!?か、かわいい系と美人系…!?」
いつかの山本と同じ反応をするみょうじにそれを知っている面々は苦笑いをする。
「ウチのマネージャーが迷惑かけるかもしれないけど、どうかよろしく頼むよ」
梟谷と同じように黒尾はマネージャー2人にも声をかけた。清水はコクリと頷き、谷地はわ、私の方がご迷惑を…!とあたふたし出した。
「う、ウチの…!?それって…結婚している人が言う台詞じゃないですか…!?」
妻みたい!とまた胸に手を当ててその場にしゃがみ込むみょうじをスルーして歩き出す黒尾。心配そうに見つめる澤村に、いつもだからと説明する。しかし、東峰は放っておけなく、覗き込むように声をかけた。
「だ、大丈夫…?」
「え…、え。…きゃああああああああ」
「うわああああああああ」
心配で声をかけたが、みょうじの悲鳴に東峰が驚き、声を上げた。それにいち早く気づいた澤村が怒鳴る。
「コラァ!!他校のマネ怖がらせるな!」
「ご、ごめんね…お、驚かせるつもりは…「…佐藤先輩?」…え?あ、俺は東峰旭っていいます」
佐藤先輩。それはみょうじが黒尾の前に好きだった先輩の名前。
「あ、すみません!!東峰さん!!かっこよすぎて、イケメンすぎて、その雰囲気がギャップがタイプで思わず奇声を上げてしまいました!」
「え?……え?」
いつもと違う反応に動揺しているのは本人だけでなく、ほぼ全員がそうでただひとり、それを聞いた瞬間自慢げにみょうじに話しかけた。
「だろ?旭さんはかっけぇんだ!一目で分かるなんて、なかなかやるなあ!」
「うわあ!本当ですか?!」
「おう!」
「何で西谷が自慢すんだよ」
嬉しそうに話す西谷に縁下が呆れたように言った。