勉強の仕方がわかりません

「ほんっとあそこで倒れなかった私を褒めてほしい!」
「……」
「なにがどうって言うのは2人だけの秘密にしたいから、教えられないんだけどね!ごめんね!」
「……」
「でもこれだけは教える!私の「肩はクロのもの、でしょ」」
「何回言うの、それ」

そう言って孤爪くんは、ため息をついた。何回目だろ?確かにたくさん言っちゃってるなぁ!何度言っても収まらない!!今の私は何がきても立ち向かえる気がする!!いや、気がするじゃない。立ち向かえるんだ!何にだって打ち勝てる自信があるわよ!!

「それより、大丈夫なの?……テスト」
「……はっ」







何にだって打ち勝てる。そう思った矢先、打ち勝てない相手が目の前に現れた。そして、今から孤爪くん家でお勉強タイムだ。
テスト期間になると部活時間が短くなったり、休日が休みになったりすることがあるらしい。その休日。孤爪くんの部屋に来ていた。根が優しい私の親友(仮)は、嫌がりながらも勉強を教えてくれる。高校に入学してからずっと。

だが、今日はいつもと違うところがある。

「く、く、くくくくく……くく黒尾先輩が何故ここに…!」

そう。孤爪くんの部屋に入ると黒尾先輩がいたのだ。勉強を教えるのが上手いらしく来てくれたみたいだが、先輩も聞いてなかったみたいで驚いていた。

「クロ、成績良いし、教えるの上手いから丁度いいじゃん」
「またそうやって、丁度夕飯できたから食べてきなみたいに言う」
「……」
「お前が勉強教えてっつーから珍しいって思ってたけど、こーゆうことだったのね、納得。…俺は別にいいけど、大丈夫か?あれ」
「く、くく黒尾先輩の私服…ラフな格好…密室…」
「………」



そんなこんなで孤爪くんの粋な計らいで黒尾先輩に教えてもらえることとなった。いつもここで勉強するのは理数系の科目。出来るところを解いて、わからないのをまとめて聞くという流れだ。暗記系、文系は孤爪くんに出そうなところを教えてもらってひたすら覚える。

馬鹿な私が毎回全ての教科を追試にならない理由は、親友(仮)の怖いくらい当たる予測のおかげだ。たまに問題文すら当ててしまう孤爪くんに秘訣を聞いたら、授業を聞いていたらわかる、あの先生はこういう人だから、と言っていたのに対し、拝む様に膝を立てたら睨まれた。

そんな孤爪くんはベットに座り、テレビゲームをしている。そして、黒尾先輩と一対一で数学を教えてもらっているが、私は馬鹿だ。


「みょうじちゃん、どうやって入試突破したの…」
「それはもう熱が出るくらい勉強をしましたっ!!本当に受験後は、一週間寝込みましたねっ!!」
「いや、そんな自慢げに言われても」

取り敢えずここは、と間違えたところを指摘してくれる先輩の教え方はとてもわかりやすい。

「ていうかあれ。気になんねぇの?」
「?」

ようやく1問解き終わると、ゲームをしている孤爪くんの方を顎で指す。気にならないの、とはゲームの音のことだろうか。

「全然です!寧ろ静かだと色々と考え込んでしまうので、うるさい方が集中できます!!いつもこんな感じなんですよ〜」
「あ、そう」

先輩から問題集に目を移すが、さっきの応用問題なのかさっぱりわからなく手が止まり、うーんと唸るように考え込む。そうしていると、ふいに頭上に重さを感じてそれが先輩の手だと感触でわかった。ガシッと頭を掴まれるから、こんな使えない脳を破壊しようとしているのか!?それとも、バレーがやりたいのか?!今持っているのはボールじゃないぞ!!と焦る。

「え…っーと…」

意外に強く乗せている先輩の手に頭は持ち上がる訳もなく、目線だけを少し上げる。そこにはこの間のリップ事件の時と同じで真顔。

「…お、悪ぃ」

視線に気づいたのか、「丁度良さそうなボールだと思ってな」なんてニヤニヤしながら手を離してくれた。

「そういや、髪伸ばしてんの?前は短かったよな」
「え!先輩、短い私を知ってるんですか?!」
「…まあ。1年の頃から研磨と一緒にいたろ」
「そんな前から…!過去の私が羨ましい…!!!しかし、私はロングの女になると決めたのです!!黒尾先輩のタイプのロング女になるように!!」
「…は?」
「あ、ちなみになんですけど、黒髪ストレートのロングですか?ゆるふわな感じですか?髪色はどんなのがタイプですか?前髪は「ちょちょちょっと、待て!!」……?」
「え、なに。髪伸ばしてんのって俺のタイプがそうだから?」
「はい!」
「……。…はぁぁぁぁぁぁ」
「え、…え?」

手で顔を覆い、大きなため息を吐く姿に意味がわからなく慌てた。も、もしかしてため息をするほど嫌だったのか!?

「せせせせ先輩が不快に感じたら、髪切ります!!……でも、いつでも伸ばせるようにちょこっとだけ」

髪を持ちこれくらいと見せるように言うと、先輩は机に頬杖をつきそのまま肘を滑らせて私の顔を下から覗き込むようにして言った。

「この髪はもう俺のだからだーめ」

普段とはまた違って甘めの声で毛先を触った。

ゴンッ

「え」
「胸が苦しい。先輩の顔見たらエロキュン死する」

この人は人間なのかと思わせるくらいのエロとイケに机に額をぶつける。それを見て、ゲラゲラ笑い「顔上げねぇんですかー」と私の髪をくるくる回す。

「もう!こんなことしてる場合じゃないんですよ!!」
「うおっ。急な切り替え」
「先輩との距離が新たに縮まった記念として、写真を撮ってもいいですか?!」
「こんなことしてる場合じゃないんじゃねぇのかよ」
「ささっ、いいですか?」
「いいですケド。……え、俺単体?」
「?…そうですけど?」
「なにその常識ですけどみたいな言い方。こういうのは…」
「え!!わっ!」

そう言って私のスマホを取り、持った方の腕で肩を抱き寄せるようにしてカメラ画面をこっちに向ける。先輩の腕の中にすっぽり入っているのが画面でわかるのが凄く恥ずかしい。え、これ匂いをかいでもいいってこと…!?でも、まってその前に心臓が破裂する恐れが。
そんなことを考えてるとは知らず、合図と共にシャッター音が鳴った。

「はっ!!先輩とのツーショット…!!イケメン、カッコいい、色気が収まっていませんよ!!それに比べて、私は半目!!」
「ぶっひゃひゃひゃひゃ!!!…かわいいかわいい。それ欲しいから連絡先教えてくんね?」
「いいのですか?!」
「いいのです」

わあ!!かわいいと頭を乱暴に撫でられ、黒尾先輩の連絡先まで教えてもらえた!!今日は何の日!?私が生まれた日なのか!?幸せすぎる!!孤爪くんに報告を。

「孤爪くんー!!え、あれ?いない」
「研磨ならみょうじちゃんが応用問題に苦戦してるくらいからいねぇぞ」
「うそっ!!」

気がつかなかった…!孤爪くんの居なくなった気配に気づかないなんて!!悔しがりながらドアの方を見るとタイミング良く開いた。

「下までみょうじの声、聞こえたんだけど。勉強進んでるの」
「孤爪くん!!あのね、あのね。……さっき黒尾先輩の(写真)がね、私の中(スマホ)に入ってきたの。繋がったの(連絡先)。一つになったの。お赤飯だよ!今日はお赤飯」
「………」
「誤解を招く言い方はやめてクダサイ。研磨クンもそんな汚物を見るような目で見ないでクダサイ」

何もしてないからね!無実だからね!!と両手を上げる先輩に首を傾げた。







無事?に勉強も終わり、テスト当日。

「なんっっっっっでぇぇぇぇぇええ!!!せっかく、黒尾先輩が教えてくれたのに…!」
「逆に何でテスト範囲間違えるの」

テスト範囲を間違えてました。