嫌いになって
あの宮治に告白をされた。
信じられない。
信じられないけど、宮治は本気だった。
本気だからとても困るのだ。
付き合えない。好きにはならない。気持ちは変わらないと言った。あれで告白の返事は終わりだよね?振って終わりってことでいいんだよね?友達のままで、的な感じで普通は終わりだよね?
それなのに、告白をされたあの日から宮治が毎日絡んでくる。どこにいても、付いてくるのだ。
隠れ場所。宮治にバレなければよかった。バレてなければ今頃、あの場所で上手く避けれたのに。多分、本気で私が嫌がったら近づいては来ないと思う。だけど、甘い考えで、弱い私にはそれが出来ないのだ。宮治を傷つけることも自分が傷つくことも。それに、この世界で存在を認めてくれたのは宮治、たったひとりだから。
だから、私が嫌われればいいんだと思う。そのために、今私達しか知らないあの外階段で治くんが来るのを待っている。毎日、必ず来るから今日も絶対来る。
だけど、ただ待っているわけではない。嫌われるための行動。優しい宮治が嫌がること。それをずっと考えていた。そして、出た答えがひとつ。
食べ物を粗末にすること。
私の周りにはたくさんの食べ物が散りばめられている。どれも一口くらいしか食べていないおにぎりやパン、デザートにお菓子。それらが中途半端に開いて置いてある。流石に捨てるなんてことは出来ないから、捨てるフリをして家でこっそり食べようと思う。
もうお腹がいっぱいで食べられない。食べれないのに次から次へと新しいものに手を出す。これはもう捨てると言って我儘を言えば流石の宮治も、は?ってなるだろう。
ガチャッと扉が開いて、目当ての人物がやってきた。治くんの方を見上げると、彼は大きな目をパチクリさせた。一つずつ食べてから開けぇや、なんて言うだろうか。しかし、そんな言葉は出てこなく。
「祭りか?!」
「は?」
「いや、お菓子パーティー。ちゃうな、食いもん祭りか!」
「……」
ひとりで何しとんねん、俺も誘ってや!とキラキラ目を輝かせる治くん。ぐっ、笑顔が眩しい。ってそうじゃなくて!
「これは一人で食べるから。治くんのはない」
「……」
「でも、食べれないから捨てる。全部は食べ切れないけど、いろんな種類食べたいから」
「……」
そう言って、新発売のポテチを豪快に開けて、口に放り込む。治くんが祭りとか予想外なことを言うから苦しい言い訳になる。なんで、怒らないの?とりあえず、食べれないけどあげない、捨てるというのは伝えることができた。酷いでしょう?ケチでしょう?あげないなんて。
ボリボリ、ポテチを噛み続け、治くんの存在を無視するかのように一人で黙々と食べる。すると、私の目の前にしゃがみ込んだ治くんは自分の足に頬杖をつき目を細めた。
「可愛ええなぁ」
「!?」
どこが!?なんで!?混乱と動揺、目の前にあるイケメンに顔が赤くなる。視線を逸らすこともできず、放心状態でいると、もう一度「みょうじさん、可愛ええ」なんて言ってくる。
困る。これが凄く困るんだ。宮治が気持ちを伝えてきたあの日から、こういうふざけた発言ばかりをしてくる。困るんだよ、その顔で。それに、声もかっこいいんだから。だって、プロの声優なんだよ!?
自分が凄く悪いことをしている気がする。それに馬鹿馬鹿しくなってきた。だから、ついさっきの発言を撤回してしまう。
「治くんも食べよう」
「!……ええの?」
「うん、既に開けちゃってて美味しいか分かんないけど」
「美味しいに決まっとる。みょうじさんがくれたもんや」
「………そう」
今までだったら「そう。良かった」なんて気軽なく言えたけど、今は軽々しく言えない。
どれを食べるか迷っている治くんに私が絶対に食べ切ることの出来ない、一口しか食べていないプリンを渡す。それを嬉しそうに受け取り、美味しそうに食べ始める。
「……あ、間接キス」
「!?!?」
気にしなかったことも気にしてしまう。治くんからしたら、好きな人と間接キスじゃん。なんて他人事のような、何様な考えを思ったまま口に出すと、体を大きくビクつかせた治くんはスプーンの上に乗っていたプリンを落とした。
「あ、落ちた」
「っみょうじさん」
「ああ、ごめん」
気にせず使って?と言ったら「無理や……」と返される。「でもスプーンないし」って伝えると顔を赤くしながら、そのまま食べ始めた。
「っはぁ〜〜」
大きな大きなため息を吐く。嫌われようと昨日、実行した食べ物粗末作戦は失敗に終わった。宮治の嫌がることってなに?ファンブックにそんな情報はなかった。
「サムに付き纏われとるらしいな」
「侑、くん」
机に項垂れるように伏せたら、上から聞こえたイケメンボイスにバッと顔を上げた。滅多に後ろを向かないし、勉強を教えてから前よりは話すようにはなったけど、勉強以外で声をかけられる事はない。
話し出した侑くんはどうやらあの現場を見ていたらしい。銀島くんと角名くんと一緒に。最悪だ。その事実を知り、私の気分は更にガタ落ちしているのにも関わらず、宮侑は「ご愁傷様」と楽しんでるように見えた。「サムに好かれるなんて自分、運ないなぁ」と言われるが、あなたの片割れじゃないですか。どうにかして、とそこまで言える間柄ではなく、ぐっと口を閉じる。
「侑くんってさ、治くんと何で喧嘩するの?」
「?……なんやろ、そんなんいちいち覚えとらんわ」
「そうだよね」
「……」
「じゃあさ、何したら怒るか分かる?」
「なんや、怒られたいんか」
そうゆう趣味なん?とかなんとか引きつった表情をされたから違うと答えると、何かを感じ取った侑くんは「ほぉん……」て意味深に呟き「俺に任せとき!」と何故か立ち上がった。
え、なに……??
その翌日の昼休み。
友人とお昼を食べ終えた後、朝侑くんに来て欲しいと呼ばれた場所へと向かう。誰もいない空き教室。そこで待っていると、ガラッと勢いよく扉が開いた。
「お!みょうじさん、これやこれ!!盗んできた!」
「え……?」
一仕事終えたような笑顔でやって来た侑くんの手には制服のジャケットとプリン。そのプリンには大きく"治"の文字が。嫌な予感がする。
「サムに付き纏われて困ってんねやろ?嫌われるんが手っ取り早いもんなぁ」
「……」
「これ着てこのプリン全部食うたら、あいつきっと怒り狂うで」
「え、ちょっと!?」
「これだけは食うなって殺気立たせて言うとったんや」
ドヤ顔で治くんの制服を上から着させられた。え、待って。色々と混乱で頭が回らない。これ治くんのジャケットだよね?それに、宮侑に着させられたんだけど。
「一年ん時、サムのこと好きな女があいつの制服かジャージか盗んでてん。ほんで流石にそれには、盗みはあかんて機嫌わるなってたから、これでいけると思うで!」
「ちょっと、これは……」
「ほんでこのプリンで決まりや!」
いや、このプリンで決まりや!じゃなくて。
「持ってきてくれたのは嬉しいんだけど、汚しちゃったら申し訳ないから」
「ああ、こんなん捲ったらええねん」
「いや、捲ったらシワになる!」
「元からシワくちゃや」
そう言って、治くんの制服の袖を丁寧に折り捲ってくれる。着ている状態で捲ってくれているから、距離が近い。乱暴そうなのに、意外と丁寧に私の手に触れないようにしてくれる侑くんは思ったより人でなしでもないと思った。まったく失礼なことを考えてしまった。
長い指にちょっとゴツゴツした男っぽい手。爪は長くはないけど綺麗に揃えられてて、ネイルモデルになれるんじゃ?なんて考えると同時に、この手でスパイカー達に最高のトスを上げてるんだ。手だけではないけど、ここにいっぱいの努力が詰まっている。私には想像もつかないほど、ボールに触れた手。それが今ここにあると思うと、恐れ多い気持ちと愛おしさで一生懸命捲ってくれる手にそっと触れてしまった。
「綺麗だね」
「……」
捲り終わった侑くんの指、その後に爪の形をなぞるように触れた後、お礼を言うため顔を上げる。そこには、治くんとはちょっと違うきょとんとした顔。大きい目を更に大きく見開いている。それを見て、自分の失態に気づき、「ごめんなさい!!あ、ありがとう!」とプリンをちゃっかり持って空き教室を出た。
「サム……同情するわ」
不覚にも少しだけドキッとしてしまった侑は胸に手を当てて、片割れに同情した。みょうじが好きなことに理解に苦しんだが、今日初めて納得できた。
「好きにはならんけど」
またやらかした。それも宮侑に。怒られるのが怖くて逃げてしまった。「何触っとんねん、クソブタが」とか言われたら泣く。心折れる。
逃げ込んだいつもの外階段で、無意識に治くんのプリンをバクバク食べる。半分食べたところで「あ」と冷や汗をかいた。
まずいまずい。どうしよう。食べたふりして、後でちゃんと返そうと思ってたんだ。どうしよう。体育座りをして身を縮こませ、プリンを持って固まる。
ガチャッ
扉が開く音がしてロボットのように首をギギギッと動かした。
怒られる。そう思いながら治くんに目を向けると、ただただ彼は固まっていた。私が着ている自分の制服と、手に持っている自分のプリンへ視線を動かすだけ。それが耐えられず、勢いよく立ち上がった。
「さ、三個パックじゃないやつ!!三個パックじゃないプリン買うから!ごめんなさい!!」
春高の烏野戦で宮侑に言ったこと。それを思い出し、口に出して物凄いスピードで頭を下げる。視界に入るのは、階段のコンクリート。そこにいきなり銀髪の頭部が映り込んで、治くんがしゃがみ込んだということがわかった。
「俺を殺す気か……」
「え」
殺す。動揺している私には"殺す"の言葉しか聞こえず、殺される?私、殺される?と思考が止まった。
「あの。ご、ごめんな……さい」
流石に現役運動部に殺されると言われたらただでは済まない。声が震える。そんなことをしないって分かっているけど、今私の頭の中は混乱状態だ。でも、これで嫌われた。と少しホッとした。
「ほんまやで。これ以上みょうじさんを好きになったら抑えきかん。我慢できへん」
ほんま可愛さで殺す気か……と続ける治くんに、そういう意味か。聞き間違えか。と冷静になる。
ていうか、侑くん。これ逆効果じゃん!!!
「そのプリン食べてええよ」
と微笑んで、頭を撫でる宮治に思いっきり顔を逸らした。
「いい。半分あげる」
「……(間接キス!?)」
顔を背けながらまるで自分の物かのようにプリンを渡す。間接キス、とテンパる宮治には気づかなかった。
「フッフ。あいつ今、テンパっとる頃やな。自分の制服、あんなブカブカに着られんの相当クるやろな」
プリンは嫌がらせだが、制服は楽しんで着させた侑だった。