勘違い


インターハイ。稲荷崎高校はそれぞれ部員達が力を発揮し勝ち進み、明日が勝っても負けても最後の試合となる。

夕方。セット数は普段の練習試合よりも少ないものの公式試合というものはかなり体力がすり減るものだ。バスの中、力なく窓際の椅子に座る治は宿泊施設に向かう途中、信号待ちで一時停止をした瞬間、視界に入ったものに目を見開いた。

「(は、?みょうじさん……?)」

背もたれに寄りかかっていた上体を起こし、窓に手をついて外を見る。こんなとこに居るはずがない。ここは県外で、それも兵庫からかなり離れてる場所や。夏休みに入ってずっと会ってないから幻覚が?と眉間に皺を寄せてこちらに歩いてくるみょうじの方をガン見する。

そのみょうじは気付くことなくバレー部が乗っているバスの横を歩く。フォーマルな格好。髪をアレンジして、少しメイクもしていて普段より大人びて見える姿に目が離せない。
それよりもその隣にいる見た目が親世代の男と楽しそうに話す好きな人に頭が混乱する。父親ではなさそうで、親戚にしては少し距離があるような。というか、にやにやと笑うその男はみょうじを女として見ているような気がしてならない治は、なんやねんあいつとおじさんに対して嫉妬心を抱く。

信号が変わり、バスが発車しても視線はみょうじと男に向いていて。最後に見えた二人はホテルに入って行った。


「は?」




宿泊施設に着き、ぞろぞろと部員達がバスを降りる中、どんよりと魂が抜けたようにノロノロ歩く片割れに怪訝な顔を向ける侑。周りには聞こえないように小声で治に声をかける角名。

「……治、あのさ」
「角名も見たんか。……みょうじさんやったよな」
「似てる人とかじゃないの」
「本物やった。やって、首裏にホクロあったんやで」
「え」
「髪くくってたから見えたんや。ここにあるんよ、可愛ええよな」

視線は下を向きながら、人差し指でその位置をトントン叩く男に、引き攣る顔が隠せない角名は今まで不器用ながら好きな人を隠していた人物には思えないと、どう反応すれば正しいのかわからなかった。これ言ったこと覚えてねぇ落ちだな、と。
隣で、父親か親戚かそれとも彼氏か、とぶつぶつ言いながら考え込んだ後、「角名はどう思うん!?」と勢いよく振り向いて聞かれたため「親戚の人っぽいね」そう答えるしかない。そういうホテルではないにしろ角名は違う考えが頭を過るが、口には出さない。その代わりに出た言葉が「ベタ惚れじゃん……」である。もちろん、聞こえないように小さい声で。











「うわ。キツネかぁ」

八月中旬。夏真っ只中、ぎらぎらの太陽を浴びながら必死に何度も右へと手首を回す。今ので七回目。なぜ回すのか、それは今ガチャガチャをしているからで。
夏休み前、北さんにオタバレしたあの駄菓子屋さんに私の欲しいガチャガチャが置いてあったのだ。ブサカワというのだろうか、ちょっと……いや、かなりブサイクなうさぎのキーホルダー。それを手に入れるため何度もお金を入れてた。

推しが先日ブログに載せていたブサカワうさぎのキーホルダーは最近のお気に入りらしく。推しと同じ物が手に入るところにあるならやるしかないだろう。しかし、全八種もあるブサカワキーホルダーはなかなか本命が出てきてくれない。バイトをしているものの度々オタ活している私にはこれ以上やるのは金銭的に厳しい。出るかもわからない、もしかしたらここには入っていないかもしれない、そう思って次で最後にしようと決めた。

そして、回して出てきたのは三度目のペンギン。最初は可愛いと思っていたこの子に対し、ブサカワも相まって苛つきを覚える。肩をガクリと落とし、立ち上がろうとした時、背後から懐かしい声が聞こえた。

「みょうじさん?」
「……治くん」

アイドル関係でここにいるからドキッと心臓が跳ね上がったが、頑張って平常心を保とうとする。下の段にガチャガチャがあるため、しゃがみ込んで膝とお腹にたくさんのカプセルを抱えてる私を見て不思議そうにする治くんとは終業式前日以来に会う。約1ヶ月ぶりだ。

「欲しいのあるん?」
「うん、ちょっと……」
「どれ?」
「このうさぎの」

小さく、ほぉんと言って頷いた宮治はいつから見ていたのだろうか。欲しいのがあると気付いているということは出なくて落ち込む姿を見られていたのでは?そうだとしたら情けない姿を見せてしまったことになる。

今日はこれでお終いにすると告げてカプセルをゴミ箱に捨てに行った。出ない時は出ないのだ。またお金が貯まった時にでも……そう気持ちを切り替えて、治くんにさよならしようとしたらガチャガチャ特有の回す音がした。

「ちゃうな」
「は、え!?なにやってっ!?」

大きな体を沈め、ヤンキー座りをする治くんはもう一度お金を入れようとする。これは、まさかっていうか、自意識過剰ではない。もしかしたら、もしかしなくてもうさぎのキーホルダーを取ってくれようとしている。え、もう訳わかんない。何でこんなに優しいのか訳わかなんない。あ、宮治もこのガチャガチャをしに来たの?そんなわけないだろう。そう思って二個目の百円玉を入れようとする手を両手で掴んだ。

「!?」
「あ、あの。もしかして、うさぎのやつ取ろうとしてくれてる?」
「……」
「え、と……気にしないで、こんなのに使うなら好きな食べ物を買って欲しいというか」

ああ、もう。これだから前世の時から彼氏ができないんだ。できても長く続かないんだ。折角取ってくれるといっているのに、もっと気の利いた言い回しがあるだろう。相手にも気を遣わせてしまう、好意を無駄にしてしまう。だけど高校生に、それもハイキューキャラに、食べることが好きな宮治に申し訳なさすぎて、言葉を選ばずそのまま言ってしまった。こういった時は雰囲気が悪くなる気がする。またやってしまった、と治くんの顔が見れないでいると予想外な返事が返ってくる。

「こんなの、て。みょうじさんが欲しいもんは"こんなの"ちゃうで!!」
「え、」
「俺が取ったるわ」

悪い雰囲気は微塵も感じず、何故か闘志を燃やし気合を入れるから思わず手を離しまい、その隙にお金を入れてガチャッと回す。出てきたものを見て「フッフ〜」と漫画でしか見たことのない笑みを浮かべるものだから、胸が高鳴ってしまった。イケメンだもの。それからバッと勢いよくこっちに黄色のカプセルを突き出すからその中を覗くと目当てのうさぎがいた。

「!うさぎ……」

ほい、と渡してくれる。うさぎが出た喜び、そして治くんの言動諸々に色んな感情が込み上げてきてそれが顔をだらしなくさせた。

「ありがとう。凄く嬉しい」
「っ!!」

貰ったものを大事に両手で包み込み、顎あたりに持ってきてお礼を言うと、頭が取れるくらいバッと顔を逸らされる。そして曲げた腕で口を隠すその姿は何となく照れているように見えるが、そのことに対して今の私には深く考えることが出来なかった。それよりも後二回やってれば自分で当てれた、なんて失礼極まりないことで頭がいっぱいだった。

「これもやる」
「え、くれるの?」
「おん」
「ありがとう。実はこれ、二番目に狙ってたの」

目は合わないまま、一個目に出たであろうキツネのキーホルダーを渡してくれた。キツネは何故か雄と雌があり、私が引いたのは雌。治くんが持っているのは雄だ。この雄の方は少しハイキューグッズに似ていて欲しかったやつ。
テンションが上がっていた私は狙ってたと言い、少し意地悪くヒヒッと笑ってカプセルを横に振った。すると、こっちを向いた治くんは目を大きく見開いて、今度はしゃがんでいる足の間に頭をガクリと落とした。

「あかんっ、反則や反則……」
「反則?……ああ、これ返すね」
「ちゃう。そういう意味やない」

どういう意味?てっきり後から欲しかったと言うのは反則という意味なんだと思ったけど違うらしい。わからない。宮治がわからない。

「代わりになるか分からないけど、良かったらこれどう?」
「……」
「キツネなんだけど、雌の。やっぱりいらな「いる。めっちゃいる」本当?良かった」

手のひらにそっと置くと、宮治はキーホルダーを見ながら嬉しそうに目を細め口元に弧を描く。う、わ。イケメン。

「みょうじさんはこういうん好きなん?」
「いや、私がっていうか。好きなアイドルが持ってて」
「アイドル?」
「うん。アイド……!?!?!?」


なんということだ。眼福〜とほわほわしていたら、北さんにも頼んで隠していたことがぽろっと口から出してまった。

宮治がかっこいい顔をするから。なんて人のせいにして。