いつまでも

カメイアリーナ仙台(旧仙台市体育館)


「着いたー!」

東京からここまで、始めてくる場所にひとりで辿り着けたのは大きな成長。今までの私とは違う。もう23歳なのだから!

「もしもし?孤爪くん孤爪くん!」
『……なに』
「無事着きました!」
『そう。良かったじゃん』

入り口付近にあるとびとび達が写っているものを写真に収めてから親友へと連絡を入れる。

「翔陽くんのサイン貰ってくるね!」
『うん、よろしく』
「木兎さんのも!」
『ん』
「鉄朗くんのも貰ってくるね!」
『えー、それはいらないんだけど』

皆にサイン貰えるかな。それも楽しみだけど試合はもっと楽しみだとわくわくする。今日はここに鉄朗くんも来ている。体育館内のどこかしらに仕事中の鉄朗くんスーツverがいるってことでしょう!?どうしよう…。今日もかっこいい…!!




「カルーアミルクをバカにする人間とも飲まない」
「私もカルーアミルク好きだよ!」
「!?」

美味しいよね。と背後から声をかける私にその大きな肩を跳ねて驚くのはツッキー。中に入って自分の席を探し、やっと辿り着いたそこには烏野の子達がいた。

「わわっ!なまえ先輩、お久しぶりですっ!!」
「!お久しぶりです…!」
「わー!仁花ちゃん、グッチー!お久しぶりー!元気だった?」
「はい!」
「ツッキーもお久しぶり!」
「お久しぶりです」

烏野メンバーはいると思っていたけど、まさかこんな直ぐに会えると思っていなかった。しかも、席が近い。というか、ツッキーの隣!!

「これは運命だね!」
「……え。隣ですか?」
「うん!」
「あ!じゃあ一緒に観れるんですね!嬉しいです」
「私も嬉しい!!」

へへ、ひとりで観るつもりだったから仲が良い子と隣になれて余計テンションが上がる。ふとグッチーの手に持っている袋から美味しそうな匂いがして聞いてみるとその正体はおにぎりと玉こんだった。

まさかそのおにぎりは宮治さんのおにぎり宮!?赤葦くんから美味しいとオススメされたのを覚えてる。今日来てるんだ!食べたいな、玉こんも食べたい…。そうと決まれば即行動。試合が始まる前に行かねば、と急いで目的の場所へと向かう。



「んーーっ…祭りじゃあーーーっ」

その道中。聞き覚えのある声が、言葉が、耳に届いた。

「!?…スガさんっ!!」
「?おっ、なまえちゃんじゃん!」

久しぶりー!元気してたかー?と手を振るスガさん、そして大地さんと旭さんの元へ近寄ると、私の前に拳を突き出したスガさんが「アイ」と言った。

「?」
「アイ、アイ」
「!!あい、あい!」
「アーーイ」
「アーーイ!!」

パリピっぽい挨拶に合わせて見様見真似で手を動かすと大地さんから一言「やめなさい」のお言葉をいただく。懐かしい…!懐かしいな、この感じ。

「大地さん、旭さんもお久しぶりです!」
「久しぶりだね。元気してた?」
「は、はいっ!元気すぎっっ…ぅ、」
「?」
「あ、旭さんが、眼鏡をっ…イケメンに磨きがッ!ぅ、けっこ………ぐっぅ」

久しぶりに見た旭さんの雰囲気は少し変わっていて急なイケイケ姿に目が眩む。思わず求婚してしまいそうになるも私には大事な人がいるんだとグッと堪えた。

「あはは、なまえちゃん相変わらずだね」
「最後まで言わずに堪えたのは前とは違うな」
「だってなまえちゃんにはイケメンな彼氏がいるもんなあ」
「はい!!イケメンな彼氏!いますっ!!」

スガさんの言葉に勢い良く返事をすると「元気!」と言って爽やかな笑顔を向けられる。うっ、眩しい…!サ、サングラスは、どこ?!

「毎日イケメン度が更新されて私はっ、私は…!」
「毎日ってことは…、同棲してる?」
「はい!」

今度は大地さんの質問に勢い良く答えると「ははっ、まあ…だよな。長いもんな」なんて遠い目をしていた。隣にいる旭さんまで「つい昨日って感じだけどそうじゃなかった」と烏野の主将さんと同じ目をする。

もう少しお話ししたい。けれど、時間ももうないため名残惜しくも3年生方とはお別れしてその場を去った。





「あれ?…なまえちゃん?」

綺麗な透き通った声。女神がいる気配がして名前を呼ばれた方へと振り返るとそこにはやはり女神がいた。そして、その横には…

「潔子さん!龍之介!」
「おー!みょうじじゃねーか!」

龍之介の姿も。久しぶりの再会を果たし、ふたりが並んでいることに頬が緩む。

「ご結婚、おめでとうございますっ!!」
「ありがとう」
「おう、ありがとな!」

お似合いすぎる〜!潔子さんと龍之介。新婚さん。きゃぁぁぁ!素敵な響き。

「ウッ…後にも先にもみょうじだけだったからな……お似合いと言ってくれたのは…ゥッ」
「赤い糸が見えたからね!!」

なんて調子の良いことを言ってしまう。ウッ…と涙を拭ってから拳を差し出され、コツンとそこに自分のを当てる。

「なまえちゃんももう長いよね。6年だっけ?」
「はい!夏あたりから一緒に住んでいて!!もう秒単位で好きが溢れて大変です」
「そういうとこ変わんねぇな」
「うん、かっこいいの…!毎日熱い夜を過ごしてるの…」
「今それ言われると反応しづれーからやめろ」
「そっかあ。ふふ、幸せそうで良かった」

そう言って歯を見せて笑う潔子さんは高校の時とはほんの少し雰囲気が変わっていた。大人になれば変わるものだと思うけど、きっと龍之介が隣にいるのが大きいのかな、なんて勝手に想像した。

「はっ!?おにぎり!玉こん!!」

早く買いに行かねば…!ハッと思い出し、素敵な夫婦に挨拶をして今度こそご馳走を求め駆けた。





「まいどー…およっ」
「こんにちは!」
「君、飴の!ドッペルゲンガーの!」
「わっ、覚えてて!!あの時はごめんなさい」

宮と印刷されたTシャツに帽子。銀髪から黒髪へと変わっていた宮治さんは高校時代とはまた違った色気を出していた。筋肉…?筋肉のつき方が違う…?スポーツ選手とはまた違った力仕事をしている人のつき方。大人の色気…。

「おにぎり凄く美味しそうです!!」
「フッフ、ウチの米は北さんが作ってくれてんやで」
「北さん!?」

懐かしい名前に背筋が伸びた。北さん、と聞くだけでしっかりしなくては!の気持ちになる。北さんがお米を作って、宮治さんがおにぎりにする。それを皆が食べる。今バレーボール選手として活躍している宮侑さんの体に入り筋肉になるんだ。繋がっている。なんか、凄い。二年連続で戦った烏野と稲荷崎との試合を思い出しながら時の流れを感じた。
それと、音駒のマネージャーとして何でも繋がりとして考えてしまうのは仕方がないことだと諦めている。

「これ食べたら、ちゃんとしないとです!!」
「せやな」

まいど、と袋に入れられたおにぎりを受け取りお辞儀をしてから玉こんも購入し、席に戻った。




「間に合った…!」
「…ひとりで買いに行けたんですね」
「うん!迷わなかった!」

ツッキーの隣に腰を下ろし一息吐くと同時にあるものが目に入る。

「ん?んんんん?」
「……」
「!…あそこにいるの黒尾先輩じゃない!?」
「…どこですか」
「あそこ!」
「髪しか見えないですけど」

きゃぁぁあ!スーツ!スーツ着てるっ!かっこいい!「普段見てるんじゃないんですか」というツッキーの問いに首を縦に振りながら、両頬を手で包み込んで小さな声量で叫ぶ。高校の時もこんなやりとりを孤爪くんとした気がするなぁ。なんだかツッキーと孤爪くんは似ているところがある、と無意識に視線を送った。

「なんですか」
「んーん。孤爪くんにも同じ反応されなあって思って!」
「…あの人、結構顔に出ますよね」
「うん、孤爪くんは表情豊かだよー!」
「豊か、ではないと思います」

懐かしいなぁ。高校で出会った子達とお話をすると昔に戻った気持ちになる。その頃を思い出しニヤニヤしていると会場の照明が消え、アナウンスが流れた。そして、あっという間に選手入場。

「うおーっっ」
「影山ーッ!!」
「とびとびー!!」
「フン」

入場する選手達に視線を移し、仁花ちゃん達と一緒に叫ぶ。それから、木兎さんの登場で会場は笑いに包まれた後、翔陽くんが現れた。

「翔陽くんだ!翔陽くんだっ!翔陽くんだよっ!!」
「ちょっ、と…揺らさないで、ください」

ツッキーの片腕を両手で掴み、興奮しながら勢い良く揺らし続ける。それから公式練習をした後、とびとびのサーブで試合が開始した。






そして、セットカウント3-1。勝者 MSBY BLACK JACKAL。

「終わっちゃったなあ」
「うん」
「何言ってんの。シーズン入ったばっかなんだけど」
「「!」」

試合終了後。歓声、拍手の中、ポツリと呟いた仁花ちゃんとグッチーにツッキーがそう言いそれに目を丸くする私達は次第に顔が緩んでいく。

「だよね!ツッキーの試合も楽しみだなー!」
「応援とか大丈夫なんで」
「行きます、大丈夫です!」
「いえ、大丈夫です」
「こちらこそ、大丈夫です!」

そんな3人のやりとりに思わず声を漏らしてしまった。

「ふふっ」
「……」
「私も黒尾先輩と行くね!!」
「いえ、大丈夫です」
「こちらこそ!大丈夫です!」
「ていうか、何でその呼び方なんですか?付き合ってんでしょう」

何故、黒尾先輩呼びなのか。鉄朗くんと付き合っていることを知っている他のふたりも不思議そうにこちらを見つめる。意識しているわけではないけど、高校時代の子の前だと、特にバレー部関係の前では無意識にこの呼び方になってしまう。もしかしたら、知らず知らずのうちに照れがあるのかもしれない。






「みょうじさんっ!お久しぶりです!」
「翔陽くん、凄かった!凄かったよぉぉ!」

鉄朗くんと話し終えた翔陽くんと目が合い思わず涙腺が緩くなる。私は烏野のマネージャーではなかったけど、それでも日向選手として、今の試合を見て心にくるものがあった。

「サインお願いします!」
「!!はい!」
「孤爪くんの分もいいですか!」
「研磨の分!!はい!」

私は今、翔陽くんにサインを貰ってる…!とそわそわ落ち着かない様子でいると慣れた手つきで色紙にペンを滑らし、翔陽くんらしい可愛いサインを書いてくれた。
その後、とびとび、佐久早くん、宮侑さんにも貰いに行き、最後木兎さんにお願いした。

「みょうじちゃんだ!」

大きな声で叫ぶ木兎さんは太陽のようなキラキラの笑顔で。眩しい…!と目を隠すように顔の前で手をクロスさせる。「久しぶり!」そう言って頭をぐりぐり撫でられ懐かしさを感じ、サインを書いてもらった色紙を受け取った後、木兎さんの二度目の叫びと共に腕を引かれた。

「あっ!黒尾とサームラがいる!!みょうじちゃんも行こっ!!」
「え、わっ!」

凄い力で引っ張られ、流石スポーツ選手!!と感心している内にかつての梟谷グループ主将組が三校揃っているところに連れていかれ、高校生に戻ったかのように、あの頃と同じ顔をして盛り上がる主将達を眺める。

「おっ、いっぱい貰ったな。サイン」
「うん!実は鉄朗くんのもいただきました!」
「俺のも貰ってくれたの?」
「うん!」

ありがとな〜。そうお礼を言ってからポンポンっと頭に手を置かれ、その温かみが気持ち良く、目を細める。

「カップルだ」
「カップルだ」

大地さん、木兎さんと続けて同じことを言われ、鉄朗くんと一緒にそちらに顔を向ける。

「あの頃は想像出来るようで出来なかったからなあ」

また昔を思い出したのか懐かしむようにどこか一点を見つめる大地さんと「今日赤葦も来ててさ〜」なんて赤葦くんの話をし始める木兎さん。そんなふたりが話している最中、聞き役をしていた鉄朗くんがふいにこっちを見る。

「なまえ、迷わないで来れた?」
「ちょっとだけ迷った!」
「スゲーじゃん」
「へへっ」

褒められた。照れちゃうな。もっと褒められたいという下心から孤爪くんにも電話しなかったことを伝えると「えらいえらい」と全肯定。また褒められた!照れちゃう。

「ハッ!!」
「?」
「鉄朗くん!これ、お願いしますっ!!」

ガバッと頭を下げて突き出した両手には真っ白な色紙。仕事中だから無理かもしれないと思っていたけど、この雰囲気ならいける気がした。

「サインください!」
「え、俺?」
「これはファンレターですっ!」
「どうも」

色紙と一緒に数日前に書いたファンレターも渡す。ペンを握った鉄朗くんは一度爆笑してから色紙にサインっぽいものを書いてくれた。これが鉄朗くんのサイン…!!受け取り、それを宙に掲げているとそれに気付いた木兎さんがやって来てはサインを見て驚く。黒尾もサインあったのか!?と。

わいわいと昔を懐かしむ人達は多く、しかしそんな時間もあっという間。選手達は戻らなくてはならない。木兎さんと鉄朗くん。ふたりが歩いていく後ろ姿を見つめながらボソリと呟いた。

「また翔陽くんととびとびのコンビ見たいなあ」

隣に大地さんがいるからだろうか。心のままに言ってしまった。ふたりがコートを挟んで違うチームにいるのは新鮮でわくわくが止まらなかったけど、やっぱり同じコートに並んでいる姿をもう一度見てみたい。そんな思いから無意識に口から出てきたこと。

「すぐに見れるよ」

そう言った大地さんの眼差しは強く、でもどこか楽しそうで、主将の顔をしていた。












それから数年。孤爪家にて。

「わー!いらっしゃい!!虎、福永くん、犬岡くん!!」
「…もう俺は何も言わねえ」

お前が当たり前のようにここにいたって何も言わねぇ…という虎の呟きと共にお邪魔します!と元気良く挨拶をする犬岡くんと静かにボソリと言う福永くん。
今日は夜久先輩がロシアから来るということで皆で鍋パーティー。モデルとして活躍中のリエーフも遅れてなら参加出来るということで、久しぶりに会う面々にソワソワが止まらない。私は一足先に来て準備をしていた。


「おい、研磨手伝え!」
「俺は現在進行形で場所の提供を手伝ってる」

鉄朗くん、夜久先輩、リエーフ以外の皆が集まり準備をする中、何もせずこたつにいる孤爪くんに虎が叫ぶ。夜久先輩を空港まで迎えに行かなくていいのかという虎の問いに、海さまが渋谷に寄ってから来るからと答えた。渋谷…!リエーフの!!

「黒尾さんは?」
「仕事で遅れるんですよね?みょうじさん」
「そう言ってたよー!」
「鍋の準備ができた頃、来るだろうな」
「ふふっ」

芝山くんに聞かれ答えた時、海さまの言葉に納得し思わず笑いが溢れてしまった。

「ねえ、福永がめっちゃウマいパエリアつくった」
「!?美味しッ!?美味しい!福永くん天才!!虎も食べて!」
「なんでだよ!?これから鍋の準備しようって時になんでだよ!!?……うまあ!?」

手際良く作られていたパエリアは見た目も味も最高。

「福永くん!!弟子にしてください!!」
「(コクリ)」
「やったあ!花嫁修行っ!はっなよめしゅっぎょう〜!!」

両手を頭の上で大きく叩き福永くんの周りをチョロチョロ走る。すると「変わんないね」「高校に戻った感じ!」「うん、楽しいね!」という球彦くんと犬岡くん、芝山くんのやりとりが微かに耳に入る。

「みょうじ、走り回んな!!……んあ?研磨、鍋どこだ?」
「えー…みょうじどこだっけ?」
「そこの右から二番目にあるよー!」
「なんで知ってんだよ!?お前ここに住んでんのかよ!?なんでだよ!?」

再び大声を出す虎に、今日もキレがあるなぁと呑気に考えながら本格的に鍋の準備に取り掛かった。




「出来たー!!」

その叫びと共に玄関の扉が音を立てて開く。

「あ!おかえりなさい、鉄朗くん」
「ただいま」

そう言い、テッテッと駆け足で玄関へと向かう途中、後ろから虎と海さまが「ここ、あの二人の家じゃないっスよね?研磨ん家で合ってますよね?」「うん、合ってるよ」と言っているのが聞こえてきた。

「ご飯にする?お風呂にする?それとも私ですか!?」
「んー?じゃあ、」

そこまで言って一度止めてから私の耳元へ自分の口を近づける鉄朗くんは誰にも聞こえないよう小さく囁いた。

「夜になまえを貰おうか」

吐息の混じりの色気たっぷりの声。こんなの耐えられるわけもなく。

「っ、ぐ、はっ…」
「お」

上体からそのまま倒れ込み、鉄朗くんの胸へポスッと収まる。しっかり受け止められたその時、後ろからまた懐かしの声が。

「おい。さっさと入れ、詰まってんぞ!」
「夜久先輩!!お久しぶりですっ!」
「おー!久しぶりだな。元気してたかー?よしよし」

鉄朗くんの腕からスルリと抜け夜久先輩の方へ向かう。スーツ、そして額にはサングラスをかけてるお姿は男前な上にイケメンだ。頭を撫でられていると、部屋から続々と現れる後輩達。ここにいる全員が最上級生という立場を経験しているけれど、やっぱり黒尾先輩達の前では後輩なんだとしみじみ思う。



それから暫くして。鍋の中身は皆の体の中へ旅立ち、最後のしめを準備している時、リエーフがやって来た。これで皆が揃ったと本日何度目か分からない盛り上がりを見せ、楽しい時間が過ぎてゆく。

「にしても、黒尾とみょうじ何年目?まさかこのふたりがくっつくとは俺が高2の時なんかは想像もつかなかったわ」
「今年で8年だな」
「俺は直ぐに両想いって気付きましたけどね!」
「あー…卒業式の時な、まさかリエーフに気付かれてるとは思わなかったわ」
「みょうじさんが髪をショートにした時くらいから知ってましたよ!」
「遅ぇだろ!そん時、皆気づいてたわ!!」
「え!」

ゲラゲラ爆笑する夜久先輩に驚くリエーフ。懐かしい、このやりとり。

「誰よりも早く気付いてたのは研磨じゃないか?」

黒尾含め、と付け加える海さまにまたも驚きを露わにするリエーフは「研磨さん怖い…」と口元に手を持っていく。

「俺は合宿の時に気付きました」

そう言うのは虎。それに続いて福永くんも頷き、芝山くんと犬岡くんも同意するよう首を縦に動かす。

「はあ!?芝山も犬岡も気付いてたのかよー!?手白は?」
「……俺はみょうじさんが初めて部室に来た時」
「!!」

み、皆、凄い。私より早い…。数年越しに知った事実に驚きが隠せないでいると、海さまが「ふたりが幸せで俺は嬉しいよ」と言ってくれるから途端に目頭が熱くなった。

「ぅぅ…皆さん、大好きです…」

皆に会えて良かった。音駒のマネージャーになって、こんな素敵な人達と仲間になれて良かったと何度思ったか分からないことを数年経った今も思う。

「孤爪ぐんっ…マネージャー誘ってくれてありがとうね」
「うん……うわっ」

ひとり、しめを食べていた親友は私の顔を見て顔を引きつかせる。泣いては、ない。我慢しているんだ。その顔が変なのだろう。鼻水も垂れてきそうだ。

「ほら、なまえ。ティッシュ」
「ありがど…」

高校時代だったらティッシュを渡すのは親友の孤爪くんだったと思う。いつもの何気ないやりとりだけど、このメンバーでいると少し違和感を感じ、今更ながら私は大好きで大好きで仕方がなかった黒尾先輩の恋人なんだと実感する。


「うっ、好きです。結婚してください…」


昔みたいに、あの時と同じように求婚をする私に周りは、付き合っても言ってるのか、と言った表情で優しく見守る。しかし、その顔も鉄朗くんの言葉で一瞬にして崩れた。


「すんだろ。結婚」


その一言に騒がしかったこの空間が一瞬にして静まる。シーンと数秒沈黙が流れた後、どっと湧き出る驚きの声。無意識で発してしまった鉄朗くんは「やべ」と小さく零し、きちんと「来月籍を入れることになった」と報告をすると、皆は困惑しながらもお祝いの言葉をくれた。

「お前っ、知ってたのかよ」
「うん」
「!まぁ、知ってるわな!!」
「元々今日言うつもりだったらしいし」

この中で唯一知っている孤爪くんは組んだ腕をテーブルの上に置いて皆の様子を眺めていた。そして、一言。「良かった」と息を吐く。それはおめでとうとはまた違った安堵が含まれたもの。きっと高校2年の時にした"10年後"の約束を思い出しているんだと思う。

皆に祝われる中、すーっと息を吸い込んだ。


「わたくし、みょうじなまえは…」


あの頃の私はきっと想像もつかないだろう。将来こんな幸せなことが訪れるなんて。


「黒尾なまえになりますっ!!!!!」



fin.