爆発まであと…

早くお風呂入りたい、寝たい、暑い、疲れた。さっきから隣で背を丸め、呪文のようにつらつら吐き捨てる孤爪くんはお疲れのようだ。あの暑さであんなに動いてたらそうなるのも納得。動いてなくても辛いもの。

それでもバレー好きの体力おばけ達は、今日もまた練習終わりに自主練をする。まずはご飯をと食堂へ向かう孤爪くんの元にバレー好きの体力おばけのひとり、翔陽くんが勢いよく走ってきた。

「研磨ぁぁー!トス上げてくれー!」

その言葉に孤爪くんは「え」と嫌な顔をする。

「研磨のトス打ってみたい!」
「えー」
「ちょっとだけ!」

目をキラキラさせる翔陽くんに渋々、ちょっとだけだよとトスを上げることになった。孤爪くんのトスを翔陽くんが打つの!?私、あげる!ボールを出すジェスチャーをすると、翔陽くんはお願いしますっ!と元気よく返してくれた。



5本で終わりを告げた孤爪くんにお礼を言って、翔陽くんは空中でブロックとひとりで戦うことが出来るようにするため第3体育館に向かった。
走っていく翔陽くんについてけるわけもなく、「気にせず、先に行って〜」と言い、のんびり歩く。すると、また後ろから走ってくる足音が聞こえ、私の横を通り過ぎた。あれ?リエーフ??

リエーフも目的の場所は同じだったらしく、既に体育館の中にいた。ネットを挟み3対3に分かれていて、今日はゲームをすると赤葦くんが教えてくれたので、得点係をすることになった。

「…あの。コレ…すげえバランス悪くないスか…」
「いーじゃねーか!昼間やれない事やろーぜ!」

昼間……。

やれないこと…だと!?!?

「昼間、やれないこと…ってなんですかぁぁぁ!?」

手で顔を隠し指の隙間から黒尾先輩を見ると、先輩はこっちに目を向け少し黙った後、得点板の横に立っている私の方へやって来た。え…な、何事!?ていうか、やっぱり先輩いつもと違う!前はもっと、こう…こういう時はニヤニヤしてたような。やっぱり私、知らず知らずの内に、何か気に触るようなことをしていたのかもしれない!!

目の前まで来た黒尾先輩は腰に手を当てて、顔を近づけるために上体を少し屈ませて言った。

「なに。知りたいの?昼間できないこと」
「〜っ!!」

初めて見る意地悪く笑う先輩に心臓が破裂しそうになり、用意した得点板を盾にしその場に力無くしゃがみ込んでしまう。


「いつもああなの…あの人達」
「ん?あー!あのふたりはいつもあんな感じ!!」
「……」
「あれは見慣れるしかないね」

月島の冷たい目にリエーフは気にせず答えた。そんな年下組に、気にしないのが一番と言う赤葦だが一番無視できなさそうな木兎、日向は3対3をやれることに興奮していてこちらに気付いていない様子だった。



コートに6人いなくても試合形式の練習は面白い。時間を忘れていた私達は、雪絵さん達が来て晩ごはんおあずけになると言われ自主練を終わりにした。が、皆が体育館を出ようとする中、翔陽くんはまだやりたいのか悔しそうな表情をする。それに気づいた黒尾先輩は声をかけた。

「チビちゃん。続きは明日、ね?」

その言葉を聞いて、翔陽くんは顔をぱあっと明るくし元気よく返事をした。

なに…今の。翔陽くんが悔しそうにしてたのに気づいて声をかけるのも、明日やると約束するのも優しい声も全て!好きだ!続きは明日って…なんですか?!私も言われてみたい!!
そんなことをぐるぐる考えながら、胸のトキメキを抑え体育館を出る。先輩に何度目かわからない惚れ直しに足がふらついたせいか、出入り口の段差に躓き転んだ。

「うわっ!」
「え!?みょうじさん、大丈夫ですか?!」
「大丈夫か?」
「……はい!大丈夫でした!」

何とか地面に手を付いて怪我はしなかったが、前を歩いていた翔陽くんと黒尾先輩が同時に振り向き、手を差し出してくれた。黒尾先輩に気づいた翔陽くんはスッと出した手を引っ込めようとしたが、今の私が先輩に触れたら蒸発する。そう思って、お礼を言い翔陽くんの手をお借りすることにした。

「え…?」
「……」




合宿4日目。

「木葉さぁーん!木葉さーん!!……器用貧乏さぁーん!」
「器用貧乏は褒め言葉じゃねぇからな!」
「え!?」
「え!?、じゃねぇ。ったく、ほら。持ってきたか?」
「はいっ!!」

木葉さんの手のひらにヘアゴムを置く。昨日と同様、髪を結んでくれると言ってくれた。どんな風にしてくれるか楽しみだ!!わくわく、そわそわしていると頭を動かさない!とお叱りを受けた。

「よし、出来た」
「早い!!ありがとうございます!見てきていいですか?!見てきても!!」
「おー行ってこい」
「はい!ありがとうございます!!」

手元に鏡が無いため、トイレに向かう。どんな感じなのかな!!楽しみだ!



嬉しそうに走っていくみょうじの後ろ姿に木葉の顔は緩む。それを見ていた他の3年達はニヤニヤしながらやって来た。

「おうおう、世話焼かないんじゃなかったのかい?」
「……そうだったんだけどよ。なんつーか、親戚の子に似てんだよ」
「木葉によく懐いてるっていうあの子か。毎回髪を結んでやるって言ってたもんな」
「ちなみに、その子何歳なの?」
「……4歳」






木葉さんにアレンジしてもらい、今日も1日頑張れる!と意気込んだが、体はいうことを聞いてくれない。4日目の昼。午後から使う干していたギブスを取り込み、部員達に届けようとしたところで充電切れ。少し休憩してもいいかな…。まだ午後の練習が始まるまで時間がある。人目がつかない日陰に座り込んだ。
マネージャーってこんなに大変なんだ。仕事も多いし、バイトをやっているからといって関係ない。バイトは室内で冷房がかかっていて、泊まり込みでもない。でも後3日かぁなんてぼんやり考えると途端に眠気に襲われた。



練習が始まる前にトイレへ行き戻ってきたその帰りに、ふとみょうじが居ないことに気付いた黒尾はその人物を探していた。

どこかで倒れたりしてねえよな…。

意外にもみょうじちゃんは人が好きなせいか、他人の性格や変化そういったものに鋭い気がする。故に、自分のこととなると途端に鈍くなる。だから、今回も体調を崩して何処かで倒れたりなんかは、と考えると焦る。誰とでも仲良くなれるし、本人も本気で楽しんでいるのがわかるが、知らない土地で多くの知らない人達に囲まれて仕事も慣れていない。ストレスが溜まらないはずがないのだ。

キョロキョロと辺りを見渡すと、下を俯き座っているみょうじちゃんの姿が。

「!!みょうじちゃん?どうした、具合わ、……寝てんのかーい」

具合でも悪いのかと近寄ったが、スヤスヤと寝息を立てていた。4日目。疲れていないはずがない。かくかく、左に頭が傾くみょうじちゃんに研磨の左しか倒れないと言っていたのを思い出し、ふっと笑い隣に座って肩を貸した。
みょうじちゃんに触れたのはいつ振りか。合宿が始まってから何故か避けられる…ていうか、触らせてくれない。なのに、他の奴らには無防備に触らせるし。モヤモヤする。ん?触らせてくれないって、何エロオヤジみたいなこと言ってんだ、俺は。しかもモヤモヤとか、嫉妬みたいなこと…。ああ…嫉妬か、これ。自分の考えにひとつため息を零した。

俺、みょうじちゃんに避けられるようなこと何かしたか…?




赤葦は見てしまった。少し離れた場所で寝ているみょうじと肩を貸す黒尾を。黒尾にバレない内に去ろうと決めた赤葦は隣に人がいたのに気づかなかった。

「!?……孤爪か」

隣にいたのは猫背でダルそうに2人を見ていた研磨。

「どこかで干からびてるかと思ったけど、大丈夫そう」

そう言う研磨の表情はさっきより少し穏やかになっていて。手にはわざわざ持ってきたのかみょうじの水筒があった。それら全ての言動に、あの孤爪がと驚愕する。みょうじが初日言っていた親友というのは本当のことなのかと思う。

「孤爪ってそういうのしなさそうなのに。意外…」

そういうの、とは今みたいな行動の他に黒尾とみょうじをくっつけさせるようなことも含まれている。そのことも気づいた研磨は眉を顰めた後、視線だけを赤葦に向け、また黒尾達へと戻す。

「……クロとみょうじのことは嫌いじゃないから…。だから、そんな2人がいい感じになればいいと思う」

バツが悪そうな顔をしてその場を離れる研磨に、「やっぱり、意外」と研磨の新たな一面を知れて嬉しそうに笑う赤葦だった。





「っは!!」

寝てしまった!あれ?私、寝てた!?うわ、今何時!?此処はどこ?私はだれだ?!

混乱していたが、日が落ちていないことと体育館から何も聞こえないことに、まだ昼休みかと考える。体育館裏の壁に寄りかかって寝てしまったと肩を落とした時、隣から私の大好きな匂いが。これは…もしや!?

「き、やあああああああ!!」

壊れたロボットのような動きで横を見ると、そこには黒尾先輩がいた。ち、ちか!?近い!!瞬時に、後ろへ頭から下がろうとした。

「っと。危ねえって」

また打つけるぞ、なんて言う先輩は私の後頭部を片手で支え、打つけないようにもう片方の手を壁に付けている。目の前には先輩の首があって。まって。耐えられない。エロッ!?…はっ!!これ…もしや!?壁ドン…!?

「うわあああああああああああ!!すみません、すんまへん!」
「は?…ちょ、」
「ありがとうございます!失礼致しまする」
「……」

先輩を押し除け駆け足で去った。びっくりときゅんと色んな感情が合わさって、とても失礼な事をしてしまった。後で謝ろう。そうしよう。取り敢えず、合宿が終わってから。今は先輩を直視したら溶ける。