宮城ではない


十六年間、前世の記憶を持って生きてきて分かったことがある。

まず、ここはハイキューの世界だということ。私は転生したのだということ。それを知ったのは、たまたまテレビで春高の中継がされてて、そこで小さな巨人を見つけたのとその学校が烏野だったから。
あとは近くに稲荷崎高校が存在していたことだろう。他にもたくさんあった。

私の両親は関東出身の人間で、仕事の都合により兵庫で生活をしている。両親が標準語であるから私もこっちの方言にならなくてもなんの違和感もない。
仲の良い両親と二つ歳下の妹、小学三年生の弟の五人家族。何不自由ない生活をしている。

漫画は好きだが、前世みたいな感じではない。その理由は、漫画に注いでいた熱が違うところに向けられているからだ。
向けられたのは、アイドルグループ。前みたいに現実が見えなくならないように、先ずは二次元から三次元へと考えた私は動画をあさった。そこで見つけたのが、ハマりにハマっているアイドルグループ。けれど、アイドルを好きになっても現実は見れない気がした。だから、男のアイドルではなく、女の子のアイドルを見続けた。そして今から二年前、それは運命的に最高の推しに出会ってしまったのだ。

ライブに握手会、チェキ会など様々なイベントに参加。高校に入学したら即バイトをしてお金を稼いだ。
私は今、最高に充実している気がする。






「………」

やっぱり大きいなぁ。授業中、黒板の文字を写そうと前を向くが、目の前には大きな壁があり、なかなか見えない。ハイキューの世界でも、この世界でも有名な宮侑の背中だ。机に伏せて寝ていることが多い彼だが、今はちゃんと起きてノートに書き込んでいる。
まさか、こんな主要人物と同じクラス、ましてや前後の席になるとは思わなかった。そもそも学年が被るなんてことも気に留めなかったため、興味本位で稲荷崎を選んだのだ。
トリップしたいとずっと願っていたが、いざそうなってみると案外普通。スポーツ漫画だからかな。漫画でやってたシーンは一度も見たことない。マネージャーとかになれば話は違っていたかもしれないのかも……。前世の時とあまり生活は変わらないし、漫画の世界ではかっこ良くても、実際見たら流石イケメンとしか思わない。そんな宮侑とは、一年生の時から同じクラスで今年も同じ。といっても、話したことはほとんどない。

だって、喧し豚がーって言うんでしょ。純粋にバレー馬鹿なのは知ってて悪い人ではないのも知っているが。そう、仁花ちゃんの言葉を借りるなら、私は村人Bなのだ。彼女みたく、村人Bでも戦えるなんてかっこいい事は言えない。

何故なら、面倒臭いから。




「ツム、教科書貸してやー」

そう言ってやって来たのは双子の宮治。侑くんの方が忘れ物をしてそうなイメージだが、治くんの借りに来る頻度は高い。去年の秋くらいから増えた気がする。
毎回ブツブツ文句を言い、帰りアイスな、などと何か要望するふたりのやりとりはこのクラスのちょっとした名物。私もそれは面白くてぼんやり眺めてしまう。だって、あのふたりの声が。声がそのまんまだもの。あの声優のまんま。

耳が幸せ、と毎回聞いていたが、侑くんと席が前後になってからは治くんと目が合う回数が増えた気がする。増えたっていうか毎回目が合う。あなたの目に私が映り込んでいいのか。そう思ってすぐ逸らしてしまう。

「……」
「……」

ほら、また今日も。侑くんが机の中をガサゴソ、文句を垂れながら漁っているとき、治くんの視線を感じ目を向ける。昨日は遅くまでバイトをして疲れていたため、イケメンを補給と私は目を逸らさずじぃーっと見すぎてしまった。そのせいか初めて治くんの方から目を逸らされた。

あれ?なんか、かわいいかも。

もともと侑くんよりもおっとりしてるなとは思っていたけど、これは母性本能を擽る的な反応だ。そんなことを考えていると、侑くんが「あかん、俺も忘れた」と呟いた。

「は?」
「は?やないねん!お前はいっつも忘れよって!俺は午後の授業やからな、角名に借りる」

多分、治くんは次の授業。タイミングが悪く、銀島結はトイレに行っていてまだ帰ってこない。あと数分で授業が始まり、他のクラスに行っている時間がない。更に、借りようとしていた教科の担当は忘れ物に対して厳しい。何故、その教科を忘れたんだ。一方的とはいえ、治くんのことはハイキューを読んでて好きなキャラだ。怒られるのは可哀想と思い、自分の教科書を差し出した。

「使う?」

席に座ったまま後ろから声をかけると、侑くんは振り返り、治くんはきょとんとした顔をする。わ、同じ顔のイケメンがふたつ。

「……ええの?」
「うん」
「ありがとう。終わったら直ぐ返すわ」
「うん」

当たり前や!と声を上げる侑くんを無視し、急いで自分の教室へと戻って行った。その後、治がすまんなと私の机に腕を置いて謝る侑くんに、「全然」と応えた。


初のお喋り。なんか、感動。







お昼休み。治くんは教科書と一緒に購買のプリンを持って来てくれた。

「え、くれるの?」
「おん」
「ありがとう」

宮治という人間は食いしん坊で、誰かに食べ物をあげるイメージがない。これは私の勝手な想像だけど。まさか教科書を貸したくらいで、貰えるとは思ってなくて素で驚いてしまった。
いつも合う治くんの目は今は合わず、ずっとプリンを見てる。食べたいの?

「良かったらこれ食べる?人が作ったものとか食べれない?」
「食える。……貰うてええの?」
「うん。味は保証するよー」

へらりと笑って手作りのマドレーヌをひとつ渡す。そしたら、あっちも少し目を細めて笑う。うっわ、顔面凶器。ほな、とお礼を言って出て行く治くんに、イケメン怖いと改めて思い知らされた。 

あのマドレーヌの感想、今度聞きたいなあ。
会ったら聞こうと心に決めるのであった。




ちなみに、私のハイキューの推しは及川徹である。